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第十三章 崩れゆく家

私はもう一人の男を追い詰めるのに飽きていた。

彰親様ひとりでは足りない。

正妻も、親族も、私の声に溺れ、狂い、壊れていった。


けれど、まだ足りない。

私を「無価値な娘」と嘲り、彰親様を奪ったのは――家そのもの。

桐生という巨大な影。

ならば、私はその影を切り裂かなければ。


親族が集まる夜会に、私は足を踏み入れた。

艶やかな和装の女たち、軍人に繋がる男たち、財を誇る老人。

彼らはみな私を見て、薄ら笑いを浮かべる。


「まだ、この女が屋敷にいるのか」

「桐生家も落ちたものだ」


私は微笑み返す。

「ええ、落ちているの。もっと深く、もっと醜く」


歌が広間に響いた。


「疑え」

「隣に座る者は敵」

「血は裏切り、家は呪い」


最初はざわめきだった。

だがやがて互いを睨み合い、声を荒げ、椅子を蹴る音が響く。


「お前が財を横領したのだろう!」

「いや、裏で女を囲っているのはお前だ!」

「軍への賄賂は誰の指示だ!」


広間は混乱に包まれ、親族同士が罵り合い、掴み合う。


私はその光景を、足を失った身で静かに見下ろしていた。

胸の奥で熱が弾ける。

これが復讐。

これが私の愛の形。



桐生家は表向き、華族の威光を保っていた。

だが裏ではすでに軋み、腐敗し、ゆかりの声が最後の楔となった。

一家は互いを疑い、憎み合い、もはや誰も信じられなくなっていた。


彰親様はその場にいた。

彼は両手で耳を塞ぎ、必死に私の歌から逃れようとした。

「やめてくれ……ゆかり……これ以上は……」


私は微笑んだ。

「まだ終わらないわ。あなたが私を捨てたあの夜の痛みは、これでは埋まらない」


私は歌を強めた。

「愛は檻。家族は牢獄」

「互いを壊し、永遠に囚われなさい」


叫び声、泣き声、怒号。

華族の家は、たった一人の女の声で、崩れ始めた。


夜会が終わる頃には、誰も正気を保ってはいなかった。

兄弟は互いを殴り、姉妹は憎悪の言葉を吐き、老人は錯乱し、次代を担う者たちは膝を折って泣き叫んでいた。


私はその中を静かに通り抜けた。

「これで、少しは分かったでしょう。私が味わった絶望を」



彼女は殺さない。

だが、生きながらに死より深い闇を与える。

それこそが、彼女にとっての愛の折檻だった。


桐生家はもう、かつての華やかさを取り戻せない。

家は生きたまま腐り、瓦解していく。

そしてその中心に立つ女は――魔女。

ソルシエール。

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