第五章 再会と監禁
その夜も私はカフェーで歌っていた。
煙草の煙に霞む空間で、客たちのざわめきを沈めるように声を響かせる。
人々の顔が穏やかになっていくのを見ると、恐怖よりも、不思議な快感が胸に広がった。
――私はもう、声なくしては生きられない。
歌い終えた後、いつもより妙に静かな視線を感じた。
暗がりの奥、背筋を伸ばした男がひとり。
その気配に、私は体が凍りつく。
「……ゆかり」
その声に、心臓が跳ねた。
振り返れば、あの人――彰親様が、こちらを見ていた。
逃げようとした。
けれど足は動かず、ただ震える唇から息が漏れるばかりだった。
「なぜ……」
「探した。どれほど……」
彼の瞳には涙と狂気が入り混じっていた。
私は恐怖と恋しさの狭間でもがいた。
「どうして……あの日、私を……」
問いかけるより早く、彼の腕が私を掴んだ。
抵抗する間もなく、私は連れ出されていた。
---
気がつけば、豪奢な屋敷の一室に閉じ込められていた。
窓は厚い格子で覆われ、扉には外から鍵が掛かっている。
まるで鳥籠。
「ここなら安全だ」
そう言って彰親様は微笑んだ。
「もう誰にも傷つけさせない。お前は私のものだ」
私は震えた。
それは恋の言葉ではなく、呪いのようだった。
最初の数日は、彼は優しかった。
食事を運び、歌をせがみ、幼子のように私の声に耳を傾けた。
けれど次第に、その優しさは歪み始めた。
「なぜ、笑わない」
「なぜ、泣く」
「私を愛しているだろう?」
答えられない私を見て、彼は怒りに駆られ、頬を打った。
「忘れるな。お前は私を裏切ったのだ」
血が滲む唇を押さえながら、私は悟った。
――この人は、私を愛しているのではない。
私を、自分の傷を埋めるための「玩具」にしているのだ、と。
それでも心のどこかで、まだ微かな愛情が残っていた。
あの日の傘の温もりが、消えずに残っていたから。
だからこそ苦しかった。
夜ごと、彼は私に歌を強いた。
そして、私の声が彼の心を支配するのを、自分でも感じていた。
――ならば、この声で彼をも縛り返せるのではないか。
その芽生えた思いは、まだ小さな炎に過ぎなかった。
だが、それは確実に私を変えつつあった。
---
こうして、再会は愛ではなく監禁という形で訪れた。
鳥籠の中で、少女は歌い、男は狂い、二人の関係は泥沼へと沈んでいく。
やがて、その歪んだ愛は、さらなる地獄の扉を開くことになる――。
(




