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「今日はヤケに警戒するじゃないか」
私は少し遠くに来て座った黒猫に言った。
彼は、少しだけ毛を逆さ立ててこちらをじっと睨んでいる。
「何もこの町に来てから人を殺したのは初めてではないだろう?ああ…そうか、その匂いがついたままだったかな?血と硝煙の匂いがね」
私はその猫の方へ体を向ける。
そして肩を竦めて苦笑いした。
「何もやりたくてやったわけじゃない」
私は一向に警戒感を解かない彼を何かに見立てて語り掛けた。
猫は、警戒を解かないながらも、少しづつ近づいてきている。
「こうでもしないと生きてけなかったのさ、今回のは例外だけどね?流石に血を見るのに慣れすぎた」
私はそっと彼の頬に手を伸ばす。
てっきり払われると思ったが、思いのほかすんなりと受け入れてくれた。
「君と会った日の私と、もう違う」
そう言って、少しのほほえみ交じりの表情で、彼をそっと持ち上げると、私の傍に持ってきてちょこんと座らせた。
「あの日の私はどんな顔してたっけか」
私はずっと彼の背中を撫でまわしながら言う。
「これで終わりだとは思わないけどさ。もう逃げられはしないんだ」
「でも、ここで半年…普通の人の暮らしをしてもいいと思うよ?」