第7章 【猿神】
前書き
「面白い!」「続き読みたい!」と思われた方は、是非
ブックマークをして下さい。
下の方にある評価は5つ星、宜しくお願い致します!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
是非、宜しく願い致します!
私達はヴィシュヌの居城を取り囲むと、降伏勧告の使者を送った。
城を守るのはヴィシュヌの妻である吉祥天だ。
前ループでは、夫が行っていた事を薄々感じていたのに止められず、無力な妻で申し訳ないと言っていたな。
あまり手荒な真似をしたくなくて、降伏を促したのだ。
すると、城壁から使者の首が落ちて来た。
口の中に返書があった。
それには、「夫を殺した者に降伏はしない。城を枕に討ち死にする覚悟」と書かれていた。
恐らく時間を稼ぎ、援軍の到着を待っているのだろう。
「援軍に備えて警戒を怠るな。それから部隊を分ける」
ルシエラが指示を出した。
「奥様、あれをご覧下さい!」
吉祥天が城壁から見ると、魔軍の後方が騒がしく、一目見て色めき立っているのが分かる。
「おぉ、あれは忉利天からの援軍ですぞ!」
「よし!今こそ城門を開け、魔軍を駆逐する時ぞ」
吉祥天は、城兵を率いて打って出た。
魔軍は神兵の挟撃に合い、壊走し始めた。
「それ!皆殺しだ!」
吉祥天は大薙刀を振るいながら、魔兵を追い散らし、敵将を見つけて打ちかかった。
魔将の方も敵総大将に気付いて、戦斧を振り上げた。
「うぉぉぉ」
戦斧を躱すと、大薙刀を横に払う。
受け止められると、下から上に掬い上げる様に斬るが弾かれ、戦斧が前髪を掠めた。
お互い強敵である事を認めると、距離を取った。
「私はヴィシュヌ神の妻・吉祥天である。お前は?」
「私は大魔王・クラスタ。西方統帥を務める」
「思ったより大物ね。貴女、気に入ったわ。降伏しなさい。援軍も到着したし、もう貴女達に勝ち目はないわ」
「くっ、ははは。軍師の策にハマったな。あれが本当に援軍なら、私達はとっくに壊滅している。よく見てみろ!」
吉祥天が目を凝らしてみると、援軍のはずの神兵が我が軍に攻撃を加えている。
「ここに来るまでに、どれだけ神兵と戦ったと思っている?あれは剥ぎ取った鎧を我が軍が着て、援軍のフリをして、城から打って出させたのよ。見ろ!」
振り返ると魔軍の大軍が城に押し寄せ、落城寸前だった。
「くそっ!こんな手に引っかかるとは…」
「お前の方こそ降伏しろ。陛下が何故かお前を気に入られていてな?丁重にお迎えしろと言われている」
「ふざけるな!」
吉祥天は城を捨てて逃げた。
敗残兵をまとめながら、落ち延びて行ったのは流石の手腕である。
「逃すな!追撃しろ。何としても捕えろ!」
「陛下、あの者に固執する理由は?」
「吉祥天は前ループで、夫の敵討ちで暗殺しに来たのよ。必ず復讐しに来る。それに、今ループでは猿神達にまだ会っていない。きっとハヌマーンに援軍を求めに行く。そうなると面倒くさい事になる」
「なるほど。ビゼル!吉祥天を追い、捕らえて連れて来るのだ。抵抗するなら殺して良い」
「はい。軍師、朗報をお待ち下さい!」
ビゼルが大人しく言う事を聞く相手は、私とルシエラだけだ。
扱いに慣れると、上手く操縦が出来る。
ビゼルはおだてて気分良くしてやればいいのだ。
単純過ぎて、他の魔将よりも実は扱いやすい。
魔兵はしつこく追撃して来て、何度も追い付かれた。
既に体力も神力も底を尽きそうだ。
猿王スグリーヴァの城に到着した時には、100人も神兵はいなかった。
追いつかれていれば、ここで討ち死にしていただろう。
ボロボロになりながら、猿王城の門を潜った。
ビゼルが到着した時は、ちょうど吉祥天が城内に入り、城門が閉じようとしていた時だった。
「しまった。あと一歩遅かったか。後退し、野営の準備をしろ!」
こうなってしまっては、長期戦になると踏んだのと、地理は相手の方が知り尽くしている。
夜襲を警戒して見晴らしの良い場所まで後退させたのだ。
夜半になり、果たして城から続く松明の灯りが、大軍であることを物語っていた。
その灯りは陣を取り囲んだ。
完全に包囲され、逃げ場は無い。
パオォォーン!パオォォーン!
