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校長先生

 今日は全校生徒集会、校長先生が全生徒と教師たちの前で演説をする。そしてその会場は魔法学校の中央ホール。巨大な老木を背後に、まるで温室のようなガラス張りの巨大なドームが存在する。そして無数の木々が柱となり、色とりどりのステンドグラスで装飾された荘厳な空間となっている。

 

 今の季節は春、ホール中の木々も色とりどりの花を付け、新入生を歓迎するように花ビラを散らす。そしてホール前方から光が差し、校長先生は何よりも目を引く姿で現れたのだった。

 

 ホール前方にはステージがあり、そこに魔法で成長しながら巨大な花のツボミが現れる、そしてゆっくりと花が開くと、その中から校長先生が現れたのだ。何故か背中には無数の花々をまとい、とても校長とは思えない若さと美貌を兼ね備えた超絶イケメンの姿だった。

 

 魔法使いのローブは若葉のような色使いで葉脈のような模様があり、まるで若木の化身のような姿だ。もっと年を取った威厳の有る姿を想像していた俺は、あまりの違いに呆然としていたが、女子たちは一様に歓喜の表情に溢れていた。そして校長先生は手を上に広げ、生徒たちに呼びかけた。

 

「皆静粛にするのじゃ、今から重要な発表をするからのう、心して聞くのじゃ」

 

 見た目に反して言葉遣いはジジイみたいだった。そして今度は女子たちが呆然とした表情になっている。あまりにもギャップが強いと、理解が追いつかずに混乱する気持ちは分かる。さっきまでの俺がそうだったのだ。しかしながら、上級生は慣れているのか、落ち着いた表情を保っていた。そして校長先生は話を続ける。

 

「今年入学した新入生の諸君、わしが魔法学校の校長、アーカンダム・ユグドラシルである、年齢は、忘れたがのう、魔王よりかは年上かのう」

 

 やはり見た目と年齢が釣り合って居なかった。しかしこんなにも若い見た目に違和感を禁じ得ない。それにしても魔王より年上と言うことは、魔王の居なかった世界を知っているということだ。いったいどんな世界だったのだろう。

 

「それでは新入生もおることだし、少しばかり自己紹介をしておこうかの。最初に言っておかねばならん事があるのじゃが、わしはトレント族じゃ、皆の眼の前に生えておる巨木じゃが、これがワシじゃ」

 

 トレント族は初めて見た。木なのに動いて話もするとは聞いていたが、こんな姿になれるのかと驚いた。見た目の姿が自由に操れるのだとしたら、こんな見た目なのは校長の趣味なのだろうか。リル・リル先生の件もある。見た目に関するこだわりが強いのかもしれない。

 

「それからのう、今は春じゃから若木が生えておるが、冬には葉も落ちてジジイになるから、間違ってもワシに恋なぞしちゃいかんぞ」

 

 女子たちに悲しそうな表情が広がるが、一部の女子は期待に胸を膨らませた表情だ。年齢のストライクゾーンには個人差が有るから、色々と期待しているような感じだった。それにしても、見た目は季節事に変わるのか、秋が来たら実でも付けるのかと考えてしまう。

 

「皆の生活しておる校舎もワシの体が変化したものなので、壊したりいたずらしたりはせんでくれよ。お年寄りは大切にのう」

 

 俺達は校長先生の中に住んでいたのか。どうりで凝ったデザインの木造建築なわけだ。魔法とかで火事でも起こそうものなら校長先生が大変な事になってしまう。くれぐれも気をつけよう。

 

「自己紹介はこのくらいにして本題に移るとしよう。生徒諸君、魔王復活の時が近い。もうすぐそこまで迫ってきておる。そして復活がなされた時、もしも討伐に失敗すれば、世界そのものが滅んでしまうだろう、急がねばならぬ。じゃから、先生方も少々手荒な授業をしてしまっておるようじゃ」

 

 手荒って言うレベルではないと思うが、なんとなく納得は出来てしまう。もう少し考えてほしい所だ。

 

「そこで、今回は皆に手軽に実践経験を積んでもらおうと思うておる。名付けて、魔法バトルロワイヤルじゃ。二人一組のペアを組んで、最初は森の中に隠れてもらおう。森の中にはダンジョンも有るが、ここに入るのはおすすめしない。万が一の時の救出が困難になるからのう。降参する時はペアを解散してくれれば良い。その時点で負けとなる。よってペア意外の個人を攻撃すれば失格となるので注意するのじゃぞ。最後まで生き残ったペアが勝利者となる。時間制限はないが、開始の合図までは戦闘は禁止じゃ。ズルはいかんぞ、わしは森の全てを見通せるからの、もしも危険と判断したら、ワシが転送魔法で助けるから心配せずに思いっきり戦うと良いぞ。開始は明日の午後の授業からじゃ、細かいことは担任の先生に聞くのじゃ」

 

 ドラゴン討伐よりかは安全なような気もするが、相手の実力は未知数だ。慢心すれば足元をすくわれて、あっという間に負けてしまうだろう。しかも全校生徒が対象だ、人数が多い間は乱戦になるに違いない。しかし、他の生徒の本気を見る良い機会だ。自分自身を鍛えるのにも良い。よし、頑張って勝ち残るぞ。

 

「生徒諸君、魔王復活は近い、もう時間は限られておる。戦いの中でしか学べないことも有る。どうかお互いに切磋琢磨し、いつか復活する魔王を真の意味で倒してほしい、それを強く望むのじゃ」

 

 そう言うと校長先生は花と葉を一気に散らせ、その場で姿を消してしまった。そしてその背後に見える老木は、我々を暖かく見守っているように佇んでいた。

 

 突然のサバイバル戦闘、取れる作戦は限られている。俺は勝ち残って勇者にならなければならない。父ちゃんや母ちゃんのために、なによりも自分自身のために。俺は拳を強く握りしめる、そしてその手を包み込む手のひらを感じる。そこには両手で俺の手を掴み、満面の笑顔でうなづくコイムが居た。既にペアを組む相手は決まっていると言いたいようだった。

 


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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