14、もやもや
「彩乃、実はシンくんのこと好きなんじゃないのー?」
は、
一瞬、時間がとまる。
そんな恋バナが出たのは、
二組敷いた布団で彩乃と未子寝転がって話をしているときだった。
話題に上がったシンは、隣の部屋にいる。
会話が聞こえないかあせり、つい、小声になる。
「え、ぇ、」
まさかの未子の発言に戸惑う彩乃。
「わ、私は博のことが―‥好き、だから‥」
「もー!なんで帰っても来るかもわからない博なわけよーっ?」
苛立ちに未子は口を尖らす。
「こんなに近くに守役なんていう立場でかっこいいコがいるのにー!」
そりゃ、
守ってもらったりもした。
信頼もできて頼りになるやつだけど。
あいつがいてくれてよかった、って思ったこともある。。
でも、、
この想いは恋なの?
博への想いが大き過ぎて、、
シンへの想いがうやむやになる。
守役だから、好きになったように感じただけなのかもしれないのだし。
「ほんとにシンくんの事好きじゃない?」
念を押すように聞かれる。
「‥うん?」
「あのね、あたし、、
シンくんの事好きになっちゃった、カモ…」
………………………………
(未子がシンの事を‥、、!?)
未子の衝撃発言に放心していたが、気付いたら朝だった。。
「うーん‥」
未子が眠そうな声を上げ、ごろんと寝返りを打つ。
「…」
未子は親友だ。
だから、未子の初恋だって知ってる。
巫女は神聖でなきゃ、っていって諦めてた時もあったけど、、
(シンに、恋ですか、、)
そう思い、はっと思い出す。
セクハラ発言やらキスやらしてきた事を、、!
(アイツとまともに付き合ったりしたら
神聖もなにもなくなっちまいますよっ!!)
未子の身を親友として案ずる彩乃。
(応援、すべきかな…)
自分の気持ちは多分まだ博にある。
まだ会えてはいないけど、あったらきっと想いがあふれてしまう程に、、
だから、シンの事は守役として大切。
だけど、それ以上の想いにはならないのではないか、と思う。
「姫サマ」
いきなり名前を呼ばれ、びくりとする。
「な、なによ」
襖ごしに、シンは声をかけてきたのだが、寝起きだった身なりが気になってとっさに背を向ける。
あ、起きてたか。と独り言のように呟くのが聞こえた。
「食事はどうする?」
「まだいいわ。未子が起きてからで」
「未子様は何か嫌いなものってあるか?」
好き嫌いの話になったので、昨日の話を聞かれていたのかと焦る。
「な、ないわよ!…なんでそんなこと聞くのよ?」
「板前が聞いてこいっていったから」
そう告げ、扉を閉める音が聞こえた。
板前に会いに行ったのだろう。
廊下を歩く音が聞こえて、
ふー、と息をはく。
(…なに緊張してるんだろう。)
何故だか妙に緊張する。
シンとの関係についてあまり考えたことなかった、、
が、
意外にも、自分がシンに好意を抱いていたことに内心驚いている。
(博よりは下だけど!)
