第十一話 急いで、転んで、再会して
逃げ出したリビィ、探しているヴァーン、果たして再会できるのか? リビィの冒険譚、ご一緒に楽しんでくださいね!
リビィは必死に逃げていた。
元から足には自信がある。
実際、学校でもリビィは早い方であった。
それでも距離が長くなれば、それも追われているのであれば話が変わってしまう。
実際問題として大人の男性たちが彼女を捕まえるべく後方からの激しい足音が聞こえてきた。
このままだとまた捕まりかねない。
急がなきゃ!
せめて隠れる場所があるところまで!
焦る中、足がもつれてしまい、リビィはその場で転けてしまった。
「いったぁ……」
洞窟はゴツゴツしている地形のため、必然的にでこぼこが多い。
「あっちで声がしたぞ!」
「そうか、まだ近くにいるはずだからな」
そんな声が洞窟内から聞こえてくる。
当たり前なのだが、少女の足では大人には勝てるはずはない。
しかも相手はアゼルバインたちのような騎士なんだろうと判断したから尚更だ。
あんなのでも王子様。
それに付いてるんだから多分ね。
どうしたら……隠れる場所があればいいんだけど。
でもその場所を相手が知っていたとしたら袋小路になりかねない。
絶対に相手の方が有利だもん。
知らない場所で動き回るのもよくない。
でもじっとしているわけにもいかない。
行く方向だけは分かっているのが救いだけど。
そこまで辿り着けるかな。
その間にも不安がどんどん増していく。
「足、痛いけど頑張らないと」
唇を噛み締めて、リビィは決意する。
幸い骨が折れてるとかではなく、何とか動けはしたのでそこは安心できた。
「だけど、この足だと追い付かれちゃうよね」
心配はそこだ。
音を立てずに走るには無理があり、足の痛みがあるので引きずってしまいそうなのだ。
悩んでも仕方ない、動くしか!
テントの時は宝石たちが助けてくれたけど。
本当は一度、真っ先に出ようとしたのだが、その時にはびくともせず、ほんのちらりともめくれもしなかった。
それなのに宝石たちを持っていたら、あっさりと抜け出せたのである。
「やっぱりあれって魔法、なのかな?」
逃げ出すときに宝石が教えてくれた呪文を思い出す。
「『金色の乙女』か」
自分がそれだと言われてもさっぱり実感は湧かないのだが、そんなことを思っても事態は変わらない。
兎に角、上手く逃げないと!
その時、リビィの石が淡く光り、それに呼応するように緑の宝石も光り出して一筋の光となっていく。
それはリビィが行くべき行く方向を示してるのは明らかである。
「あっちへ行けばいいの?」
逃げ出せたときと同じようにほんのりと温かくなり、そうだと言ってるようだった。
「方向は最初に言っていたときと同じ、それでいいの?」
もう一度そう聞くと先ほどより光が強くなり、合っていると伝えてくる。
「分かった」
足元に気を付けながら、また追っ手の様子を気にしつつ、その場から動き出した。
「それにしても洞窟なのにここは明るいのね」
テントにいたときは気が付かなかったが、洞窟はとても明るい。
「あれかな、幽光の森の蔓たちとかと一緒なのかな?」
壁を見れば苔が生えており、それが光を放っているらしかった。
「明るいのは助かるけど、向こうにも見えやすいってことよね」
一長一短とはまさにこのことだ。
だからと言って真っ暗だったら走り逃げることすら叶わなかった。
「この光の通りに行くしかない」
そう決めてリビィは歩き出す。
走るのはリスクがあるので心は焦るが、それでも落ち着けと言い聞かせて進んだ。
声は聞こえてくるが、どうやら微妙に違う方向にいるらしく、地の国の追っ手たちとは遭遇せずにすんでいる。
この幸運がずっと続けばいいけど。
そう願う。
足痛いな……ひねったのかも。
それでも歩みは止めなかった。
宝石たちの導きは確実にリビィを救ってくれると信じていたから。
リビィが洞窟を進んでいくと大きな広間のような場所に出た。
「うわ、広い」
思わずそう言ってしまうくらいである。
「こんな場所あるんだ……」
きょろきょろと周囲を見回す。
もしかしたらこの洞窟の中心?
