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罪深き町に鉄槌を  作者: 朝倉春彦
6.霧の奥の自分
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-2-

「それで?」


私は浮かない顔で出てきた浩司に声をかける。


「駄目だった?どうして」

「知るかよ、俺が辞退しますって言ったら、一言。それは受理できん。だってよ」


浩司は少し不貞腐れながら言った。

大方、あの神主に小言を言われていたのだろう。


でなければ、私は神社の前で30分も待つようなことはないはずだ。


「まぁ、儀式の練習は葬式終わってからでいいって言うからそうするけどよ、なんか不気味だったぜ」

「…?」

「俺がいうのもなんだが、あの程度にそこまで入れ込むもんかね?」

「……」


私は首の動きだけで浩司の言葉に反応する。


「まぁ、知らねぇが…」

「ところで」


私は家への道を外れる方を向いて立ち止まる。

向いたのは港への道。


「私はもう少し、一人で外の空気を吸いたい」

「いいぜ、どうせ夜までは何もしないさ」


浩司はさっきまでの様子を隠して、私を思いやってくれる。

私は小さく手を振ると、目的地に足を進めた。


英語は簡単な暗号だ。


私は手帳を取り出して、もう少し調べてみると、裏表紙が妙に厚いことに気づく。

薄い人口皮の裏表紙を、髪留めを駆使して破いてみると、厚紙が一枚出てきた。


私はそれをとって、小さくため息を付きながら、手帳とともにポケットにしまう。

目的地は、目の前だ。


港から、少しバス停の方へ外れた先に、真新しいトンネルがある。

その横には、祖父に教えてもらった岬に繋がる獣道がある。


トンネルの路肩にハザードを出して止まってる車と、横に佇む人影が一人。

私は調子を変えずに、ゆっくりとそれに近づいて行った。


「まさか1か月で会うことになるとはな」


私の姿を見て、男が言った。


私の東京時代の親代わり兼教師代わり。

そして、私の"上司"だった男。

水野友和だ。


「"あれ"を持たせた時点で嫌な気はしてたよ」


私はそういうと、彼の横に立って、車に寄り掛かる。

そして、手帳を友和に渡した。


「"これから毎朝この場所で"何をやらせるつもり?」


私は厚紙に書かれたことを話の切っ掛けにして口を開く。


「何も…ただ会話するだけだ。お前は1月ほどこの町に詳しいからな」

「……例大祭後の秘祭について?」

「ああ、それもある…お前にはそれしか用がないが」

「気になる言い方ね」


私がそういうと、友和がクッキリとした二重の眼をこちらに向けた。


「5月の時と変わらん。金と立場をはき違えたやつがいるのさ」

「暇にならない職場ね」

「来るか?」

「まさか」


私は肩を竦めて、目を背けた。


「で、本題だ」


友和は仕切りなおすように言うと、車のドアを開けて、私にファイルを渡した。


「まず1つ目。この町の例大祭の核となる人間を上げてくれ。お前のところの従兄が例大祭に1枚噛むんだろう?」

「ええ…それに、ちょっと別件で調べていたこともあって、2日くれれば上がりそう」

「好都合だ。次に2つ目。明日から、毎朝4時に、あれの中身を持ってここに来い。1か月もあれば少しは鈍るだろう?」

「…?」


私は首を傾げて友和を見る。


「簡単な話さ、お前の訓練がてら小樽の密売ルートを一つ消すだけさ。ま、独断だが」

「…わかった」


私は友和から目を逸らして答える。

彼は鼻で笑うと、私の肩をポンと叩いて車に乗り込んだ。


「今度こそ、最後だ」


小さくそういうと、ドアを閉めてエンジンをかける。

黒い、小さなスポーツカーは小さく震えると、私を軸に転回して走り去っていった。


残された私は、しばらくトンネル内に佇むと、小さくため息を付いてから元来た道を戻り、獣道の方に入っていった。


腕時計によれば、時間はまだまだお昼前。

立った今、一人でいたい時間が増えた私は、一番心が落ち着く展望台へと上がっていった。


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