第1章3話『アイムとハーブ園の誓い』
【異世界:プェサの館・キッチンと庭園】
愛梨は、ベリトとフォラスに手を引かれ、1階にあるキッチンの重いドアを開けた。
「うわぁ……広い!」
そこは執務室に劣らないほど広大な空間だった。銀色に輝く調理器具が壁一面に吊るされ、中央には巨大な石造りの調理台が鎮座している。現実世界のどのレストランよりも清潔で、しかしどこか異国の香辛料の匂いが漂っていた。
「ヘヘッ、どうっスか主様?俺の城っスよ!」
アイムは誇らしげに胸を張る。彼の口調はフランクだが、厨房に立つ姿は真剣な料理人の顔をしていた。
「ここは俺と、他の料理人たちが交代で食事を作る場所っス。主様のために、いつでも最高の料理を用意するっスから、遠慮なく言ってくださいね!」
「ありがとう、アイムさん。すごいのね。じゃあ、早速だけど、ハーブのことで相談に乗ってくれる?」
愛梨は目を輝かせながら尋ねた。
「ハーブっスか?もちろっス!俺、ハーブとかスパイスにはめちゃくちゃ詳しいっスよ。館の近くにある温室とか、庭の隅っこで結構育ててるんス」
アイムは愛梨の質問に飛びつくように答えた。
ベリトは、愛梨がキッチンの椅子に座るのを確認し、静かに後ろに控えた。
「主様。ハーブ栽培自体は良い趣味でしょう。ですが、危険な作業は避けてください。庭園は広く、悪魔の残滓が残っている場所もあります」
ベリトはあくまで愛梨の安全を最優先する。
「大丈夫よ、ベリト。私、ただのお飾りでいたくないの。この館に、そして皆に、私の力で何かしてあげたいの。この子たち(フォラスとフォカス)のブローチを癒やすためにも、私の温かい心が必要なら、それを形にしたいの」
愛梨は真剣な眼差しで、フォラスとフォカス、そしてベリトを見つめた。
「主様……!」
愛梨の決意に、フォラスは感動したようにベリトの制服の裾を掴んだ。
(ベリト)『……なんと眩しく、そして愛おしい。**だが、この優しさは、必ず誰かの標的になる。彼女を危うくするそのすべてから隔離し、私が、誰よりも近くで彼女を守り、囲い込まねば……』
「わかったっス!じゃあ、場所を見に行きましょ、主様!俺が秘密の場所を案内するっスよ!」
アイムは愛梨をキッチンの裏口へと案内した。
裏口を出ると、夜の静けさの中、広大な庭園が広がっていた。月の光石が照らす一角に、アイムが案内したのは、古い石壁に囲まれた、小さなエリアだった。
「ここっス。前は薬草を育ててたんスけど、手入れが間に合わなくて荒れちゃってるんス。でも、ここなら日当たりも風通しも最高っス!」
「素敵ね!ここで育てたいわ」
愛梨は荒れ果てた土を見ながらも、未来のハーブ園を想像してワクワクした。
「愛梨様。ハーブはただの香草ではありません。この世界では、病の治療、魔力の安定、そして悪魔王の魔の気配を遠ざける魔除けにも使われます」 ベリトは、愛梨の頬にかかった髪をそっと払いのけながら、**庭の静寂を吸い込むように深く息を吐き、**耳元で静かに囁いた。
ベリトは、愛梨の頬にかかった髪をそっと払いのけながら、耳元で静かに囁いた。
「主様の手で育ったハーブは、この館にとって、私たちが想像する以上に、大きな希望となるでしょう」
愛梨は、ベリトの真剣で、しかし甘い囁きに呼吸を忘れるほどドキリとした。夜の寒さとは違う、熱い何かが頬に集まるのを感じた。
「うん、ベリト。わかったわ。私、頑張る。この場所を、みんなの力になるような、愛と安らぎに満ちたハーブ園にする!」
愛梨の決意を聞き、フォカスとフォラスは嬉しそうに**「わーい!」と声を上げて、猫耳をぴこぴこさせながら**飛び跳ねた。
「主様、すごーい!」
「俺たちも手伝うっスよ!」とアイム。
こうして、愛梨は異世界での初めての使命――プェサの館のためのハーブ栽培――を、忠実な執事たちと共に始めることになったのだった。




