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記憶のない真実

翌朝。神崎と日向は、元同僚の協力のもと、3件の術後急変症例の詳細を確認していた。

共通するのは、手術直後は安定していたのに、12時間以内に原因不明の低酸素血症や急性循環不全が起きていること。


「この麻酔記録…本当にその時間で切ってる?」


日向が首を傾げる。


「ここ、心電図のログが妙に短い。術中に何かあって、編集されたかもしれません」


神崎がうなずき、すぐにデータをバックアップに取り、持ち帰ることを決めた。



蒼鷹に戻ったふたりは、九条と柊にデータの分析を依頼した。


「モニター映像、確かに一部がカットされてます。タイムスタンプの飛び方が不自然です」


「なにより、人工呼吸器のログと心電図が数秒ずれてる。これは“誰かが弄った”痕跡ですね」


日向は静かに目を伏せる。


「この操作…あの病院のあの部署なら、できる人は限られてる」


神崎は言った。


「証拠はまだ不十分だ。もう一度現場に戻るぞ。次の手術を“外から見張る”」



数日後。

神崎と日向は、厚労省の調査チームと合流し、問題のオペに立ち会うことになった。


執刀医は、日向がかつて尊敬していた外科医――速水将貴はやみ まさき


「君が来るとはね、日向先生。蒼鷹での経験はどうだった?」


「……人の命を、本当に“最前線”で見る日々でした。先生はどうですか?」


速水は笑う。


「私の場所はここだよ。最も効率よく“数字”を作る場所だ」


神崎が静かに視線を向けた。


「命に効率なんてあるか?」



手術は一見、何事もなく終わった。

だが術後、やはり患者は急変する。


神崎が即座に処置を始め、日向が麻酔データを確認する。


「やっぱり…呼吸器設定が変更されてた。術後の5分間、酸素供給が極端に下げられてる!」


九条と柊が駆けつけ、簡易ICUへ患者を移送しながら必死に対応する。



夜、全データをまとめた神崎は言った。


「これは“故意”だ。速水、もしくは関係者が“術後急変”を仕組んでいる。おそらく、患者転院数や手術成績を改ざんするためだ」


日向は、拳を握りしめた。


「命を、自分の評価のために使ってる…そんな人が、医者でいていいわけがない」


神崎の視線は冷たいほどに鋭くなった。


「次で終わらせる。決定的な証拠を、掴むぞ」

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