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不自然な転送依頼

雨の降る深夜。蒼鷹総合病院のERに一本の要請が入る。


「近隣の第三次救急病院からの患者転送要請。外傷性脾損傷の30代男性、バイタル不安定。ヘリ搬送中、到着まで20分」


ERの医師が眉をひそめる。


「おかしいな…その病院、十分に止血対応できるはずなのに」


神崎拓真が駆けつけ、搬送経路を確認した。


「…本来なら自分たちで処置できる。しかも、このタイミングで蒼鷹に送ってくる? 意図的に難症例を押しつけてるように見えるな」


数分後、MORUのチームが搬送ヘリを迎え入れ、即座にオペ室へと移動。

患者は腹腔内に大量出血があり、即時の脾摘出が必要だった。


「脈拍120以上、血圧80切ってる!輸血間に合わないぞ!」


「腹部切開。損傷部位確認! 脾臓破裂、広範囲!葵、麻酔深く。柊、鉗子、リトラクター!」


手術は緊迫を極めたが、神崎の迅速な判断とチームの連携により、出血をコントロールし、命をつなぐ。



翌日。患者の容態は安定していた。


だが、神崎の胸に残る違和感は消えなかった。


「なぜ、あの病院は処置を放棄した?」


柊が資料を読みながら言った。


「この数週間、その病院からの“ややこしい”転送例が増えてる。あとから診断書を見ると、どれも対処可能なものばかりだ」


九条葵が静かに口を開いた。


「それってつまり、“蒼鷹なら何とかしてくれる”って押しつけてきてるんですよ。しかも確信犯的に」



その夜、チーフ医師・嶋崎真が会議室に呼び出される。


「近隣病院との関係を崩すわけにはいかない。うちは“地域の最後の砦”だ。黙って受けるしかない」


「でも、これ以上無茶な症例が続けば、うちの現場がパンクする」


「医師は政治に首を突っ込むな。それがトップの判断だ」


嶋崎は、何も言い返さなかった。



翌朝。MORU控室。


「…全部飲み込むのかよ、こんな理不尽な話を」


神崎が低くつぶやいた。


そのとき、ひとりの医師が部屋に入ってくる。


「神崎先生、ですよね。今日からこちらに研修で来ることになりました。日向佳澄ひなた かすみと申します」


彼女は、例の“症例を送り続けている病院”から来た若い外科医だった。


「あなたの現場を、自分の目で確かめたくて志願しました」


その瞳には、何かを見極めようとする強い意志が宿っていた。

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