忘れられた扉
鳥は困っていた。
お家の扉が閉じている。
入れない。
かしゃかしゃしても開かない。
呼んでも誰も来ない。
困った。
鳴き声をあげる。
誰も来ない。
…くるぅ…
思わず声が漏れた。
辺りを見回すが、真っ白なこの木の内側があるだけ。
あいつがつかうような小さな木はどこにもない。
ぴぃや?ぴぃー……
あいつの好きな甘え声を出して、辺りを飛び回る。
……返事がない。
あいつの好きな小さな部屋も、あいつがよくいく冷たい木の前にもいない。
暑い場所にもいない。
……木の外だろうか外の光を眺め、鳥は決めた。
軽く羽ばたき、光の方へ――……ぴぎゅ?!
不意に横から影が差した。
「お待たせ!ぴーこ、引っ越すぞ」
あいつだ。汗だくで、そいつは嬉しそうに言った。
家の扉が開き、中に入れられる。
柵越しに、鳥の家を抱えたあいつは、黒くてうるさくて、いつもみたいに揺れる木に入った。
ここは臭くて嫌いだ。
「さあ、新居は広いぞ。楽しみにしておけよ」
にんげんの楽しそうな声に鳥はほっとして、目をつぶった。