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ルール説明

 午前中の授業は魔法バトルロワイヤルのチーム編成と補足説明が行われる。生徒たちは皆ソワソワしながら担任であるリル・リル先生の到着を待っている。すると突然教室に音楽が響き渡り、担任のリル・リル先生が姿を表した。

 

 薄く青みがかった生地のドレスを身に着け、両手にはグリップ式の霧吹きスプレーを持っている。クルクルと踊るように回転し、プシュプシュと霧を撒き散らしている。勢いよく回転しつつ教室に入ろうとした時、入口のドアに腕をぶつけ、悶絶の表情とともにうずくまってしまった。先生の理解不能な格好には皆慣れているので、温かい目で見守っていると、先生は立ち上がりながら歌い始めた。

 

「復活しちゃう魔王は 世界を壊す」(プシュ)

「滅びゆく世界を 救うのは みんな」(プシュ プシュ)

「霧は~みんなにおしえるの~」(プシュ)

「このままじゃ 勝てないと」(プシュ プシュ プシュ)

 

「戦い 学んで」

「魔法を 極めるのよ 魔王は」

「待ってわぁ~ くれぇなぁい~」(プシュ プシュ プシュ プシュ)

 

「強く~激しく~ 根性見せるのよ~」(プシュ プシュ)

「魔法~ぶつけ~ 一番をとぉるぅのぉ~」(プシュ プシュ)

「たぁとぉえ~ ころん~でも」(プシュコ シュコ)

「腕をぶつけてぇ~もぉ~」(シュコ シュコ……) 

「少しも痛くないわ」

 

 歌の最後は水切れを起こして霧は不発となっている。そして先生の手は腫れ上がり、涙目になりながらも笑顔で強がっていた。皆は一応拍手でその根性を称えたが、歌に関しては物凄い音痴なようで、いったい何の曲かも分からなかった。

 

「みんな、この前の、組み合わせで、ペアを、組んでね……」

 

 そう言って先生は脂汗をかきながらリーラ・ブライトの元へと歩いてゆき、今にも泣きそうな顔で腕を差し出す。リーラは心配そうな顔で光輝属性のヒール魔法をかけてあげると、先生の表情は恍惚へと変化し、次に凛々しく力強い表情になった。なんだか妙に芝居がかった表情なのは、先生のコスプレの一環なのだろうか。とにかく表情のメリハリにこだわっている様子だった。

 

「ありがとう、リーラさん。さぁ、みなさん、ペアは組みましたか? 特に変更の要望は無いですか?」

 

 皆、既にお互いに相性の良い属性でペアを組んでいる。とくに意見がでる様子はなかった。 

 

「みなさん変更は無いようですね。懸命な選択です、今一度確認をいたしましょう」

「飯場さんとコイムさんは暗黒時空ペア」

「リーラさんとガルさんは光輝雷鳴ペア」

「クラーラさんとギラさんは氷結岩石ペア」

「キャルさんとドラゴさんは疾風爆炎ペア」

「皆さんにはコチラの腕章をお配りします。この腕章はペア毎に独自の魔法陣が描かれています。そしてこの魔法陣は、距離が離れると消えてしまいます。ペアを解消しなくても距離が離れたり、腕章が破損して魔法陣が消えると負けとなります。魔法陣が消えた時点で校長先生が転送魔法を使って森から退場させますが、ダンジョン内は校長先生の目が届きませんので注意して下さい。ペアを解消して魔法陣を失った生徒を攻撃すれば失格となりますよ。ここまでで質問はありますか?」

 

「どのくらい離れると魔法陣が消えるのですか?」

 割と重要な情報なので聞いておかないとマズイと思い、先生に確認してみると意外な答えが帰ってきた。

 

「不明です。近いかもしれませんし、遠いかも知れません。試してみることは出来ませんので、気を付けて下さいね」

 かなり曖昧な設定だ、もしかしたらペアによって距離はバラバラかも知れないし、場合によっては距離の制約が無いことも可能性としてはある。これはいったい何を試しているんだろう。よくわからない。

 

「勝利条件は相手の魔法陣が消えれば良いんですよね? ということは、魔法陣の破壊が目的ということだと思うのですが、ペアの片方の魔法陣が破壊された場合、もう片方はどうなるのですか?」

 俺は念の為聞いてみた。

 

「消えてしまいます。魔法陣はペアでないと存在できません」

 これは想像したとおりの答えだった。ペアを解消したフリをして相手を失格にさせたり、攻撃から逃れることは出来ないということだ。

 

「途中で腕章を交換したり、譲り渡すことは可能ですか?」

 俺は腕章の変則的な使い方が気になって聞いておくことにした。

  

「良い質問ですね。大切な事ですのでよく覚えておいて下さい、腕章が体や衣服から離れたり、一人が二つの腕章を所持した時点で、魔法陣は消えてしまいます。つまり、片方が腕章を外した時点でペアの解消になります」

 ペアの入れ替えは無理っぽいな。まぁその必要は無さそうだし、相手のペアが途中で変化する心配も無いだろう。

 

「先生、勝利者には、何か与えられる物は有るのですか?」

 俺は最後に一つ、気になっていたことを投げかけた。すると先生は微笑みを浮かべた後で真剣な表情となり、全員の顔を見渡しながら話し始めた。

 

「ありません。しかしあえて言うならば、世界の平穏が与えられる。その目標のため、今回の戦闘の経験は大きな糧となります。私達は、敗者になってはならないのです。自分自身のためだけではなく、世界のため、ここで学ぶ全員のためにも、決して手を抜いてはならないのです。戦う相手は魔王、強大な力を持ち、どの様な手段で攻撃してくるか分からない相手、しかし私達には魔法があります。相手が手段を選ばないのならば、こちらも手段を選ばずにあらゆる選択肢を駆使し、そして打ち勝たねばなりません。そして今回の勝敗も全て糧とする必要があるのです。敗北を恥じる必要はありません、また、勝利に(おご)ることも不要です。皆さんの健闘を祈ります」

 

 先生がすごく凛々(りり)しく見える。まるで女王様のようだった。コイムの一言が有るまでは。

 

「先生、ドレスが濡れてます。ピッタリ張り付いてパンツも透けて見えてます」

 

 先生の顔が真っ赤に染まり、ドレスの裾を持ち上げてダッシュで教室を後にする。しかし床には大量の水が撒かれ、先生は足を滑らせて転んでしまった。パンツ丸出しで……。

 

 そして皆の心には先生の歌声が思い出される。

 

「少しも痛くないわ」

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

ぜひ続きを読んで頂ければありがたいです。

感想やご評価が頂ければ励みになります。

よろしくお願いします。

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