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第十五章 暴かれる檻

私は満ち足りていた。

桐生家を崩し、彰親様を檻に閉じ込め、愛の折檻を繰り返す日々。

声は私の力。

歌は私の武器。

そして彼は私の囚人であり、恋人であり、贖罪者だった。


けれど――その均衡は長くは続かなかった。


ある日、屋敷に踏み込む影があった。

桐生家の親族のひとり、かつて私の歌で心を壊した男。

彼は憔悴しきった姿で警察を連れてきた。


「この女だ……桐生家を滅ぼしたのは……この女だ!」


私は笑った。

「滅んだのは、あなた方自身よ」


だが、彰親様は私の背後で震えていた。

彼の体は痩せ細り、声は掠れて、ただ私の名を呼ぶだけの人形になっていた。

その姿を見て、警察はすぐに察した。


「監禁……虐待……」


冷たい声が部屋に響く。



殺してはいない。

だが、彼女が関わった者は皆、精神を蝕まれ、正常な生活を送れなくなっていた。

その「生き地獄」は、殺人以上に恐ろしいものと映った。


私は連れて行かれた。

鎖をかけられたのは、今度は私自身。

彰親様が泣きながら手を伸ばした。

「……ゆかり……行くな……」


私は微笑み返した。

「大丈夫よ、私たちは繋がっている。歌がある限り、誰も切り離せない」


取調室で、私は何度も問われた。


「なぜ殺さなかった?」


私は答えた。

「殺してしまったら、悲しみは伝わらない。

 私が味わった喪失を、誰も分かってくれない。

 だから私は彼らを壊したの。心を、記憶を、愛を」


刑事は顔をしかめた。

「……悪魔め」


私は首を振った。

「違うわ。私は魔女。

 ソルシエール。

 愛の名のもとに生きるだけ」


やがて私は裁判にかけられることになった。

新聞は「歌声の魔女」「囚われの華族」「洗脳の女」と見出しを踊らせた。

世間は私を怪物と呼び、またある者は哀れな女と呼んだ。


けれど、どちらでもいい。

私はただ、愛を貫いただけなのだから。



大正の世にあって、科学は未だ彼女の「力」を証明できなかった。

洗脳などという言葉は、まだ夢物語の領域。

だが確かに、彼女の歌は人々を狂わせ、壊していった。


ゆかりは裁かれる。

だが「声」という証拠は形にならず、死刑は免れる。

彼女に言い渡されたのは――長き禁獄刑であった。


私は傍聴席に彰親様の姿を探した。

やつれ、涙に濡れたその顔が、私に向かって小さく口を動かした。


「……あいしてる」


私は微笑んだ。

「私もよ。だから大丈夫。檻の中にいても、私は歌える。

 愛は、永遠に囚えられない」

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