第七章 失われたもの
――痛い。
その感覚で目を覚ました。
足に鋭い焼けつくような痛み。
視界は霞み、鼻をつく血と鉄の匂い。
「ゆかり……ごめん、ごめんな……!」
涙を流す彰親様が、私の足元に跪いていた。
彼の手には、鋭い刃物。
そして床には、私自身の血。
――理解できなかった。
どうして。なぜこんなことに。
「君は、僕を愛しているはずだろう。
ならば、証を見せてくれ。身体の一部を失っても、僕を選ぶと言ってくれ……!」
狂気に満ちた声。
それはもはや、私が知っていた彰親様のものではなかった。
私は叫ぼうとしたが、声は震え、嗚咽に変わった。
足元から押し寄せる痛みと絶望に、意識が遠のいていく。
目を覚ました時、両足に感覚はなかった。
重い包帯に覆われた膝から下――そこには、もう何もなかった。
私は声にならぬ叫びを上げた。
自分の身体を見下ろし、絶望に引き裂かれる。
「……ゆかり。君はまだ、美しい」
ベッド脇で彰親様が微笑んでいた。
その眼差しには、哀れみでも悔恨でもなく、ただ歪んだ愛情だけがあった。
「足を失っても、君は僕のものだ。
逃げられない。ずっとここにいるしかない。
それなら……ずっと僕を愛してくれるだろう?」
私は答えられなかった。
答える代わりに、涙が頬を伝い落ちた。
それからの日々は、地獄だった。
歩くこともできず、ただ籠の中に座り続ける私に、彰親様は歌を強いた。
「声さえあればいい。足なんて要らない」
彼の言葉が刃となり、心を切り裂いた。
それでも私は歌った。歌うしかなかった。
だがそのうちに気づいた。
私の歌が、彼をますます狂わせているのだと。
彼は泣き、嗤い、うなされるように私を抱き締め、やがてまた暴力に手を伸ばす。
歌えば歌うほど、彼は壊れていく。
そして同時に――私自身も、壊れていった。
こうして、少女は愛の名のもとに身体を奪われた。
しかしその痛みと絶望の中で、彼女の声はますます妖しく輝きを増す。
それはもはや歌ではない。
愛でも慰めでもない。
人の心を支配し、狂気へと導く「呪い」となりつつあった。
やがて、ゆかりは知ることになる。
この声こそが、自分の唯一の力であり――唯一の復讐の武器であることを。




