再会と真実
都市ビル事故から数日。
蒼鷹総合病院の救命チーム“MORU”は、命を救った英雄として全国ニュースに取り上げられていた。
映像には、酸素供給器を背負い、階段を駆け上がる日向、妊婦に寄り添う神崎の姿も映っている。
「ずいぶん…有名人ですね」
医局に戻った日向に、麻酔科の柊が笑いかける。
が、日向の顔はどこか晴れない。
「命を救うのは当然です。でも、目立ちすぎるのは、きっと誰かを刺激する…」
神崎がその場に入ってきて口を開いた。
「“誰か”が来るぞ。今日の午後、俺の昔の同期がこの病院に見学に来る。
緊急医療対応に関心があるらしいが――俺には、それだけじゃない気がしてる」
⸻
午後。
病院に現れたのは、烏丸 聖司――かつて神崎と同じ救命センターで働いていた元外科医だった。
「久しぶりだな、神崎。あの頃のお前と…全然変わってない」
烏丸は穏やかな笑みを浮かべながらも、どこか探るような視線を向けていた。
「今は本部付きの緊急医療アドバイザーだ。新体制のために“現場視察”してる。
ここの活動がずいぶん上層部でも噂になってるんだ」
⸻
その夜、病院のラウンジ。
日向と柊が烏丸と軽く話をしていた。
「ところで…あなたは神崎先生のこと、どう思ってたんですか?」
唐突な日向の問いに、烏丸は少し驚き、そして目を伏せて言った。
「俺たちは同じ現場で戦った。でもあるとき…彼は、“ある事故”をきっかけに突然姿を消した。
1年。誰にも理由を話さずに」
日向は息をのむ。
「それって、“空白の一年間”…?」
柊が神崎の行方を追っても情報が出なかったという、例の話。
烏丸は続けた。
「俺には、彼が“何かを背負って逃げた”ように見えたんだ。
でも、今ここで彼が前線に戻っている。……なら、俺ももう一度見極めたい」
⸻
翌日、突発的に発生した交通多重事故の現場にMORUが出動することになった。
なぜか烏丸も車に乗り込んできた。
「俺も行く。もう一度、現場に立ってみたいんだ」
神崎は黙って頷いた。
「手は足りない。頼むぞ、烏丸」
⸻
事故現場では複数名が負傷。中には右肺に穿通性外傷の疑いがある重傷者もいた。
神崎は即座に判断。
「ここで開胸する。柊、麻酔導入。九条、器材セット。
烏丸、補助に入ってくれ」
烏丸は戸惑いなく動いた。処置中、神崎と息を合わせ、出血部位を即座に特定・結紮。
「……まるで、昔に戻ったみたいだな」
そう呟く烏丸に、神崎が一言だけ返す。
「俺たちは、まだ終わってない」
⸻
帰院後、烏丸は病院の屋上に一人立ち、星空を見上げていた。
そこに神崎が現れる。
「なぜ、戻ってきた?」
烏丸は言った。
「上はこのチームを“制度化”したいと思ってる。つまり、MORUの全国配備だ。
でもそのためには、“空白の一年間”のお前の真実が必要なんだ」
神崎は黙っていた。
「俺は知ってる。あの事故で、お前が救えなかった患者は……」
その言葉は最後まで届かなかった。
「……もう少し、時間をくれ」
神崎は静かに言った。




