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罪深き町に鉄槌を  作者: 朝倉春彦
3.夏の夜に消えた光
9/33

-2-

バスに揺られること1時間とちょっと。

バスは小樽駅前にたどり着く。


「帰りのバスは……えっと?」

「今は9時48分……2時12分か…それを逃すと5時までない」

「なら2時のにのらないと、遅くなるのはね…」


私が腕時計を見ながら言うと、由紀子が2時12分と書かれたバス停の文字に指を置きながら言った。

私達はまだ中学生。

遅くなると親が心配する。


「ならパパッと終わらせちまおう、終わったらどっかで昼食って、それで丁度いい時間になるさ」


バスで熟睡していた浩司が先頭を歩く。

それに義明、加奈がついていき、私と由紀子ははしゃいだ3人の少し後ろをついていった。


3人は時折走っていくので、見失いそうになるが、どうせ行先は1つしかないのだからと、私達はゆっくりと歩いている。


「千尋?」

「いや、何でもない」


私は一瞬、視線を感じて後ろを振り返ったが、何もなかった。


「明後日はね、花火だけじゃないの」

「…というと?」

「明後日は校長先生の作った蕎麦も食べれるんだ」

「そうなの」

「後は美奈先生の手料理かなー」


由紀子は明後日に起きるであろうことを私に話す。

…聞いている限り、花火よりも食べることが主な目的になっていたりするが。


「後はみんなで適当に持ち合って、外で食べるんだ」

「由紀子、食べることが目的?」

「うん、普段は余り食べないようにしてるからねー」

「何故?」

「だって、食べすぎると太るじゃない」


由紀子は自分の腹部に視線を落としながら言った。

私も彼女の視線につられる。


「気にすることもないけれど」

「いーや、お母さんが太りやすい体質でさー、私も気を付けないと…太るときは一瞬よ?」


由紀子が私の方を見ながら色々と喋りだす。

私は時折彼女の方を見て頷いたりしていたが、ふと前方の異常に気付き、由紀子の前に手を出した。


「ん?どしたの?」

「前…由紀子は後ろに」


私は由紀子の前に出した手で彼女の裾をつかむと、少し強引に私の背後に引っ張ってきた。

私達の1ブロック前の信号で、浩司達が誰かに絡まれている。

その誰かは背丈は一回り大きい、ぱっと見大人のような3人の男だった。


「あのジャージ姿…どこの学校かしら?」

「あ…ここの高校のジャージなはず…」

「評判は?」

「不良高校…先生もここには絶対行くなって」

「…そう」


私は背後の由紀子の言葉を聞きながら、少し面倒ごとに巻き込まれたことを呪いつつ浩司達に近づいていく。


「どうするの?」

「…あの様子じゃ大人に助けを求めたところで彼らは聞きやしなさそうね」


白昼の交差点。

よくもまぁ堂々とそんなことができるなと、他人事に思いながら見ていると、浩司と義明が引っ張られて建物の裏側に連れていかれるところだった。


「あ!」

「…由紀子はそこの交差点で待ってて」


「5分経って私が戻らなければ、大人を呼んでくること」


それを見て声を上げかけた由紀子の口を塞ぎ、交差点にいるように言うと、私は建物裏に消えた集団を追って走り出す。


消えた浩司達に追いつくと、浩司と義明が加奈を守りながら3人の前に立っていた。

表情は怯えていて、足も震えている。


私はスカートでなくて良かったと思いながら、私に背を向けている3人に近づいていく。

3人の男は、音もなく忍び寄る私に気が付かない。

浩司も義明も、男が邪魔で私が見えていないらしい。


スーッと近づき、そのまま、私から見て左にいる一番大柄な男の首元に手を伸ばした。

左膝を彼の背中に当てて、そこを軸にして男をヒョイと浮かせる。


そして、浩司と義明の横の、コンクリート壁に顔面を思い切り叩きつけた。


グシャリとした感触と、男の悲鳴、浩司と義明の驚いた声が一度に私の耳に届く。


「…鼻の骨と、歯が5本。今ならサービスするけれど、貴方方も受けるかしら?」


一瞬で静まり返った場に私の声だけが通った。

気を失って鼻と口から血を噴出した男の背中のあたりをつかみあげて、残った2人に見せつけるように揺らして見せる。


「……妙な真似を見せたら…次はない」


何も言えないでいる2人の前に、つかみあげた男を放り投げる。

意識を失った男はドサッと2人の前に崩れ落ちた。


「行こう…」


呆気にとられた男2人を一瞥すると、私は2人と同じく固まったままの浩司と義明の背中を押して現実に引き戻し、加奈の手を引っ張って由紀子の待つ交差点に戻った。


「千尋!大丈夫…だった?」


由紀子は私を見るなり、何か違和感を感じたのか、心配げな口調から、歯切れの悪い口調になりながら言った。


「何も…暫く小樽には来れなさそうだけど」


私は少し怖がるような視線を送ってくる3人の方を見ながら言う。


「そっか…でも、無事で良かった…」

「行こう」


すっかり萎縮してしまった3人の代わりに、私と由紀子が前を歩く。


「本当に大丈夫なんだよね?」

「ええ」


私は平然と言うと、目の前まで迫っていたデパートの前で止まる。


「ここかな?」


そういって3人に振り返ると、彼らは何も言わずに首を縦に振った。


どこか薄暗い店内に入っていき、少しづつ調子を戻してきた3人の後ろをついていく。

夏真っ盛りだからか、花火のコーナーは目立つ一角にあって、日曜日だからか、多くの人がそこにいた。


「千尋はどれがいいと思う?」


加奈が両手いっぱいに持った花火を私に見せていった。

見ると、浩司も義明もそれぞれドッサリと花火セットを持っている。


「私、種類とか知らないから…加奈の好きなのでいいよ」


私は加奈の手元を見ながら言う。


「うーん、選べないから全部!」

「………」


私はそう言って浩司のもとに駆けていった加奈を見て、肩を竦める。


私以外の4人の手にはこれでもかというほどの花火。

まだ少し足りないとかで、私も幾つか持つことになった。


「学校の人数分以上あるよね?」

「まだ小学生以下の子もくるから」

「そういうこと…」


私は両手に持った花火に目を落としながら言った。

それからすぐに会計を済ませて、両手に袋を持ってデパートを後にする。


「で、今は12時過ぎ…どこかでお昼にしましょうか」

「だなー、適当に探すか…」

「何か食べたいものあるか?」


浩司が私に振り返って言う。

私は首を小さく横に振った。


「加奈と義明は?」

「あたしはデザートさえ食べれればそれでいいよー」

「俺もなんでもいいや」


ということで、何でもある定食屋に入っていくことにした。

丁度昼の一番混む時間帯なはずなのだが、運よく並ばずに済み、思ったよりも早く店から出てこれた。


「さて、帰るか…」


料理が特に印象に残らなかったからか、浩司は少し物足りなさそうな声で言った。

浩司の横に立つ私も、小さくうなづいて足を進めた。


「あ、そういえばさ、千尋、帰ったらウチに来てよ」


バス停までの道のりを歩いていると、由紀子が私に言った。

さっきと同じく、私と由紀子の前では3人が盛り上がっている。


「?」

「ちょっと渡したいものがあるんだよね」

「…なら、行く…けど」


私は思い当たる節がないので、歯切れの悪い答えになる。


駅に着き、2時までバスの待合室で駄弁り、そして私が日向に行くために乗ったバスに乗る。

丁度時間もぴったり同じだ。


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