「通路がいっぱいあるのね」
ここで間違ったらえらいことになることはよく分かる。
「どの道を行ったらいいの?」
そう尋ねると光は鈍くなり、指し示していた光もなくなった。
「ここにいろってこと?」
リビィの石がそうだと示すように少し光り、温かくなる。
「うーん、分かった」
どういった意味かは分からないが、今まで石の言うとおりにして間違いはなかった。
そもそも無駄に動いても体力使うだけだし、ひとまず留まることにした。
「どのくらい時間経ったのかな」
ヴァーンは来てくれるだろうか?
あたしの居場所、知らせられたらいいのに。
「ねえ、あなた、それができる?」
思わずそう問う。
ここまで導いてくれたのならもしかしてと思ったのだ。
「あたしが『金色の乙女』とかって言うなら何か出来たりするのかな」
そう呟いたとき、リビィの石と緑の宝石が唐突に光り出し、広間を照らし出していく。
「え? え? え?」
驚くリビィを余所に石は光り続けるのだった。
‡ ‡ ‡
「ヴァーン様、やはりここで間違いないようです!」
一方、ヴァーンたちはヘルオパの洞窟に辿り着き、胞子の跡を確認していた。
「この先はヘルオパの洞窟には光る苔があるから胞子での追跡はここまでかな」
「そうですね、ただ微妙に光量は違いますから諦めるべきではないでしょう」
「うん、そうだな。先ずはヘルオパの広場を目指そう。あそこはこの洞窟を通るものは必ず通る場所だから」
「地の国にしてもそれは変わりませんから行きましょう」
「ああ、リビィは魔法の石を持ってるからそれで探せるといいんだけどな」
「それは素晴らしいですね。手がかりにはなるかと。レイリー!」
そう呼ばれた男性は騎士としては細身であり、アゼルバインやワーソンに比べると顔つきも中性的であった。
「はい、隊長」
「お前はたしかイギルばあさんから貰った石があったな?」
アゼルバインが確認するように聞くと、レイリーは頷く。
「ええ、師匠からお守りとして渡されたものでしたら。万が一の場合にはヴァーン様に渡すようと言われてもいます」
レイリーは騎士団において剣技ではなく魔法の才で秀でていた。
もともとイギルの弟子だったのだが、師匠であるイギルに騎士団に行くよう言われて、という経緯がある。
彼の魔法は攻撃ではなく、補助的なものが強い。
「ヴァーン様に? ふうむ、それで違う魔法の石を探すとか出来るか?」
「探索の魔法は得意ではありませんが、共鳴させることは可能かも知れません」
「共鳴?」
「はい、魔法の石というものは、同じ石から作られたものであれば、という前提ではありますが、お互いを呼び合うことがあるのです。ただ距離が限られているので……今までは申し上げることが出来ませんでした。申し訳ありません」
「いや、いいんだ。それでどうしたらいい?」
魔法は複雑で、万能ではないことはヴァーンは理解している。
「媒体があることで更にそれを強めることは可能です」
「それなら俺のこの石を使ってくれ。媒体になるかもしれない」
ヴァーンはそう言ってマントから自分が身に付けていた宝石を渡した。
「これには加護の魔法がかかってるものだからどうだろう?」
「使えると思います。ただ発動条件があるので、僕が補助しますのでヴァーン様が主体となっていただく必要があるかと」
「どうすれば?」
「魔石というのは持ち主に左右されることが多々あります。今回の場合であればヴァーン様とリビィ様には絆がありますのでそれを利用する形になります」
「絆?」
「はい、僕が見る限り、ヴァーン様とリビィ様の相性はとてもいいと思います。だからこそ石たちも同調できる可能性があるんです」
「同調……リビィの居場所が分かるなら分かった。やってみる。やり方を教えてくれ、レイリー」
「やり方はさほど難しくはありません。一番の問題はリビィ様が石を持っているか否かです。もしも地の国の連中がリビィ様が持っている石を取り上げてしまっていたらという場合もありえます」
「それでもリビィの居場所が分かる可能性の方が高いね。うん、リスクは避けられない。俺はやるよ」
「分かりました。それでは増幅の媒体にヴァーン様の宝石を使い、それを魔法の石と重ねるようにしてください」
ヴァーンは言われたとおりに自分の手に平に乗せ、自分の宝石とレイリーに渡された石を握り締めた。
「それでは僕がこれから同調の魔法を唱えますので、ヴァーン様は強く念じてください。転移の魔法が使えればいいのですが、僕には無理なのでその光を追う形になります。一度発動すればしばらくは持ちますのでその方向に我々は動きます」
「なるほど、我々はヴァーン様を追う形になるわけだな」
「隊長、その通りです。勿論地の国との連中と鉢合わせする場合もあるかとは思いますが、現在のところ、確実な方法はこれだけです」
「分かった、みんな、直ぐ動けるよう準備しておけ」
アゼルバインがそう命じ、騎士たちは言われたとおり直ぐに動けるよう体制を整えていく。
それを確認し、ヴァーンは行動を起こすことにした。
強く、強く念じろ!
