思わぬ邂逅
(多分このまま見つめているだけだろうな……俺はこの歳のくせに女性は苦手なんだ)
デルトディードは身長が190センチある。身体自体もそこそこ鍛えているため、一見、圧はある。
しかしかなり垂れ目の顔つきと、目の色と地毛が薄めの茶色であることなのか、彼から必要以上の威圧感は存在しない。
そしてそのまま進展ゼロのある日。
デルトディードは残業をしていた。
自分で言うのもなんだが、仕事に関しては上からも下からも信頼はある。
横を向けば窓からは漆黒の闇が見えた。
会社に残っている人間も少ないだろう、しんとした空気に包まれている。
パソコンを無言で打っていると知らぬ間に肩ががちがちになっていた。
集中できるのは良いが、明日も仕事の悲しき社畜である。無理は禁物。
会社内の自販機でコーヒーを買い、戻ろうとすると隣の部署にも明かりがついていることがわかった。
終電も近い時間だ。誰だろう、と首を捻りながらもう一本コーヒーを買って「お疲れ様です」といつもより小さい声をかけてみた。
そこには困り果てた千鶴がいた。
「大丈夫……ですか。もう、時間遅い、ですよ」
気楽に話しかけようとして、ほとんど接点がないのを思い出し丁寧語に切り替える。
「デルトディードさん? どうしましょう。この作業が終わらなくて、」
「時間かけたら終わりそ?」
「いえ、その、それがわからないのです……」
デルトディードも困ってしまう。
わからない問題を一人で抱えたってわからないままだろう。
真面目なのだろうが少々、要領が悪いらしい。
誰にでも聞けば良い。
「俺が見てみても良いかな?」
「えっ、そんな、申し訳ないです」
「でもこのままじゃあ、帰れないよ」
「それは……そうですね」
俯いたチヅルの横からパソコンを覗き込んで拍子抜けするデルトディード。
彼にとっては簡単な仕事だったのだ。
「これ、俺が代わりにやる。折原さんはコーヒー、じゃ眠れなくなるね、これで何かあったかいものでも買ってきたらいいよ」
「そんな、そこまで」
「上司命令。俺の方が歳上ですよー、これならわかるし」
わざと最後はおどけて言い小銭入れを差し出すと、絶望しかなかったチヅルの顔にぱっと光が差した。
それがデルトディードにはまぶしく、どきどきした。