今は、
未子がシンを好きだというのだし、自分の心に釘を刺しておく。
10年間溜め続けてきた想いが、
揺らがないように。
………………………………
「おはよー、シンくん!」
「おはようございます」
シンは律儀に挨拶を返す。けして彩乃にはやらないことだ。
未子が起きたので、運んでもらった朝食を部屋で食べるところだ。
なんだかいつもより豪華な食事に目をぱちくりとさせてしまう。
「今日は、未子様のために板前が腕を奮いましたから」
朝から豪華すぎやしないか、という御馳走をいただきます、と手を合わせて食べる。
「おいしー!!」
未子が声をあげる程、、めちゃうまな料理だった。
「シンくんは食べないの?」
「はい。お毒味と称して先に頂いてきましたので」
毒味とかするんだ、とひとしきり驚いたあと、また彩乃にしゃべりかけつつ、未子は朝食を残さずに食べた。
「城の案内してーっ」
食べ終わってすぐ、元気に立ち上がる未子。
「わかった、行こう」
彩乃はすぐに返事をして立ち上がる。
「ねー、シンくんも行こうよっ!」
そういってシンの腕を掴む未子。
未子がシンに触れるのを見て、チクン、と胸が痛んだ。
私のモノなんかじゃないし、触らないで、なんていわないけど、、
でも。
もやもやする、、
‥‥‥‥‥
「シンくん、あれなにー?」
未子はシンの袖を引っ張る。
未子が指差したものは、大きな実をつけた木だった。
「あれは、ヤシノキですよー」
色々と城内の中を引っ張り回されて、シンは精神的に疲れていたので適当に返事をする。
実際ヤシノキはありえないのだが、、
ヤシノキ?と未子は首を捻る。
まぁいいや、といって彩乃の側に駆け寄る。
「あやのー!あたし抹茶飲みたーい!」
「いいわね、行こう!」
彩乃とるんるんと駆けていくが、シンが後ろの方にいるのに気がつく。
とたた、とシンに近づいて、
「シンくん、遅いよー?」
わざと彩乃にみせるように未子はシンの手をとる。
ばち、と静電気のようなものが走る。
「‥痛っ!」
とっさに未子はシンから手を離す。
「何、静電気‥?」
未子はシンの手元を見た。
「―‥!」
そして、何かに気付いたようにシンを見上げる。
そして戸惑うように俯いた。
(手が焼けてる‥?)
未子が触ったシンの手の甲が、火傷のような後になっている。
静電気ごときでこんな風になるはずがない。
悪霊などが、巫女に触れるとそうなるというのは聞いたことがあるが、
まさか人間になるはずがない。
「あ、これは昔の火傷の跡です。見苦しいのでみないでください」
「う、うん」
シンは平然というが、、、
良くない予感に、
まさか、と思って頭をふった。
「?どうしたの。」
立ち止まっている未子とシンに彩乃が近づき未子の手をとる。
「いこ?」
「うん、」
…多分、きのせいだと思うことにして未子は足早に歩いた。
……………………………
「うーん、いいお風呂だったーっ☆」
未子は先にお風呂から上がって彩乃の部屋に戻ってきていた。
今日はいいひだったー
お茶もたくさん頂けたし、お風呂も最高だし、彩乃で遊べたし☆
ひとつ、気になる事は、、
シンくんに触れたときのこと、、
部屋に足を踏み入れたとたん、
「‥なに、これ」
未子はぞくりとするような寒さに襲われ、身を抱くようにする。
「はぁい、未子ちゃんー。会いたかったわー★」
その場にそぐわないような、明るい声が闇の中から響く。
その声に反応して未子は身を固くする。
「あなたは、、!?」
「あ、く、ま、の微々」
あくま、
アクマ、
、、悪魔。
とっさに変換ができなかった。
巫女とはいえども本物の悪魔に出会ったのは初めてだったし、その存在を認めたことはなかったから。
「…悪魔?」
でも、確かに微々と名乗った少女は宙に浮いていて、しかも漆黒の翼をもっている。
とても人間とは思えない。
未子が驚いた表情で微々を見つめていると、
ふ、と奇妙に笑って、もっていた文を
ひらり、と宙に舞わせる。
「プレゼント、よ」
ふわふわと蝶のように舞って文は未子の手元に落ちた。
「‥これ、、!!」
未子は手元に落ちた文を見て驚く。
その文に書かれているのは彩乃の字だった。
しかも内容は、忙しいので訪ねて来ないように、というものだった。
彩乃がいっていた文とはこのことだったのか、と気付く。
「あたしが持ってたの。」
微々は楽しそうな口調で続ける。
「あんたをここに来させるためにね」
「あたしを、ここに、、?」
、なんの価値があるというのだろうか。
悪魔にとって巫女だという神聖な力は邪魔なものにしかなりうらないというのに。
「宮都坂 彩乃。」
彩乃の名前がでて、未子はさらに驚かされる。
「あたしはね、あの子の力を狙ってるの」
力、ときいてはっとする。
彩乃に力があったことは知ってた。
使っているところを実際にみたことがあるから。
…多分本人は覚えていないだろうし、力があることにも気付いていないのだけれど。
「彩乃を狙っているの?」
なんとなく、状況が理解できてきた。
彩乃がこの手紙を書いた意味も。
微々という悪魔が手紙を奪った意味も。
「‥あたしがここに来たからには、あなたの邪魔をするよ?」
脅したつもりだったが、微々は一層、楽しそうに笑った。
「何いってるのよぉ。邪魔なんかさせないわ。…利用させてもらうの」
そう、
…利用するためにあたしを、、
「あんたには、人質になってもらうわ」
彩乃の役には立たず、足枷なんかになってしまうの…?
