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魔法バトルロワイヤル開始

 魔法バトルロワイヤルに向けて、生徒たちは準備を進める。軽く昼食を済ませ、森の中へと出かける者、防具や衣装などの装備を確認する者、作戦を立てるのに余念のない者、他のペアと相談をし、共闘を目論む者、様々に行動し盛り上がっている。まるでお祭りのような熱気の中で、俺は受け取った腕章を観察する。

 

 腕章は黒い生地に白い魔法陣が描かれ、更にその上に特徴的な図形が描かれていた。これでチームの違いを認識できるのだが、俺とコイムの腕章にはピンクのハートが描かれている。これは何か意味でもあるのか? それとも誰かの意志なのかと考えてしまう。ちょっとだけ取り付けるのが恥ずかしいが、さっさと身につけて森に向かうことにする。

 

「なぁ、コイム、最後まで勝ち残ろうぜ、お前のくれた魔道具の威力も確かめないとな」

 部屋から戻ってきたコイムと合流し、声をかけながら森へと進む。

 

「ああ仲斗、僕もバッチリさ、戦闘用の装備も有るしね、試すのが楽しみだ」

 コイムはフードの付いた裾の長い純白のローブを身にまとい、真剣な表情で言葉を続ける。

 

「僕の戦闘経験から導き出した考えを言うよ、大切なのは観察すること、そして情報を隠蔽すること。魔法は組み合わせによって多彩に変化する、それに加えて僕達のクラスメイトはユニークスキルを持っている。これがどんなふうに変化するのか予想する必要がある。ある程度は予想できるかも知れないけど、全く予想できない場合も有るから注意してね。そしてこれは相手にとっても同じことだ。ただし、僕と仲斗は魔道具で属性が変化している。この事は知られない方が有利に戦える、そして僕は体を隠している。これで腕章の状態を見えなくすれば、戦術の幅も広がる。僕は仲斗を勝利に導くよ、魔道具の効果も確かめたいんだ。これは僕の夢なのさ」

 

「コイムは凄いな、俺はそこまで考えてなかったよ。奇襲攻撃で腕章を直接狙ってくることも有るんだよな。ていうか、その戦術が一番有利かも、俺は暗黒の闇で腕章を隠したほうが良いのかな」

 

「それも一つの方法だけど、逆に気にしすぎて足元をすくわれる可能性もある。周囲を警戒してよく観察するのが良いと思うよ。ああそうだ、仲斗にはちゃんと見せておかないとね。パートナーには情報を共有しておかないと」

 

 そう言いながらコイムは周囲に人影が無いことを確認し、ローブを広げて中を見せた。そこに現れた姿は、ミニスカートにロングブーツ、肘まで届く長い手袋、胸にはビキニの様なアーマーを付けている。全体的に緑の衣装に金の装飾が施され、美しさと神々しさを(まと)っていた。金属製のアーマなので胸の膨らみも再現され、ピンクのハート腕章は腕ではなく太ももに巻きつけられていた。コイムは得意顔で飛び跳ねると、スカートが(めく)れて魔道具がチラチラ顔を出してくる。まったくもって、けしからん格好だった。

 

 俺は絶句して赤面していると、さらにコイムは言葉を続けた。

 

「僕のこの魔道具はね、属性波動を反転させるんだ。だから今の僕の属性は雷鳴さ、時空属性に戻したい時は言ってね、脱いだら元に戻るからさ」

 そう言ってコイムはローブを閉じて体を隠すと、イタズラっぽい笑顔で舌を出した。どう見ても予備の下着は持って無さそうだったので、属性を元に戻す選択肢は絶たれてしまった。

 

「エルフが戦闘する時はみんなその装備なの?」

 

「それは違うよ、これはエルフの伝統的な戦闘装備なんだけど、下だけは部屋に置いてきてるよ」

 下もちゃんと装備したほうが良いような気がするが、これ以上は触れないでおこう。

 

  そのまましばらく森の中を探索すると、比較的低い崖の下に隙間を見つけた。ちょうど二人分の隙間があり、背後を取られる心配もなく前方を警戒できる絶好の場所だった。

 

「よし、ここに隠れて様子を見よう、それから、念の為に暗黒魔法で闇を強くしよう」

 

