命の現場、そして出会い
騒然とした工場現場での一連の救助活動は、無事に終わった。
重傷者はすべて搬送され、最後の患者もMORU車両内で手術を受けて安定した状態で病院へ到着した。
夕方、蒼鷹総合病院のMORU待機エリアでは、ようやく落ち着いた空気が戻ってきていた。
手術を終え、神崎拓真は水を一口飲むと深く息をついた。
「全員、お疲れ様。今日は厳しい現場だった」
医療用のスクラブ姿のまま、仲間たちは黙って頷いた。疲労の色が濃いが、それでも表情にはどこか充実感があった。
そんな中、柊仁志が立ち上がる。
「…このタイミングで、一つ提案がある。自己紹介、しておこうと思ってね。現場で命を預け合う以上、名前くらいは知っておきたい」
静かに場の空気が変わる。
神崎はわずかに笑い、頷いた。
「確かにな。じゃあ、俺からいこうか」
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神崎が一歩前に出る。
「神崎拓真。外科医で、MORUチームのチーフを務めてる。
現場では判断と手術を担当。方針は一つ——命をつなぐ。それだけだ」
その背中には確かな覚悟と経験がにじんでいた。
続いて、若い女性医師が前に出る。
「九条葵です。麻酔科所属。MORUでは術中管理と、時に救命処置も担当します。
現場に出るのはまだ慣れてないけど…必要とされる限り、全力でやります」
不安と緊張がにじむ中にも、意志の強さがあった。
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次に静かに名乗りを上げたのは、落ち着いた雰囲気の男性医師。
「柊仁志。外科医。今回、期間限定でこのチームに加わることになった。
現場経験は少ないが、オペの経験はそれなりにあるつもりだ。…現場の流れも、少しずつ掴んでいくよ」
誰も彼を裏切り者とは呼ばない。
その役割の裏に何があるのか、まだ誰も知らない。
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神崎が軽く手を叩き、言った。
「このチームは、まだ完成してない。だからこそ、それぞれがどんな考えを持ってるか知っておきたい。
一緒に命を繋いでいくために」
葵が小さく口を開く。
「私は、患者が『助かった』って笑える場所を…この現場の中に作りたい。現場は怖いけど、必ず意味があるって信じてます」
柊も静かに続ける。
「蒼鷹の現場には、“理屈だけじゃ届かない”ものがある。今日、それを感じた。だからこそ、ちゃんと向き合ってみたい」
神崎は、二人の言葉を聞いてうなずいた。
「今日が、はじまりだ。
俺たちは完璧じゃない。でも、命を見捨てない。それだけは、決して譲れない」
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窓の外では、街の灯りが少しずつ夜の色を帯びていく。
MORUチームの中に、ようやく“チームとしての空気”が芽生え始めていた。
彼らの戦いは続く。だが、それはもう“孤独な戦い”ではない。