第六章 鳥籠の愛
窓の外は、季節の移ろいさえ見えぬ格子の影。
朝も夜も、私にはただ同じ四方の壁しかなかった。
彰親様は毎日、必ずやって来た。
そして必ず、こう言うのだ。
「歌ってくれ。私だけのために」
私は従った。
声を失えば、私には何も残らない。
それに――拒めば、彼の瞳がすぐに冷たい怒りに染まるのを、私はもう知っていた。
歌えば、彼は笑う。
泣きそうな顔で「お前しかいない」と繰り返す。
そのたびに、胸の奥が痛む。
(どうして。どうして、こんな形に……)
かつて夢見た未来は、愛おしさは、すべて鳥籠の中で腐り始めていた。
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ある夜。
私はうっかり歌詞を間違えた。
その瞬間、彼の手が飛んできて、頬に鋭い痛みが走った。
「ふざけるな。心がこもっていない」
「私を馬鹿にしているのか」
私は震えながら首を振った。
「……ちがう、そんなつもりじゃ……」
しかし彼は許さなかった。
強く手首を掴み、壁に叩きつける。
鈍い衝撃に息が詰まり、視界が滲んだ。
「お前は私のものだ。逃げることも、裏切ることも許さない」
私は床に崩れ、ただ涙を流すしかなかった。
けれど、彼は次の瞬間、私を抱きしめて泣き出したのだ。
「すまない……怖がらせたな……でも、愛しているんだ」
その言葉が、一番苦しかった。
愛という名で暴力を塗り替えるその声が、私を深く縛った。
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日々は繰り返された。
歌い、怯え、涙し、また歌う。
彼の欲する「愛の形」を満たすために、私は声を捧げ続けた。
しかし、彼の満足は長く続かない。
「もっとだ……お前の心を、体を、すべて私に委ねろ」
彼は次第に苛烈さを増し、時に傷を与えることで私の忠誠を確かめようとした。
血を流す私を前に、彼は嗤ったのか泣いたのか――もうわからなかった。
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こうして、少女は籠の中で少しずつ壊されていった。
しかし同時に、彼女の声の力もまた、静かに膨らんでいく。
痛み、恐怖、絶望。
そのすべてが歌に混じり、男の心をさらに絡めとっていった。
そして――その絡みつく愛は、やがて「欠落」というかたちで頂点を迎えることになる。