 俺達は闇魔法に身を潜めた。しばらくして開始時刻になると空に竜の姿が現れる、あれはパフ先生だ。森に竜の咆哮がこだますると同時に、頭の中に直接声が響く。

 

「今より魔法バトルロワイヤルを開始せよ、諸君の健闘を期待する」

 

 いよいよ始まった。全校生の乱戦を見守るは校長先生、そして上空のパフ先生。この授業は戦闘経験を積み成長を促すことが目的だが、気を抜けは怪我では済まないことも考えられる。俺は緊張とともに周囲を見渡し警戒する、そしてコイムは目を閉じて耳をすます。

 

 始めは動きもなく静寂そのものだったが、しだいに戦闘音が聞こえるようになり、そしてその音は時と共に激しくなっていった。

 

「ここに居ても始まらないな、俺達も打って出よう」

 

 魔法を解除し音のする方向へと進む、しかし森は比較的広く他の生徒と遭遇しない。焦りを感じていると頭の中にパフ先生の声が聞こえてきた。

 

「森の西側、崖の近くの生徒は(ほとん)ど居なくなった。非常に大きな戦果を出している者が居る。注意せよ」

 

 声が終わると遠くに轟音と共に火柱が立ち上っているのが見える。そして数多くの悲鳴を響かせながらこちらに近づいてくる。何かが来る、いや、炎を操る誰かが来る。警戒とともに待ち構える。すると火柱は少し離れた場所で静止して消えた。俺とコイムは慎重にその場所へと移動する。するとそこは、少し開けた見通しのよい広場になっていた。そこには二人の人影、大柄な竜族の男性と小柄な妖精族の女性、ドラゴ・バルスラとキャル・ウィンディのペアが居た。二人は広場の真ん中に背中合わせで座っており、休憩しながら周囲を警戒している様子だった。森から広場へと姿を現した俺達に気がつくと、ドラゴは笑顔で挨拶をしてきた。

 

「よぉ! そっちはどうだい? こっちは今弾切れでリロード中だ、ちょっとだけ待ってやってくれないかな」

 ドラゴは申し訳無さそうな顔で手を合わせ、キャルを気遣っている様子だ。そして腕章には大砲のマークが描かれていた。

 

「ヤホーイ、このあたりのペアは殲滅しちゃったよ、どう、凄いでしょう」

 キャルは笑顔で手を振っている。彼女の能力は疾風魔法と蟲使いだが、周囲に蟲の姿は無い。恐らく弾切れとは戦闘で蟲を使い果たしたのだろう。そして再度虫が集まるのを待っていると言うことか。

 

「最初に会ったのが君たちだよ、パフ先生もほとんど居なくなったって言ってたし、この短時間でいったい何組のペアを相手にしたんだ? まったく恐ろしい程の力だね」

 俺は感心して驚いた顔をし、何か情報を引き出そうと試みる。

 

「いゃあ~全く同感だ、キャルの能力は本当に恐ろしい、俺なんか見た目が派手なだけだぜ。お陰で向こうからやって来るのは良かったかな。ええと、何組やり合ったかな? たぶん10組は超えたぜ。知ってるか、キャルは妖精の割に人と変わらない大きさだろ、実は妖精王の娘で上位種なんだぜ。俺なんか太古にドラゴンと人間が交わった混血種だしな、あっ、そういえば仲斗も魔族との混血だったな。いや、悪気はねえんだぜ、お互い混血同士だし仲良くやり合おうぜ!」

 ドラゴは満面の笑顔で自慢げに情報を喋っている。決して悪い奴では無いのだが、口が軽い性格だ。爽やかな脳筋野郎は嫌いじゃ無い。どちらかといえば好感が持てる。俺も似た者同士なのかも知れないな。

 

「確かにドラゴ君の爆炎魔法をキャル君の疾風魔法で強化すると強力な火炎竜巻を起こせるけど、これって基本技でしょ? それでここまで無双できるとは思えない。注意すべきはキャル君の蟲使いのスキルだよね」

 コイムが更に質問で追い打ちをかける。戦いが始まる前に情報を集めるつもりなのだろう。コイムが奇襲を仕掛ける様子は無い。俺も事態を見守ることにする。

 

