魔道具
裸エプロンという言葉がある。異世界の特殊な文化で、父ちゃんいわく、母ちゃんの得意技の一つだそうだが、実際に目にすることになるとは思わなかった。
その日は何かの作業をしている物音で目覚めた。部屋はまだ薄暗く、ようやく日が昇りかけている気配の中、コイムは机の前に立って何かを制作している。以前説明してもらった魔道具を作っているのだろう。最初にコイムを見た時は机の明かりに目がくらみ、どんな姿なのかは分からなかった。しかし何か違和感がある。いつもより体の線が細く見える、しかもツルンとした質感、おしりの形がくっきりと感じられる。
一見すると裸のようなのだが、首と腰に細いヒモが結ばれており、きちんと作業用のエプロンを着ていることが見て取れる。なぜエプロンしか付けていないのか理解に苦しむ上に、見てはいけないものを見てしまったように感じる。もう気にしないでそのまま寝ることにした。
しかし気になり眠れない、なぜ裸エプロンで作業をしているのかも気になるが、コイムがこの後に取ってくる行動が予測不能すぎて気になる。あまりの異常事態に身の危険を感じてしまっていると、コイムの声が聞こえてきた。
「よし、出来た、少し小さいけれど、なんとか材料も足りた。さっそく試してみよう……まだ寝てるな。どうしようかな、ちょっぴり試してもいいよね」
コイムの足音がこちらに近づいてくる。俺は寝たふりを続けながら成り行きに任せる。何か仕掛けてくるようなら、いきなり起きて脅かしてやろかと考えていると、コイムはゆっくりと毛布をめくり始めた。足元から腰にかけて毛布をめくって俺の首元にかけると、今度は足がひんやりとし始める。ん? まさか……ズボンを脱がされてる? いやまさか……しかし今起きると、タイミング的に気まずすぎる。どうしよう、起きるべきか、もう少し静観すべきか。なかば冷や汗をかきながら悩んでいると、コイムの声が聞こえる。
「大きさもぴったり、感度も良さそうだ、きっと役に立つ。さっそく試そう」
そう言うとコイムは下着に手をかけ、ゆっくりと脱がし始めた。
「ちょっと待てぇぇぇっ! 何をしてるんだよ! それ以上はマズイ! さすがにそこまでは無理っ!」
俺はたまらず飛び起きて下着とズボンを元に戻す。
「あれっ? 仲斗、起きてたのか。こっそり試して君の反応が見たかったんだけど、残念だな」
「試すって何を試すんだよ、魔道具の事じゃないのか? 俺に何をしようとしてたんだよ。それに、何でそんな格好をしているんだよ。何で裸にエプロンなんだよっ」
俺は取り乱して後退りしながら、まくしたてるように問いただした。
「エプロンを付けないと服が汚れちゃうだろ? それに裸じゃないよ、ちゃんと着ているよ、ほらっ、どうだい、素敵でしょ?」
そう言いながらコイムはエプロンをたくし上げて下半身をあらわにすると、魔石の装飾と魔法陣が描かれた小さな布が、細い鎖で繋がれ、腰へと回り込む下着姿が現れた。
「ほらっ、ちゃんと着ているだろう? 材料が少なかったので小さくなっちゃったけど、僕の力作だよ。仲斗の分も作ってあるから、ぬいぐるみのお礼に受け取ってよ」
そう言いながら振り返り、おしりを突き出して見せてくる。よく見ると確かに下着のような魔道具を付けている。後ろ姿が細い鎖のみなので、暗がりでは全く見えなかったのだ。
「この魔石はね、特定の魔力波動を蓄積して、体へ送り返してくれるんだ。そしてここの魔法陣で波動数を変換している。そしてこの布が凄いんだ、体外に有る魔力源泉を包みこんで魔力を吸収伝達する。とっても気持ちいいんだよ。はやく仲斗も穿いてごらんよ」
エプロンをたくし上げながら、指で細かく解説をしてくれる。なんだか目のやり場に困るが、コイムが気にしていないのだから、俺が照れてしまうと気の毒だ。コイムの力作を褒めるべきなのだが、これを俺にも履けという。しかしこれはちょっと……。いや、もしかしてコイムの方がまともで、俺のほうが破廉恥に考えすぎなのか、もう分からなくなってきた。コイムがせっかく作ってくれたんだ。協力するのが友情だと思う。
「おっ、おう……ありがとう……」
俺はコイムに背を向けて下着を脱ぎ、魔道具を身につける。すると、今まで感じたことの無いような感覚が体を貫く。なにか吸い付くというか吸い取られると言うか、ピッタリと包み込むように張り付いてくる。そして体の奥から熱いものが込み上げ、わけもわからず顔が赤くなってしまう。これはいったい何なのだ。俺はどうなってしまったのだ。横目で振り返りコイムの顔色を確認すると、とても満足そうに微笑んでいる。
「こっ、これって何の魔道具なの? 何だか物凄くくっついてくるんだけど……」
「どうだい、凄いだろう、そう感じるだろう。魔力を吸い取られるとそう感じるだけで、実際はくっついては居ないよ。ちなみにその布には僕の髪の毛を縫い込んでるんだ。エルフの髪の毛は魔法伝達性が高いんだよ。それでね、その魔道具は仲斗専用に調整してあって、仲斗の暗黒属性意外を全て吸い取って暗黒属性として体内に戻すんだ。それを穿いている間は暗黒属性を強化できるはずさ」
「それは凄いな、コイムはやっぱり凄いやつだ。でも、なにも内緒で穿かせなくてもよかったのに」
「暗黒魔法が強くなったらどんな顔をするのか見てみたかったのさ、それだけさ……ほんとそれだけなんだからねっ!」
朝日が登りきると、明るく照らしだされた部屋の中に、爽やかな朝がやって来る。そしてそこには、小さな下着型の魔道具を身に着けた男二人が顔を真赤にして見つめ合っている。どうしてこうなる……。
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