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合格発表(シュウ)

 ようやく家に帰り着いた。待っていた母も安堵したようだ。

「仕事から帰ったらサクラがいない。遊びに行ったという友達の家に行ってみたら、随分前に帰ったと言われ、本当に心配したんだぞ」

「シュウ、ごめんなさい。でも、バルドさんにいきなり剣を突き付けるなんて、やり過ぎだと思うわ」

「犯罪を未然に防ぐのも、俺たち騎士の仕事だからな。危険予防のための抜剣は許されている」

「だから、バルドさんは私を助けてくれて、その上、家まで送ってくれようとしていたの。危険な人ではないわ」

「サクラは騙されているんだ。あいつはまだ十八歳だと言うのに、地元のならず者どもを纏めていて、騎士隊に目を付けられているような奴だ。あんな奴に付いて行ったら、売り飛ばされていたかもしれない。最初に声をかけてきた男たちも仲間かもしれないぞ」

「えっ? バルドさんって、まだ十八歳なの! 私より年下……」

 何気に落ち込んでいるサクラ。母に似て小柄なサクラは、十九歳になっても十四、五歳にしか見えない。しかも、方向音痴だし、あんな危ない男を信用するし、全く世話が焼ける。

「二人とも喧嘩は止めなさい。サクラが無事で良かったわ。本当に良かった」

 そんなことを言いながらサクラを抱きしめる母。別に喧嘩はしていない。ただ、サクラの自覚がなさ過ぎて怖くなるだけだ。

「シュウもありがとう。サクラを探してくれて」

「当然だ。サクラは家族なんだから」


 第五騎士隊の隊長をしている父が帰ってきて、サクラが迷子になったことを知ると、サクラ一人での外出を禁止した。不満そうなサクラだったが、当然の処置だと思う。

「明日は司法試験の発表があるのよ。見に行かないといけないわ」

 サクラは学校を卒業した十五歳から法学院に入って司法の勉強をしている。先日司法試験を受験して、明日が発表日だ。司法試験の難易度はとても高い。合格率数パーセントというほど難しい試験だと聞く。

「仕方がない。シュウ、明日休みを取って護衛してやってくれ」

 父が俺に頼んできた。

「わかった」

 俺は父の言う通りすることを決めた。サクラは一人にすると危ないし、イゴールの奴らも気になる。明日休暇をとるのに異存はない。

「そんな、休んでまでついてこなくてもいいわよ。私一人で見に行けるもの」

「駄目だろ」

「サクラ一人では危ないわ」

「無理だな」

 父と母、そして、俺の声が重なった。


 翌日になった。天気は悪くない。

「サクラ、合格発表を見に行くぞ」

 俺が促しても、サクラの機嫌が悪くてぐずぐずしている。

「弟に付き添ってもらうなんて、大人として恥ずかしいわ」

「危険な目に遭うよりましだろ」

「そうかな? そうかも」

 不満そうではあるが、サクラは素直に頷いた。


「そっちじゃないぞ」

 途中で全く違う方向へ行こうとするサクラ。やはり一人にはできない。

「わかっているわよ」

 絶対にわかっていない。


 何とか裁判所の前まで着いた。玄関横の掲示板に合格者が張り出されている。その前には十数人が群がっていた。

横の木の下では泣いている男がいた。合格した嬉し涙か? それとも、不合格の悔し涙か。

司法試験は年一回しか行われていない。落ちれば再受験は来年まで待たなければならない。しかも、受験回数も決められているらしい。かなり厳しい試験なんだ。

サクラは今年が最初の挑戦なのでまだ余裕があると思ったが、掲示板のかなり手前で立ち止まってしまった。俺を見上げるサクラの目は不安そうだ。

「ちょっと怖い」

「一回目で合格する奴なんかそんなにいないと聞いた。落ちたら来年また受ければいい」

「そうだよね。まだ一回目だもんね。でも、怖いからシュウが見てきて」

 サクラから数字が書かれている受験票を渡された。弟同伴は恥ずかしかったんじゃないのか? まぁ、いいけど。

「見て来てやるよ」

 掲示板の前まで行く。俺は父に似て目は良い方だ。受験番号と見比べると、なんと同じ番号があった。


「サクラ」

 目を閉じているサクラに声をかける。昨日心配させた仕返しに、沈んだ声にする。

「やっぱり、駄目だった? 面接は山が当たったと思ったのだけれど……」

 唇を噛み締めるサクラ。ちょっと苛めすぎたか。

「受かっていたぞ。サクラも確かめてこい」

「本当?」

 嬉しそうに掲示板の前へ走って行くサクラ。そして、困ったように振り返る。

「受験番号覚えていない。受験票を頂戴」

 サクラは相変わらずだった。サクラは弁護士志望だったはず。こんなんで本当に大丈夫なのだろうか?


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