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第八章 置き去りの愛

――足を失った私を、彰親様はなお「美しい」と言った。

けれど、日を追うごとに彼の目からは熱が消えていった。


最初は優しかった。

枕元で手を握り、「お前がいればいい」と微笑んでいた。

だが、それも長くは続かない。


ある日、彼はふと呟いた。


「君の声があれば、それでよかったのに……」


胸が冷えた。

声だけ。

私自身は、もう要らない――?


数日後、屋敷に客人が現れた。

裏社会の男たち。

その眼差しがいやらしく私を舐めるように見たとき、全身が総毛立った。


彰親様はその前で、私を歌わせた。

「ほら、君の声を聴け。これは誰にも真似できない、私だけの宝だ」


彼らは拍手を送り、にやにやと笑った。

私は籠の鳥のように、ただ歌わされた。

歌えば歌うほど、彼らの笑いは深まり、彰親様の瞳は虚ろになっていった。


(私は……商品になったのだろうか)


胸の奥が焼けるように痛む。


そして、その夜だった。


彰親様は私に背を向け、低く言った。

「……もういい。ここまでだ」


「……え?」


「君を守ることに疲れた。足を失った君を見ていると、心が乱れる。

僕には、もっと大きな力が必要なんだ。

君を抱えたままでは、その力を掴めない」


私は耳を疑った。

「……私を、捨てるの……?」


彼は振り返らなかった。

「済まない。……でも、君の声だけは忘れない」


その言葉が最後だった。

彼は去った。

私を、この薄暗い一室に置き去りにして。


――絶望は、怒りに変わった。


愛していた。

すべてを捧げた。

足さえ失った。


それでも、彼は私を捨てた。


涙が熱となり、身体を焼く。

高熱にうなされ、意識を失いかけたそのとき――私は自分の喉の異変に気づいた。


声が、変わっている。

響きが深く、鋭く、心の奥に突き刺さるような……何かを揺さぶる力。


同じ病室に寝ていた、衰弱した少年に試しに歌を向けた。

優しく、過去を忘れさせるように。


すると彼は、安らかな顔で微笑み、両親のことを口にせず――まるですべてを忘れたかのように、静かに息を引き取った。


私は震えた。

歌で、人の記憶を奪える。

心を操れる。


「……これが、私に残されたもの……?」


声は呪いであり、刃だった。

愛を奪った彼を呪い、そして奪い返すための力。



こうして少女は、愛を失い、足を失い、声を得た。

それは魔女の誕生の瞬間だった。

彼女の名は――ソルシエール。

愛の名を借り、歌で人の心を壊す存在。


復讐はまだ始まっていない。

だが、その火はもう燃え上がり、消えることはなかった。

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