判断の重み
昼過ぎ、蒼鷹総合病院のMORUに出動要請が入る。
「郊外でバスとトラックの衝突事故。重傷者多数。現地では搬送困難と判断、即時出動を要請!」
「出るぞ。手術装備フルで。佳澄、同行だ」
神崎の指示に、日向佳澄は即座に防災用ユニフォームへ着替えた。今回は単なる見学ではない。彼女は戦力として招かれていた。
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事故現場は、破壊された車両と煙に包まれていた。
「バスの乗客に中等症者が複数。トラックの運転手が車体下に巻き込まれ、出血多量。出さなければ心停止の可能性あり!」
神崎がすぐ判断する。
「このままでは圧挫症候群で循環が止まる。切断しかない」
「私、麻酔入れます!」
佳澄の声に一瞬の迷いはなかった。彼女はもう、蒼鷹の現場の流れに自然に入っていた。
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現場での緊急下肢切断。簡易ながら本格的な手術が始まる。
「気道確保済み、麻酔導入完了。血圧95/62、脈拍122。出血急速に進行中!」
「柊、止血鉗子!葵、輸血パック!」
佳澄の手元が微かに震えたが、集中は途切れなかった。命が目の前にある。それが彼女の覚悟を支えていた。
「筋膜到達。あとは血管処理…急げ!」
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切断完了と同時に患者の心電図が乱れ始める。
「無拍動電気活動!アドレナリン投与!」
九条の声に合わせて、神崎が胸骨圧迫を開始。佳澄も酸素投与とモニター確認を行う。
「戻って…お願い…」
一瞬、すべてが止まったかのような沈黙。
だが次の瞬間、心拍が戻る。
「拍動再開!血圧70まで回復!」
佳澄の目から自然と涙がにじんだ。
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現場処置ののち、患者は搬送され、ICUに引き渡された。
控室で、誰もが無言のままコーヒーをすする。
神崎が、佳澄にだけ聞こえるように言った。
「今のお前の判断、あれが“医者の責任”だ。覚えておけよ」
佳澄は小さくうなずく。