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チャイムを押してから数分待ったが応答がなかった。
不審に思った山田が半ば無意識に取手を試すとあっけなくドアが開いた。
「アホさん? いないのですか?」
応答がない。
おかしいと思い、許可もなく入るのは悪いものの中に入ることにした。
アホは2階で作品の執筆を行い、山田と面会するときもその仕事場ということになっていた。
「アホさん、いる?」
ドアを開けながら山田がその滑稽なほど低音のボイスで尋ねる。
「アッ」
おどろいた山田は楳図かずおの恐怖マンガのような表情になった。
アホは部屋の中央で首を吊って自殺していたのだ。
彼の首にはノーベル文学賞のメダルがかけられていた。
猫犬や犬猫がどうなるのか、これで永遠に分からなくなったんだな。
山田は俯きながら純粋な涙をいつまでも流し続けた。




