20、記憶2
…………………
人間に声をかけられた。
(怪我してるの?)
そう博に声をかけた少女。
何もいわずにあわてて飛び去ってしまったけれど驚いてはいないだろうか。
だが、
そう思って、ふ、と口元を緩める。
翼がみえていたはずなのに、声をかけてくる度胸があるくらいだ。
だから、怖がってないと思う。
……………………………
………………
「あんたの力、ちょうだい」
悪魔が空から現れた。
黒髪のツインテールを風になびかせて、背中の漆黒の翼を背中から生やしている少女。
見るものを圧倒させてしまうような銀髪の少年。同様に背中から翼。
(あの人…?)
みたことがあるような気がして彩乃は博を見つめた。
博はその視線を感じたようだったが、視線を背ける。
「彩乃、逃げるよ」
そういって、博は彩乃の手を引く。
「逃がさないわ」
微々はそういって手を空に上げ、術文を呟き、その手を下ろした。
刹那、
嵐のように風が舞う。
突風が彩乃を襲う。
「きゃ」
彩乃がその風に煽られ、こけてしまう。
「彩乃!」
博は彩乃を抱える。
「大丈夫!?」
「うん…」
彩乃は不安そうに博に抱き着く。
そんな二人に微々は近寄る。
「邪魔よ」
微々は博を足蹴にする。
「彩乃をどうするつもりなんだ!?」
「力を奪うのよ。死のリスクが伴うけれど、、ね」
ニヤリ、と笑う。
「そんなことさせない!」
博は立ち向かうが、微々の力は強い。
「騒がないでよ」
術をつかわないでも微々は博を捩じ伏せるだけの力があった。
「はぁーくーー!!」
「あんたなんかに止めさせないわ」
微々は倒れ込んだ博をあざ笑った。
そして、
倒れ込んでいた彩乃の手を引っ張って起こさせる。
「やーー!」
彩乃は叫ぶが、微々は気にせずに彩乃を桜の木の下まで歩かせた。
円陣を書いた上に、彩乃をほうり出す。
「シン。」
微々は近くにいたシンを呼ぶ。
「儀式を始めましょ」
「…」
シンは彩乃を見下ろす。
彩乃はその視線にびくりと怯えた視線を返す。
彩乃は泣いていた。
さっきまで博と笑っていたのに。
オレら悪魔が…泣かせてしまったのだろうか。
人の幸せを奪ってまで、、
「怖いかもしれないけどごめんねー」
こんなのがやりたかったわけじゃない。
「微々、やっぱおれ、ごめん…」
ぼそりと呟くシン。
弱くて…
悪魔になりきれなくてごめん…
「シン…?!」
微々はシンのとった行動に驚く。
「幸せに生きろよ、なにがなんでも。」
「?」
彩乃は何をいってるのだろう、とその悪魔を不思議そうに見つめる。
シンは彩乃に手の平を向け、術をかける。
「シン!?なにやってるのよっ」
シンがかけた術は悪魔の力を使わない代わりに、彩乃を守るものだった。
シンの羽根がぱらぱらと落ちる。
跳べなくなるほどに。
シンは彩乃を抱え、その場を逃げるように走った。
「な、ん、で、よぉおーーっ!!」
がくん、と膝から崩れ落ちる微々。
シンと一緒に世界、作っていけるって信じてたのに!
だから覚悟なんてできた。どこまでも悪魔になってやろうって思った。
なのに…!
「、ぅ…っ」
涙があふれる。
どれくらいそこにいたんだろう。
ぽつ、ぽつと降ってきた雨はやがて土砂降りになり、
雨の匂いに包まれる。
ふと目を開けると、
片隅に倒れ込んでいる少年が映る。
怪我をしているようで、動けないようだ。
確か、博とかいっていたような…。
微々は口元を歪め、博に近づく。
博はうっすらと目を開ける。
「あのコを助けたいならあたしのもとにきなさいっ」
それは、矛盾していたのかもしれない。
だけど、
彩乃を守りたかった。
僕には守れるような力なんかなくて、、
力があれば彩乃を助けられたのに。
それに、彩乃を影から助けることにもなりうるかもしれない。
だから、
差し延べられた手を握り返してしまったんだ。
………………………………
、、
全部思い出してしまった
知らなかった。。
博は、、
私なんかのせいで
いなくなってしまったの、、
そして、
シン、、
昔、あっていたんだね、
あのときから、、
守っていてくれたのに、
あなたをも、
あのときと同じように、微々に奪われてしまった
……………………………
彩乃、ごめん。
だけどオレは
罪滅ぼしとかで守役になったわけじゃない。
ただ、
単純に彩乃のことを守りたかったんだ。
だから、契約のキスもした。
リスクが高まることなんてわかってた。
彩乃に触れることで、自分が彩乃の力に飲み込まれそうになった。
自分を抑えることが、
正直しんどいこともあった。
だけど、彩乃の事が好きだ。
少しの間だったけれど、オレの想いは伝わっただろうか…
「…行こう、シン」
微々はシンに手を差し延べる。
シンは悪魔の力を使う。
彩乃のために。




