ルール説明
今日の授業は魔法バトルロワイヤルのチーム編成と補足説明だ。生徒たちは皆ソワソワしながら担任の到着を待っている。
と、教室の照明が突然落ちた。
窓から差し込む光だけが室内を照らす。そして扉がゆっくりと開く。
まばゆい逆光を背負い、先生が姿を現した。
純白のローブ。光り輝く黄金の髪飾り。そして背中に凛々しく広がる白い翼は、よく見ると、肩ベルトで背負っていた。
――女神と思われるコスプレだった。
先生は厳かな足取りで教壇へと進む。一歩ごとに床が淡く発光し、羽根が舞い散る。どこからか荘厳な音楽すら聞こえてくるようだ。
演出、完璧すぎないか?
教壇に立った先生は、慈愛に満ちた眼差しで生徒たちを見渡し、両手を広げて宣言した。
「汝ら迷える子羊たちよ、女神の導きに従い、勝利への道を歩むのです」
黄金の髪飾りに取り付けられた魔石が激しく輝く。眩しすぎて直視できない。見てもらいたいのか見せたくないのか、よくわからない演出だ。
突然魔石が割れてパチンと弾ける。
「キャッ! いったぁーい」
先生は額に手を当てしゃがみ込む。どうやら魔石の使い方を失敗したようだった。
その様子に皆固まったまま動かない。
隣のコイムが小声で囁く。
「……今日は女神様なんだね」
「みたいだな」
「先週は大魔法使いだったのに」
「うん」
「翼、自作かな」
「たぶん」
俺たちの囁きが聞こえたのか、先生がこちらを向いた。
「そこの者達よ。私語は慎む、よいですね」
完璧な女神スマイル――ただし涙目だったが。
俺とコイムは姿勢を正した。
◆◆◆
しばらくして完全に立ち直った先生は、壇上で手を広げ笑顔で話を続ける。
「今日は皆さんに祝福の魔法を授けます。心して受け取るのですよ」
「先生、魔法使えたんだ……」
生徒たちのつぶやきが聞こえる中、先生は真剣な表情で詠唱を始めた。
「天の恵み、大地の息吹、数多の命を紡ぐ精霊の王よ。我が導きに従い対なる力を示さん。眼前の者たちに現れいでたまえ」
先生が窓の外の巨木に向かって一礼する。
「校長先生、お願いします」
すると机の上に腕章が現れた。
誰もが何も言わずに、転送された腕章を手に取る。
「この腕章には、皆さんが既に組んでいるペア固有の魔法陣が刻まれています」
確かに複雑な紋様が青白く光っている。コイムの腕章にも同じ紋様があった。
「勝敗の条件は簡単です。腕章が破壊されるか、体から外れた時点で魔法陣が消失し、敗北となります」
「片方の腕章が壊れたら、もう片方はどうなりますか?」
俺が手を挙げて質問すると、先生は慈悲深い笑みを浮かべた。
「魔法陣は二人で一つ。片方が欠ければ、もう片方も存在できません」
つまり、相手ペアのどちらか一方の腕章を破壊すれば勝ちということだ。逆に言えば、自分たちも片方がやられた時点で終わり。弱い方が狙われるのは必然だな。
「腕章の交換や譲渡は可能ですか?」
コイムが手を挙げた。
……交換? いったい何を考えている?
「不可能です。腕章が体から離れた時点で魔法陣は消失します。また、一人が二つの腕章を持つこともできません」
先生がきっぱりと答える。
俺はコイムの横顔を見た。こいつが無駄な質問をするとは思えない。何か考えがあるのか?
だがコイムは涼しい顔で「なるほど」と頷いただけだった。
「加えて、魔法陣を失った者は攻撃しないように。敗北した無防備な者を攻撃すれば、女神の罰を与えます」
先生の目が鋭く光った。一瞬だけ、本当に女神のような威厳があった。
「他に質問は?」
沈黙。
先生は満足げに頷き、窓際へと歩いた。逆光が再び先生を包み、神々しさが増す。狙ってやっているに違いない。
「勝者には名誉と杖が与えられます。校長先生からの贈り物です」
先生の声が静かに教室に響く。
「しかし、この戦いで得る経験こそが、必ず皆さんの糧となります」
翼が揺れ、光の粒子が舞う。
「私たちが戦うべき相手は、魔王。どのような手段で攻撃してくるかわからない強大な敵です」
教室の空気が変わった。生徒たちは真剣な表情で聞いている。
「だからこそ、手段を選んではなりません。あらゆる可能性を想定し、あらゆる選択肢を駆使する。勝利に奢らず、敗北を恥じず、全てを糧として前に進む。それが、皆さんに求められていることです」
先生がゆっくりと振り返る。
窓からの光が後光のように先生を照らし、翼の装飾が黄金色に輝いた。
「女神は、皆さんの健闘を祈っています」
先生は胸の前で手を組み、光の中で天に向かって祈りを捧げる。その姿は完璧な女神のようだった。
「では、授業を終わります。明日の実戦に備え、各自準備を怠らぬように」
先生は厳かに一礼し、教室を出て行った。
◆◆◆
生徒たちがざわめきながら席を立ち始める。
俺とコイムも帰り支度をしていると、リーラがこちらへ歩いてきた。
「……すごいね、リル・リル先生」
困ったような笑顔を浮かべている。
「リル・リル先生、普段はどんな感じなんだろう?」
「想像できないな。でも時々素が出てるよね」
「確かに。実際にはとっても可愛い先生なのかも。天然だけどね」
三人で笑い合う。
だがリーラの笑顔が、ふと翳った。
「でも、最後の話は本当に良かったと思う」
リーラの目が少しだけ真剣になる。
「手段を選ばない、か……」
窓の外を見つめながら、独り言のように呟く。
「ガル君も、同じことを言ってた」
その横顔に、俺は何か引っかかるものを感じた。リーラとガルは明日の試合でペアを組んでいる。何か不安があるのか?
だがリーラはすぐにいつもの笑顔に戻った。
「お互い敵同士になっちゃうけど、頑張ろうね!」
「ああ……お互いにな」
リーラは手を振り、教室を出て行く。
その背中を見送りながら、俺は小さな違和感を拭えなかった。あの笑顔の奥に、何かを隠している気がする。
「……ねぇ仲斗」
コイムが静かに言った。
「リーラさん、ちょっと心配だね」
「お前もそう思うか」
コイムは窓の外に目を向けた。夕日が校舎を赤く染めている。
「明日が楽しみだ、確かに手段なんて選んでられないよね」
不敵な笑顔を浮かべる。その笑顔と言葉の意味を、俺はまだ理解していなかった。