「まぁ、そう思うよねぇ~。でも、蟲って小さいし、魔法も使えない。これって脅威になる?」

 キャルはとぼけた顔で軽く質問に答える。何かの切り札があるのだろう、余裕の笑みを感じる。

 

「数を集めれば脅威になり得ると思う。例えば軍隊アリとか、毒針を持つ蜂の大群とかかな」

 俺は自分だったら使うであろう蟲を思いついたままに発言し、キャルの顔色を探ってみる。

 

「いい線行ってるっ! 蟲って物量で押せるんだよね、それでね、蟲の凄さはその習性なんだ。みんな一生懸命集めてくれるんだよ。ほらっ、もうすぐ蟲たちが帰って来るよ!」

 キャルは勢いよく立ち上がると、両腕を広げた得意顔で自慢をし、間もなく現れる蟲を待ちわびている。

 

「よしっ、そろそろおっ始めようぜ、待たせちまって済まないな、俺も早く終わらせたいから、手加減無しでいくぜ!」

 キャルに続いてドラゴも立ち上がる。するとドラゴの体から炎がほとばしり始める。強烈な熱気と風が周囲を包む。俺とコイムは堪らず距離を取るが、ドラゴだけでなくキャルも平気な様子で微笑みを浮かべている。

 

「なるほど、ドラゴ、君の能力は相手に爆炎の属性を付与するんだったね。だからキャルが燃えても平気と言うわけか、思った以上に厄介な能力だ。正直うらやましいよ」

 

「心配しなくてもいいぜ、燃やす物はちゃんと選ぶさ、お前たちにも爆炎属性は付与するから安心しろ。ただし腕章は別だ、悪いが燃やす。キャル、疾風魔法を頼むぜ!」

 

「おまかせぇ~、さぁ、避けられかなぁ~、えいっ」

 キャルが軽く手刀で空中を切ると、そこから鋭い空気の固まりが鎌のように飛び出す。そしてドラゴの炎を通過すると炎の鎌へと変化する。

 

 俺は高速に飛来してくる炎の鎌を何とか(かわ)す。そして走りながら暗黒魔法で煙幕を展開し、狙いの撹乱を試みる。コイムは俺の後に続き、周囲の警戒を続けている。次々と繰り出される炎の鎌はコイムには打ち込まれず、俺のみが集中攻撃を受けている。

 

 それとは別にドラゴは炎を出しながらもコイムの動向に注意を払っている。コイムが何かを仕掛けてきた場合に対応する必要があるからだ。そしてコイムは腕章を隠している。コイムを狙わずにすべての攻撃を俺の腕章に集中するのは当然の戦術と言える。

 

「なるほど、やるじゃない、当てにくくて邪魔な煙幕だわ、仕方がないわね範囲を広げるわ」

 キャルは鎌の攻撃を中止し、手のひらを口の前で水平に広る。そして軽く息を吹きかけるが、その息は手の上でいきなり防風へと変化する。そして炎を通過すると強力な火炎放射となり煙幕を焼き飛ばしてしまった。俺はあまりの威力に呆気にとられていると、眼の前に火炎が迫ってきた。避けて逃げるには範囲が広すぎる。俺はとっさに暗黒魔法の壁を展開する。本来は光や電撃を吸収するための壁なので、熱や風はある程度通してしまう。消せるのは炎の光だけだ。

 

 火炎放射が暗黒の壁を焼く、そして強烈な熱風が俺に襲いかかる。しかし、意外にも耐えられる熱さまで温度が下がっている。何故だ? いつもと違う。一体何が……。目線の先、少し離れた所に笑顔で頷くコイムの姿が見える。そうだった、コイムの魔道具で暗黒魔法が強化され、いつもよりも暗黒壁が厚く濃く展開されている。そのかわり他の属性魔法は使えないんだった。俺はコイムに笑顔を返すと、壁を展開したままキャルに向かって突進してゆく。

 

「えっ? 暗黒壁ってそんなに強かった? どういうことなの?」

 キャルの戸惑う声が聞こえてくる。

 