リビィのことだけを考えて!
「頼む、頼むからリビィの居場所を教えてくれ!」
ヴァーンは必死にそう叫ぶ。
ヴァーン自身はあまり魔法の才はないと言われているが、それでも魔道具の使用方法など必要なことは学んではきていた。
反応してくれ、頼む!
「我が主の持つ石たちよ、彼の声に疾く応えたまえや」
レイリーが背後から同調の魔法をかけてくれていることを感じながら、ヴァーンはいなくなってしまった少女を思い出し、逢いたいと心から願う。
彼女への気持ちは特別なのだ。
それだけはよく分かる。
だから、だから――。
ヴァーンは焦りつつも石への問いかけを続けていると、しばらくして反応をはじめた。
ぼんやりと光り出したかと思うと、あっと言う間に途轍もない光量で辺りを包み出し、やがてそれは矢のように洞窟の中へと向かい、進むべく方向を指していく。
「あっちにリビィが?」
「そうであることを願いましょう」
「ああ、そうだな。行くぞ」
そう言ってヴァーンを先頭にして一行は洞窟の中へと向かっていくのだった。
‡ ‡ ‡
「ひゃ?」
突然、リビィの石と緑の宝石が光り出て焦っていたが、いくらリビィが石たちを抑えようとしてもそんなことは意味をなさなかった。
それよりもどんどん光は増していく。
ただ今度は少し様子が違う。
石たちが一方向を示していったかと思うと、今度はそれと同時にその方向から光が帰って来たのだ。
「え、反射した? 違うっぽいけど」
戻って来た光はリビィの石が発している色と少し違うと思った。
だとしたら、もしかしたら!
急いでそちらの方へ行こうとすると背後から突然声がした。
「見付けたぞ!」
「『金色の乙女』だ、ここだぞ、ここだ!」
「――っ!」
あれは地の国の人間たちだ。
見付かった、どうしよう。
ここでは隠れる場所がない。
通路に隠れればいいかも知れないが、石の光がそれを許さない。
「どうしたら……!」
リビィはますます焦るが、石の導きに従うなら行く方向は決まっている。
幸い、地の国の追っ手たちはこの大きな広間の反対側にいた。
少しは時間がある。
その間に動けばいい。
足の痛みを我慢しながら光の方へと歩き出し、何とか距離を稼ごうと必死になった。
その時、リビィの耳に届いたのは今一番聞きたい声だった。
「リビィ!」
その声の方を見るとそこにはヴァーンやアゼルバインたちがいた。
「ヴァーン!」
「リビィ、無事か?!」
「うん、大丈夫!」
来てくれた、来てくれた!
それがリビィにとって何よりも嬉しい。
が、背後からは地の国の追っ手たちが迫っていた。
距離は残念ながら地の国の方が近く、リビィは必死に逃げる。
足は痛いが、そんなことを言ってる場合じゃない。
ヴァーンのところまで行かなきゃ!