そんな、と青ざめる。
同時に、こなければよかった、と思わされる。
未子はどうしようもなくて、床にへたりこんでしまう。
そんな未子に手を伸ばし、
微々は優しく頬に触れ、呪文を何か呟いた。
ぞくり、としたが体が動かない。
触れた頬から、ぱりぱり、と音がする。
その手はまるで氷のように冷たくて、、
体が凍っていくような感覚に襲われた。
「悪魔の呪文は、悪魔にしか解けない。」
口元を緩めて寂しそうにいう。
す、と未子の頬から手を離す。
「シンに、解いてもらってよ」
その言葉を聞いて、
やっぱりと思う。
シンくんは人間じゃなかったんだ、、
「あら?」
視線を部屋の襖に向け、微々は怪訝そうな表情をする。
「来ちゃったわ‥」
がらり、と開け放たれる襖。
「微々!!」
窓に微々の姿と未子を確認し、驚いた表情を浮かべる。
「やっぱり微々か、、!」
強い魔力を感じたから来てみたが‥
まさか未子と接触していたとは、、
「シンくん‥!?」
へたりこむ未子にシンは近寄り、微々から隠すようにする。
「大丈夫か!?‥ってお前!」
未子の頬にはうっすらと印が刻まれているのが気付く。
「っ、微々!!何をしたんだ!」
「ふふ、呪文をかけたの。」
微々は笑みを見せる。
「シンにしか解けない呪文。だから、解いてよ。悪魔の力を使って、、」
そして、
闇の王になってよ―…!
「‥また、あとで会おうね、シン。そのときは、悪魔の姿で。」
にこり、と笑って微々は闇の中に姿を消した。
「くそっ!!」
「シンくん、人間じゃなかったのー!?」
「…あぁ。俺は、アイツと同じ悪魔だからな」
漆黒の翼を背中に現し、シンはいう。
敬語でもなくなっているが、気にしない。
「彩乃は、まだ知らないの?」
「あぁ、、
隠してるわけでもねーんだけどな。彩乃にはまだ言えない。」
そう、と未子は言って、下げていた顔を上げる。
「あのね、あたしホントはシンくんの事好きじゃないの」
「…はぁ?」
いきなりの告白にびびるシン。
しかも、好きじゃない、ときた。
「彩乃に素直になって貰おうと思ってそんな事いったんだけど、、」
素直になってくれなかったね、彩乃、隠れツンデレだから。と未子は笑う。
どう反応してよいのやらとシンが返答に困っていたが、未子は続ける。
「…最初ね、、
シンくんに初めて会ったとき博くんだと思ったんだ。
彩乃が笑っていたから、、
あんな風に笑っていたの久しぶりにみたの。」
本当に嬉しそうに未子はいった。
「あたしは、博じゃなきゃ彩乃がほんとうに笑えないって思ってた。」
だけどシンくん、貴方が彩乃に笑顔を与えたんだよ。
博の事忘れてないっていってたけど
きっと彩乃は気付いてないだけで、、
「何があっても彩乃を離さないで。」
強い目で見つめられ、シンは未子は彩乃の事を本当に考えているんだな、と思う。
「大丈夫だ。彩乃はオレが守る」
そう、守って見せる。
守りたいと思っていたんだ。
彩乃の事を好きになった、
幼かった、
あのときから…。
今年最後です☆
来年は2日くらいにアップしますー!