「ほお、俺の炎を防ぐほどの壁か、こりゃマズイな。仕方がない、いったん属性付与するか。キャル、攻撃中止してくれ」

 ドラゴはキャルを守るように俺との間に割り込むと、ようやく火炎放射が止まった。俺は立ち止まり暗黒壁を解除するべきか迷っているとコイムが声をかけてきた。

 

「仲斗、大丈夫、解除しても平気だよ。僕も準備できてるよ」

 コイムが意味深に伝えてくる。何かをするつもりだ。ここはコイムにまかせてみよう。

 

 俺は暗黒壁を解除し状況を確認する。キャルは余裕の表情で笑みを浮かべ、ドラゴの視線は俺に向けられている。そしてドラゴの目が赤く輝くと、突然俺の体が炎に包まれる。しかし熱さは全く感じられない。そしてドラゴの目線は腕章へと向けられる。そして次の瞬間、ドラゴの目が青く輝き出す。

 

 それと同時にコイムが指を振り下ろすと、ドラゴの頭上から稲妻が降り注ぎ、ドラゴは気を失って倒れてしまった。周囲の炎は全て消えうせ、倒れたドラゴの背後から姿を表したキャルは、何が起こったのか理解できずに困惑の表情でドラゴを見つめるている。

 

「はい、まず一人、面白い能力だね、見た物の属性を操れるのか。僕も欲しいな、所でどうする? 降参する? それとも切り札を出す?」

 コイムは何だか怖い笑顔でキャルに近づいてゆく。するとキャルはコイムに向けて言葉を発した。

 

「もしかしてあなたがやったの? 属性って雷鳴だった? まあいいわ、お望み通り切り札が到着したわよ。まだまだこれからよ。楽しんでいってね」

 

 すると周囲から一斉に雑音のような物音が聞こえ始め、森の中から大量の蟲たちが姿を現した。ずんぐりとした丸い胴体に硬い甲羅のような外骨格、そして黒くて丸い物体を転がしている。蟲そのものは小さいのだが、転がしている物体は虫の3倍以上の大きさだった。大量の丸い物体が近づくと、何やら悪臭が漂ってくる。とても嫌な予感がしてきた。ある意味で最も恐ろしい蟲かもしれない。

 

 俺とコイムは鼻をつまんで脂汗を流し、恐怖に引きつった顔でキャルを見る。するとキャルはドラゴと自身を風に乗せ、空中へと退避してゆく。

 

「最初に奇襲で雷鳴を撃つべきだったかも……」

 涙目になったコイムは鼻をつまんだこもった声で俺に訴えかけてくる。

 

「弾切れってこう言う意味だったのかよっ。無双してるのも納得するよ、怖すぎるだろっ」

 これどうやって切り抜けるんだよと思いながら、俺は呼吸を出来るだけ少なくしようと努力し始める。

 

「は~い、フンコロガシのみんなぁ、それじやぁ、一斉にぃ、発射っ!」

 キャルが拍手するように手を合わせて音を出すと、丸い汚物が一斉に投げ出され。俺達に向かって飛んでくる。

 俺は苦し紛れに暗黒壁を展開し、周囲をドームで囲おうとする。しかしドームの展開が思うように進まない。時間の流れが遅くなったように時間がかかってしまう。しかしよく見ると、汚物の進行も遅くなっている。コイムを見ると、必死の形相で魔道具を外し、俺をローブの中に入れて時空魔法を展開していた。何故かコイムの股間には小さなコイムの顔マークのワッペンが表示されている。謎の顔マークのワッペンはともかく、時間の流れが遅いおかげで汚物が空中に有る間に、森まで逃げられる。コイムに手を引かれ、後を追う間はコイムの可愛いおしりが目の前で揺れ続けていた。

 

 森に到着し、姿を隠すとコイムは大きく呼吸をし、時空魔法を解除した。それと同時に、元いた場所には暗黒壁のドームが作られ、大量の汚物が被せられた。

 

「はあはあ、ありがとうコイム、おかげで助かったよ、はあはあ、それにしても凄いな、時間まで操れるんだ、はあはあ」

 

「はあはあ、仲斗、あれは、本当は、転送魔法を試したんだ。はあはあ、今まで出来なかったんだけど、そうか、息を止める必要があったのか、はあはあ」

 

