ある日の実②
周囲の騒ぎも不思議そうな顔をするばかりの実は、少しの間を置き長谷川を見上げた。
「みの、おかし当たったの?」
「違いますよ、それどころじゃないんです」
「おかし…違うの?」
実にとっての大賞は三等のおかし詰め合せだ。それ以外は考えにも無かったのだろう。
その実に、長谷川は目線を合わせて興奮気味に告げた。
「実さん、実さん、大当たりですよ!」
「おおあたり?おかし、ちがうでしょ?」
「菓子詰め合せよりずっと凄いのが当たったんですよ!」
「……あ、おんせん?」
先程抽選会会場のスタッフが言っていた事をようやく理解へたどり着いたのだろう。
「おんせんりょこうはいっとうしょう、ね?」
「そうですよ、一等賞が当たったんですよ!」
「わぁ、すごいね!」
「実さんが当てたんですよ!」
「すごいね、すごいね」
何処か他人事のように話す実は、まだ実感が湧いていないのだろう。呑気な様子でニコニコしてる。
「当選の方、手続きがありますのでこちらへ」
「実さん、行きましょう」
「うん」
何か凄い事が起こっているというのは分かったのだろう。実は長谷川の手に引かれるままに着いて行った。
「当選の方は…」
「俺が代理で良いですか?」
「構いませんよ。どうぞこちらにご記名を」
温泉ペアチケットともなると手続きの一つや二つがあるのだろう。
実の手を握ったまま、長谷川は求められた部分に記入をしていった。もっとも、実の本当の住所は書けない事情が大きくある為ダミーの仮住宅のそれを書いていく。長谷川にとっては慣れたものだ。
一通りを記入し終わり、景品の旅行券を渡される。それを受け取り、長谷川は旅行券をしっかりとスーツの内ポケットに入れた。
「さ、帰りましょうか。頭も喜ぶ筈ですよ」
「ゆた、よろこぶ?うれしいね」
ニコニコと呑気に笑う実に、長谷川もつられて笑う。そうして長谷川は実の手を引いて抽選会会場を後にした。




