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山田が死ぬ日が来た。
死因は老衰だったため穏やかな死になると思われた。
「山田」
呼びかける声があった。
アホだ。
幽霊化したアホが山田の人生最後の日に唐突に訪れた。
「あなたは、アホ?」
幽霊は不機嫌になったようだった。
「さんを付けろよ。」
山田は心底怯えた。
「確かに生前はあなたをアホさんと呼んでいたのでしたね。」
「もういい。死ね。」
アホの幽霊はそれきり姿を表さなかった。
山田は頭髪が蘇ったのは単なる奇跡でハゲていることが本来の自分である、といったことをハゲ時代の知人と会うことで思い出した。
彼はきわめて不愉快になった。
体調からまもなく死ぬことが分かると怒りが湧いて来た。
なんでわざわざこんな時に出てきたんだよ。
山田は死の直前に降って湧いた不幸により実存が砕け散った瞬間の嫌な記憶でいっぱいになりながらその生涯を閉じた。




