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昼飯を奢る(シュウ)

「シュウ、あったわ! 私の番号があった!」

 掲示されている数字と受験票を見比べ、合格を確かめたサクラが声を上げる。

「サクラ、おめでとう」

 はしゃいでいるサクラにお祝いを言うと、黒い瞳がうっすらと潤んできた。

「ありがとう。本当に嬉しい」

 嬉しそうに俺を見上げてくるサクラは、かなり周りの目を引いていた。受験生の殆どは男で、羨望と嫉妬、そして、邪な眼差しを向けてくる。こんな所は早く立ち去ろう。


「これからどうする?」

「後日、合格証が郵送されてくるから、手続きはその後ね」

「三か月の研修を受けなければいけないんだったな。その後進路を決めるんだよな。サクラは弁護士希望か?」

「そうよ、司法院の講師で王都一の弁護士事務所の所長から、受かったら面倒を見てやると言われているの。しばらくそこで厄介になるわ」

「そうか。本当にサクラが弁護士なんて務まるのか?」

「任せなさい」

 ちょっと心配だけど、サクラは頑張り屋だ。何とかなるだろう。今回の受験でも、本当に寝る間も惜しんで勉強していた。

「合格のお祝いだ。昼を奢ってやる」

「弟に奢ってもらうの?」

「俺は既に働いて給金をもらっているからな。飯ぐらい奢れるぞ」

「それじゃ、今日は奢られておく。そのかわり、私がちゃんとお給金をもらえるようになったら、今度は奢るからね」

「わかった。楽しみにしておく。ちょっと下町まで歩くけど、大丈夫か?」

「ここら辺では駄目なの?」

「第五に近いから、ここら辺の店には騎士がよく来るんだ」

 裁判所と第五騎士隊の駐屯所は目と鼻の先だ。

「お姉さんと一緒だと恥ずかしい?」

「まぁな」

 それもあるけど、サクラが姉だとばれたら、紹介してくれと先輩騎士たちがうるさそうだから。


「そんなに珍しいか?」

 きょろきょろと辺りを見渡しているサクラに問う。

「昨日もこんな所を通ったなと思って。バルドさんと一緒に」

「また、バルドの話か? あいつの事は忘れろって。もう会うことも無いだろう」

「バルドさん、ちょっとお父さんに似ていたわよね。本当に美形だった。あんな人が私なんかを相手にしないことくらいわかっているわよ」

「いや、サクラが相手にしたら駄目だって。あんな奴のこと」

「いくら私が厚かましくても、無理に相手して欲しいなんて言わないから、大丈夫よ」

 そういう意味じゃないんだけどな。溜息をついていると、突き刺さるような視線を感じた。

 振り返ってみると、仲間を数人引きつれたバルドが俺を睨んでいる。


 元の世界で理系の大学に通っていたという母は、十九歳の時にこの世界に落ちてきた。まだ大学に入学して一年ほどしか経っていなかったので専門的な知識はないとのことだったが、それでも、この世界に多くの科学的な知識や技術をもたらした。それだけではなく教育や司法制度、産業等、様々な情報を教えたという。

 そして、この世界は急激に変化している。以前なら、バルドのような悪餓鬼は、騎士がしょっ引いてお仕置きをすることができたんだが、今では、裁判所の令状が無ければ逮捕できない。徒党を組んで悪さをしているのがわかっているのに、なかなか手が出せない。本当にもどかしい。


「サクラ、こっちだ」

 俺は、バルドを睨み返し、サクラの腕を引いて定食屋に向かった。


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