それだけを考えた。
ヴァーンの方もリビィが怪我しているのだと認識し、走り出す。
「アゼルバイン、地の国の連中を頼んだ!」
そう命じ、リビィのことだけを考えた。
距離が縮むが、それは地の国の追っ手にしても同じこと。
「レイリー、あいつらに捕縛の魔法はかけられそうか? 足止め出来るなら何でもいい!」
「やってみます!」
レイリーは命じられるまま魔法を唱え出す。
この場合、自分に出来るのは相手の速度を落とすことだろう。
「風よ、吹けよ、吹いて、我らに徒為すものたちの動きを封ぜよ」
すると地の国のものたちの間に風が巻き起こり、その足の動きを奪っていく。
それを確認しつつ、アゼルバインは次の命を出す。
「ワーソン、弓を引け! レイリーの補助を!」
「言われんでもやります!」
ワーソンはさっと弓を構え、地の国の追っ手を威嚇するために矢を何本も放った。
風から何とか逃れてもワーソンの弓が適確に彼らの足元に向けられるので動きがどうにも取れなくなっていく。
「後は俺に続け!」
アゼルバインはそう言い、騎士たちは隊長に従い、彼を追っていく。
ヴァーンは周囲の出来事を横目にしながらも今は目前の少女を助けることに集中する。
怪我したのか?
足を引きずってる!
あいつらが何かしたのなら許さない!!
ちょうどリビィを捕まられる位置に付きそうだった地の国の追っ手たちはアゼルバインたちが防いでくれたので、ヴァーンはリビィの元に辿り着くことが出来た。
「リビィ!」
そう言ってヴァーンはリビィを思いっきり抱き締める。
ちゃんとここにいる、いる!
「ヴァーンだ、ヴァーンだ!」
リビィはそう言って泣き出す。
今更だが、怖さが際立ってきたのだろう。
安心と一緒に涙が零れていく。
「恐かったよ……」
そういうリビィにヴァーンは切なくなり、相手に怒りを覚えた。
「大丈夫だ、もう俺たちがいるから」
「うん、うん……」
リビィは聞こえてくるヴァーンの鼓動に安心しながら、彼にしがみ付く。
ここまでは気丈に頑張ってきたけれど、当然十二歳の少女なのだからあんな目に遭えば恐いに決まっている。
それも異世界での出来事なのだから然も有りなん。
「な、何だ、お前たちは!」
いきなりの敵が現れて、地の国の追っ手たちは焦っているようだ。
それならより話は早い。
「貴様らこそ何者だ! この森の国に侵入するとはいい度胸だな」
アゼルバインはそう言い放ち、剣を抜いた。
ここはまだ森の国である。
即ち理も森の国あるのだ。
それはつまり彼らは去る以外の選択肢を持たないことの表れだ。
「ハドロス、貴様も分かっていような?」
追っ手の後から現れた男に向かってアゼルバインそう言った。
男に連れられているのは地の国の王子の一人であることは直ぐに理解する。
「アゼルバインか。分が悪いときたものだ」
ハドロスと呼ばれた男はそう言った。
リビィをヴィラドの妻にするとのたまった男だ。
「お前は俺様が王になるために妻として仕えるのが当然なんだよ! そうすれば俺は兄上を超えられる!!」
ヴィラドはそう叫び、リビィに向かって命じた。
まだ自分の立場が理解できてないのか、有利だと信じているのかは知らないが、彼女がそれに応えることはない。
「リビィは渡さない。アゼルバインの言葉が聞こえなかったか? ここは森の国だ。俺の国だ。お前たち、関所の札を持っているんだろうな?」
森の国と地の国は友好関係にあるわけではないので、互いの国を行き来するにはそれぞれの国の許可がいる。
それが関所の札というわけだ。
当然、彼らがそれを持ってるとは思えない。
「ヴァーン様の仰有るとおりだ。お前たちは正式な手続きを取ってはいまい。おとなしく去るなら見逃そう。リビィ様が、『金色の乙女』様が無事だったからな」
「ここは一旦そうする以外無さそうだな。捕まっても厄介になるだけと」
「ハドロス! あいつらを倒してしまえ!」
ヴィラドはなおもそう言うが、それは現実的な話ではない。