「はあはあ、転送魔法と言うよりも、高速移動って感じだったねコイム。はあはあ」

 

「はあはあ、確かにね、時間もゆっくり動いていたしね。はあはあ」

 

「はあはあ、ところでさコイム、そろそろ魔道具付けてくれないかな、はあはあ」

 

「はあはあ、仲斗、そんなに興奮してどうしたの、はあはあ」

 

「はあはあ、やめろよコイム、誤解されるだろ、はあはあ」

 

「はあはあ、じゃあ、穿くよ……はあはあ」

 

 コイムは見つからないようにゆっくりと魔道具を装着する。魔力属性の反転は反作用が強いらしく、恍惚の表情で空を見上げながら吐息を吐いている。

 

 キャルの方はと言うと、汚物の山から少し離れた場所に着陸し、俺達が居ると思っている場所に向かって声を上げていた。

 

「そろそろ降参しなさよ、腕章を外せば校長先生が転送してくれるからウンコ被らなくてすむわよぉ~、ねえ、聞こえてるう~?」

 キャルが話している間にドラゴが目を覚まし、頭を振りながら起き上がった。

 

「あいてててっ……強烈なの食らっちまった。コイムって時空属性じゃなかったか?」

 ドラゴは両手で頭をかかえながらキャルに話しかける。

 

「そんなのもうどうでもいいわ、それよりもまだ意地張ってるわよ。このまま蒸し焼きにしてみる?」

 

「おいおい、もう時間の問題だろ? それよりも蟲がまだ居るじゃねえか、早く引っ込めてくれよ」

 

「分かったわよ、全く、相性が良いんだか悪いんだか……」

 キャルが蟲を追い払うように手を降ると、フンコロガシたちは一斉に移動し、森へと帰ってゆく、コイムはそのうちの一匹を捕まえると、俺に話しかけてきた。

 

「ねぇ仲斗、君の展開した魔法壁って操作できるよね。僕が合図したら一気に小さくしてから解除してくれる?」

 

「それは出来るけど、どうするつもり?」

 

「ちょっとした実験さ」

 

 コイムはそう言うと、コソコソと隠れながら森を移動しドラゴとキャルの背後から少し離れた場所に立つと手を上げて合図してきた。俺は暗黒壁を一気に絞り込む。すると汚物の山は沈み込んで低くなった。

 

「ふぅ、ようやく降参したみたいね、それじゃあ次に行きましょう」

 

 キャルが安堵しドラゴに笑顔を向けた次の瞬間、魔法壁を開放した衝撃で汚物は飛び散り、周囲に雨のように降り注ぐ。キャルとドラゴは空から迫りくる汚物を目が点になって見ている。そして汚物を被る直前にキャルは汚物を風で吹き飛ばす事に成功し、二人共にホッとした表情をするが、その背後にコイムが立っている。コイムはニヤリと笑みを浮かべて二人に話しかける。

 

「あっ、ドラゴ君の背中に蟲が付いてる!」

 そう言ってコイムは手に持った蟲をドラゴの背中から服の中に入れた。

 

「きゃああああっ! いやいやあ! 助けてえええっ! 取ってえええっ!」

 それからは凄かった、ドラゴは女の子みたいな悲鳴を上げながら真っ青な顔で走り回り、

  

「ちよっと! 何やってるのよっ! 今大人しくさせるから! 待ってよっ!」

 キャルの言葉も全く届くこと無く服を脱ぎ始め、

 

「ふぅっ、ふぅっ、ブルブルブル、俺本当に蟲はダメなんだって、あっ……」 

 気付いた時には服と一緒に腕章も脱ぎ捨ててしまっていた。二人の腕章に描かれた魔法陣が消えると、かわりに足元に転送魔法の魔法陣が出現する。再び目が点になった二人は転送されて姿を消していった。脱ぎ捨てられたドラゴの服だけを残して。

 

「いや、その、ここまで嫌いだとは思わなかったから……。ほんとゴメンなさい」

 そしてコイムは、もう既にそこには居ないドラゴに向かって謝っていた。

 

「やったね、実験は成功したよ、えへへへっ……」

 コイムのいたずらっぽい笑顔は、少し引きつって見えたのだった。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

ぜひ続きを読んで頂ければありがたいです。

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