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罪深き町に鉄槌を  作者: 朝倉春彦
4.例大祭の暗部
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-1-

1学期もあっという間に終わり、夏休みに入る。

平日も日曜日みたいに暇になり、私は暇の潰し方も知らずにフラフラと過ごしている。


朝は相変わらず早くに目覚めて港の黒猫の所に行って海を眺め、帰ってくると浩司が遊びに誘ってくる。

言われるがままに彼について行って、学校の子と遊んで、夕方には帰ってくる。

そして、展望台まで行って夕日を見つめて、帰って夕飯を食べたら、すぐにお風呂に入って、寝る。


そんな日が延々と続くと思い始めた3日目。

浩司が祖父に言われて漁に出るとのことで、私は1日中暇になった。


いつものワンピース姿ではなく、白いYシャツとジーンズ姿。

頭には麦わら帽子ではなく、青いハンチング帽。


時間は朝の8時半。

こんなに暇なら、図書館にでも行って宿題を片付けてしまおうと、鞄に筆記用具と教科書類と宿題を詰め込んで家を出た。


一段とまぶしい日差しに目を瞑り、明かりに慣れて目を開けたころには、目の前の向日葵が風で揺れていた。


道中の、なぜかポツリとある自動販売機で瓶のコーラを買って、ついてた栓抜きで開ける。

飲み歩きになるが、誰も気にしない。


平日は9時から空いている図書館につくと、誰もいない。

中の人は事務所で涼んでいるのか、それっぽい部屋からテレビの音が漏れている。


風通りがいいのか、外の暑さに比べれば、随分と過ごしやすい。


私は適当な場所に陣取って、鞄から片付けるプリント類を取り出すと、それに手を付け始めた。


量はそこまで多くなく、ボールペンを軽快に走らせていくと、12時のサイレンの前にはすっかり終わっていた。


最後、英語の自由記述の文章をサッと書き終わると、カチっとボールペンのペン先をしまい、椅子に反り返る。


頭の体操程度にはなったかな?


私は筆箱にペンを入れ、プリントをファイルに挟み込むと、鞄に入れる。

教科書に用はなかった。


だけど、考えてみれば、従兄はこれに手を付けるのは、最終日くらいまでないだろう。

義昭と加奈もきっとそうだ。

由紀子は、じわじわと進めてるかな?


私はこの場にいない、クラスメイトを思い出しながら鞄を手にもって立ち上がった。


「あのー……すいません」

「?」


妙に気分よく立ち上がり、鼻歌交じりにでも出ていこうかとしていた私を男の声が呼び止める。

振り返ると、ポロシャツ姿の中年の男が私に近づいてきた。


「この町の方ですか?」

「はい…」


私は表情を崩さずに、男をじっと見る。


「私は富岡といいます。この町の秘祭について調べているのですが…」

「なら、私に聞くのは間違ってます…今月からこの町の住民になったばかりですから」


彼の発言の途中で、被せるように私は言った。


「そうですか…去年、ここに図書館ができたのを知って、来たかったんですが、どうも時間が取れないで…今になったんですが…」

「なら、あそこに郷土資料のコーナーが…」

「どうも…」


それと同時に、私の好奇心に"秘祭"という単語が引っかかった。


「秘祭って…?何かこの町にあるんですか?」


私が自分から話しかけるのも珍しいことだと、他人事のように思いながら、私は口を動かした。


「…あまり明るい話ではありませんよ」

「…構いません」


私は元の場所に戻って、椅子に腰かける。

彼も、一度入口のほうを見てから、私の向かい側に座った。


「ここには誰も来てませんよ、9時からずっと」

「不用心だなぁ……」

「長閑な田舎町ですから」


私は同級生を相手するような声ではなく、昔の自分に戻ったように、落ち着いた声で言った。

彼はそんな私のことを知ってか知らずか、少し緊張気味に語りだした。


「12年に一度、行われているという祭なのですが…」

「それなら、例大祭のことですか?」

「いえ、例大祭の後です…その祭りのことを調べていまして…」


富岡は鞄からノートを取り出して、それを開いた。

一緒に出て来た資料のようなものに書かれていた彼の名前。

その横の記述から、そこそこ有名な大学の教授であることと、民俗学者であることが分かった。


そこそこお偉いさんのフィールドワークといったところか。


「それで…あったあった、この場所で秘祭が行われるそうなんですが…場所がわからなくて…地元の人にも知られていないそうなんですよ」


そう言って、彼のノートに貼られた白黒写真。

見ると、浩司達が私を遊びに連れて行ってくれた場所だった。


「………」


私は彼に教えようかとも思ったが、まだこの男を信頼するのは程遠い。

今回は先送りにしよう。


「大人が知らないのなら…私達子供が知る由もないでしょうね」

「そうですか…」


私は彼をじっと見る。

このマッチ棒みたいな男は、何でか知らないが、この秘祭にご執心みたいだ。


「…いつかな、何日か前、友達にも言われたんですよ」


だから私は、自分の好奇心と、もう一つ…ちょっとした危機管理のために話すことにする。


「はい?」

「この町の例大祭の後に何かあるって、何年かに1度、町の代表者を決めて、代表者を頭に立てて何か儀式を執り行うそうです」

「それをどこから?」

「その子も風の噂で聞いたって言ってましたから…」

「ですよね…」

「ただ…」


私は彼の背後に並ぶ、郷土資料のコーナーを指さした。


「幸い、古い本が捨てられていることもなさそうです。去年までここがなかったなら、そんな本とも縁がなかったのでは?」


そういうと、13時を示すサイレンが鳴り響く。

私はすっと立ち上がって鞄に手をかけた。


「そろそろ帰ります…調べているもの、見つかるといいですね」

「ええ、ありがとうございます…」


彼は私に一種の畏怖のような視線を向けると、すぐに本棚の前に立っていた。


自由研究、小学生のクラスはあったな…

私も少し興味がわいたことを調べてみよう。


図書館を出て、私は何もなかったかのように、町の出入り口のほうにある商店街を目指した。


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