国と国の話にでもなってしまえばこの王子の未来はなくなる。
「ヴィラドロス様、今回は完全に失敗です。潔く退きましょう。我らの立場は不安定ですからご理解ください」
「ぐっ」
ヴィラドはそう唸り、地団駄を踏む。
納得できないときのくせなのだろうか。
それでも仕方ないと小さく答えた。
「今回は無礼を働いたが、貴様らがその少女を独占するのは許されない。きちんとしてもらおうか」
「それはお前が言うことではない。そもそも『金色の乙女』はものではないのだからな」
アゼルバインはそう言い、ハドロスの言葉を一蹴した。
「疾く去れ、地の国の者どもよ! このヴァーン・サイス=バウ=ム=ヴァルツェンの名において命じる!!」
それは絶対的な命令だった。
ここは森の国、そして彼はこの国の次代後継者なのだ。
その彼を怒らせたのだから当然の帰結である。
「ヴァーン様の仰有るとおり下がるがいいぞ」
アゼルバインはそう言い、攻撃態勢を解かないまま睨み付けた。
「ヴィラドロス様、機会はまだありますから」
そう囁き、小さい王子を説き伏せる。
実際、これ以上いても彼にいいことはない。
勿論ハドロスにも、だ。
「必ず、必ず――手に入れてみせるから!!」
ヴィラドはそう叫び、部下たちを連れて洞窟の道へと消えていった。
引き下がるしかないのは彼も理解していたのだろう。
完全に地の国の人間たちがいなくなったのを騎士たちが確認し、ヴァーンに報告する。
「撤退はしたようです。罠などもありません」
「そうか、よかった」
ヴァーンは泣いているリビィを撫でながらそう答えた。
「もう大丈夫だからな」
「うん、有り難う、ヴァーン」
涙を拭いつつ、いつものリビィらしく笑顔を浮かべ、そうお礼を述べる。
もう大丈夫なのだと本当に分かったからだ。
「それにしてもここは何処なの?」
「ああ、ここはヘルオパの洞窟って言ってね、地の国と繋がっているんだ」
「だから分かったの?」
「いや、そうだろうと思ったけど、確実になったのはリビィが残してくれた胞子の道だよ」
「あ、気が付いてくれたんだ」
「ああ、リビィってば嬉しそうに触ってたからね」
「だったら触っててよかった」
「うん、怪我の功名……って、リビィ怪我してたよね?」
彼女が自分の方にやってきた時に足を引きずっていたのを思い返し、リビィの足を見遣る。
「ちょっとね、転んじゃったの。急いで逃げようとして」
「頑張ったんだね、リビィ」
「恐かったけど、きっとヴァーンが来てくれるって思ったから」
「今、手当てを……」
そうヴァーンが言いかけたとき、不思議なことが起きた。
「ようこそ、『金色の乙女』、待っていました」
そんな声が聞こえてきた。
「え?」
「何の声だ?」
「ヴァーンにも聞こえた?」
「うん、聞いたことのない声だけど」
二人で訝しんでいると風景が突然歪んでいく。
洞窟にいるはずなのに周りがぼけていってしまう。
「ヴァーン様、リビィ様!」
突然の変化に驚きながらもヴァーンはリビィをしっかり抱き締めておく。
アゼルバインの焦る声が聞こえるが、それも遠い。
「分からないが、多分大丈夫だ!」
ヴァーンはそれだけを言い残し、そうしてリビィとともにその場から消えてしまったのだった――後に残るのは状況を掴めないアゼルバインたちのみ。
「……ここは気紛れな精霊ヘルオパの守護する場所だからな、不思議なことが起きても仕方ないが」
「ヴァーン様も仰有っていましたが、恐らくは大丈夫だとは思います」
「レイリー、何故分かる?」
「『金色の乙女』の伝説によると女神に会うことになってるらしいですから、もしかしたらそれが起きている可能性が」
「ああ、聞いたことはあるが、そうか、それならば待つしかないな。ヘルオパの悪戯かもしれんが」
アゼルバインはそう言い、彼らは主が戻るのを待つことにしたのだった。
リビィとヴァーンは誰に呼ばれたのでしょうか?




