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第十二章 愛の形

彰親様は、もう私の前では逆らえなかった。

夜ごと歌に縛られ、心を砕かれ、私の膝で泣き続ける。

正妻も親族も、私の歌で狂い、家は混乱に沈んだ。


けれど――まだ満たされない。

足を失ったあの夜の痛みは、声で縛るだけでは癒せなかった。

私は、もっと深く彼を壊したかった。


ある夜。

私は彰親様の手を取り、微笑んだ。

「私の痛みを、あなたも知って」


小刀を取り出し、彼の指先を切り裂いた。

血が滲み、彼は悲鳴を上げる。

「やめろ……やめてくれ……!」


私は歌う。

「痛みを忘れないで。愛の証として」


彼の目が虚ろになり、やがて震える声で言った。

「ありがとう……ゆかり……」


私は恍惚とした。

痛みと愛を同じ器に注げば、人は簡単に狂う。

そして、その狂気こそ私の望みだった。



彼女の愛は、すでに常軌を逸していた。

殴り、傷つけ、壊すことが「愛の折檻」となり、

彼女の中で快楽と復讐がひとつに溶けていく。


次に私は、綾子夫人を再び呼び出した。

「あなたも夫に裏切られる痛みを知って」


彼女の腕に痣を刻みながら、私は歌った。

「その痛みは私と同じ。だからもう、私を憎まないで」


綾子夫人は嗚咽し、やがて私に抱きついた。

「……ごめんなさい、ごめんなさい……」


私は彼女の背を撫で、耳元で囁いた。

「いいえ。謝らなくていい。これで私たちは同じ女」


彼女の瞳は壊れ、愛と恐怖の狭間で揺れていた。


日を追うごとに、私は彼らを縛り続けた。

時に歌い、時に傷を与え、時に甘く抱きしめる。

殺さない。壊し切らない。

生かしたまま、愛と痛みに絡め取る。


「あなたは私のもの。死ぬまで逃がさない」


彰親様は涙を流しながら頷いた。

正妻も、親族も、次々と同じ言葉を繰り返す。


私は笑った。

これが私の愛。

これが私の復讐。



その屋敷は、もはや牢獄だった。

だが鉄格子はなく、鎖もない。

あるのは歌だけ。

声だけが人を縛り、壊し、従わせる。


魔女の歌に囚われた者たちは、皆生きながらに狂っていった。

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