低い笛の音が大音量で奏でると、騎馬隊が近づいて火矢を放つと、すぐに第2陣が走り寄せ火矢を放ち、後方に向かう。
これを繰り返す「車懸かりの陣」だ。
矢を撃ち終わると、今度は投げ槍に持ち替えて繰り返した。
ビゼルの陣は火の海となり、壊滅した。
「報告!」
「何事だ?」
「はっ!北方統帥・ビゼル様の陣が壊滅。ビゼル様も消息不明との事です!」
「くっ、全軍、続け!」
「陛下お待ちを。敵はビゼルを壊滅し、勢いに乗っております。また、地の利は敵にこそあれ、我が軍は不利です。朝まで待つべきです」
「それではビゼル達が全滅してしまう」
「お気持ちは分かりますが、陛下に万が一の事があれば魔軍は終わりです。それを承知なら、お止め致しません!」
「ファルゴ!捜索隊を出して、1人でも多くの北方軍を救うのよ。それからビゼルの消息を探って頂戴!」
「畏まりました!」
「焦って頭に血が昇ってたよ。冷ましてくれて有難う、ルシエラ」
ルシエラは確かに沈着冷静で頭の切れる軍師だ。
だが、クール過ぎると思う。
本当は誰よりも情熱的で優しい事を私は知っているのに。
心配で眠れず、朝日が昇るとすぐに出発した。
陣が張ってあったと思われる場所は、焼け焦げて生存者はいなかった。
『死者蘇生』
黒焦げに、消し炭の様になった魔兵が生き返っていく。
「凄い。何と凄い呪文なんだ」
「あー、言い忘れていたわ。私は唯一神の娘らしい。だから私だけ、不老不死で死者を蘇生出来るらしいよ」
「何と!」
皆んな絶句した。
「陛下、今の話は我々以外では、してはダメですよ」
眉を顰めながらルシエラは、声を顰めた。
人間が神と呼ぶ存在をも創り出したのが、唯一神だ。
その唯一神も唯一と言うくらいだから1人だと思われていたのだが、どうやら同族が存在するらしいと、神々の中ではタブー視される噂話だ。
唯一神の娘が存在するなら、あの話は事実と言う事になる。
「もうここまで聞いたんだから、出し惜しみせずに最後まで教えて」
聞いても嘘か真か誰にも分からない、私から聞いたとは口外されない様に、と念を押されると、話し始めた。
唯一神は「旧世界の魔神」と呼ばれた神の1人らしい。
「旧世界の魔神」は、今の神々でさえ、行う事が出来ない力を持っていたと言われている。
要約すると、それだけの事なのだが、勿体ぶる話なのに蛇足が長い。
これは、真実を隠す為に、後から付け加えられたもので、全て事実なんだろうと感じた。
何故なら、私が唯一神の娘だからだ。
なるほど、「旧世界の魔神」か…他にもあんなのがいるかも知れないのか?
前ループで攻撃を防ぐ事も出来なかった。
身体状態異常無効スキルも何の役にも立たなかった。
あれが「旧世界の魔神」ね。
話をしていると斥候が駆け込んで来た。
「陛下!猿神達が攻めて参りました!」
「何だって?」
大軍に城を攻められているのだ、通常なら籠城を選択する。
城に籠っている方が敵を撃退しやすいからだ。
攻めて来たと言う事は、自分達の強さに余程の自信があると言う事を示している。
「何と強気な」
フィーロが呆れた様子で絶句した。
「ビゼルを倒したのだ、強気にもなるだろう?」
ロードが吐き出す様に言った。
「だが、所詮は猿。思い知らせてやる!」
クラスタが息巻いた。
「鶴翼の陣を敷け!」
ルシエラが号令すると、兵達はすぐに鶴翼の形に陣形を取った。
「恐らく、中央突破を図るに違いないよ?」
「流石は陛下、よく戦況を読んでいらっしゃる。策を成功させる為に、陛下には囮になって頂きます」
「分かった」
私はすぐに兵を連れて中央に配置した。
中央が薄く、両翼は厚く布陣されている。
猿神達は、総大将である私の兵が少ないと見て、正面突破を図り、猪突猛進して来た。
両翼が包み込むよりも速く私達は交戦する事となった。
驚くべき事に、軍師であるハヌマーン自ら突撃して来ていた。
「多方、敢えて突破させて時間を稼ぎ、両翼に包み込ませて殲滅を狙ったのであろうが、愚かよな?総大将である、お前を討ち取れば俺達の勝ちだ」
ハヌマーンは私を見つけると、槍を振り回して突撃して来た。
繰り出された槍を受け流してカウンターを入れるが、軽く弾かれて、交錯した。
「知ってるよハヌマーン。ゲームじゃ有名だよ」
「訳の分からない事をほざくな!」
高速で繰り出された槍は、無数の連撃となって私を襲う。
全てを弾き、受け流す事が出来ずに、急所をずらして左肩と胸の間を貫かれた。
「もらったぁぁぁ!」
片手で槍を回し、遠心力で破壊力を増した一撃は、頭を掠めて私の兜を飛ばした。
「えーいっ!」
身体を伸ばして繰り出したのは、剣道の片手突きだ。
ハヌマーンの左胸を刺したが心臓からズレ、力が足りず刺し切れなくて、致命傷を与えられなかった。
「おぉらぁぁっ!」
頭上から叩き付ける槍の穂先が私の頭を砕き、噴水の様に2m以上噴血すると、地龍から転げ落ちた。
馬上から降りる余裕はなく、代わりに私の身体を槍で刺してそのまま持ち上げた。
「総大将、討ち取ったりぃぃぃ〜い!」
猿神達は喜び、勝利を確信して雄叫びを上げた。
しかし、魔兵は意に返さず両翼が突撃して来た。
左右の翼が閉じる様にして猿神軍を包み込んだ。
怒号が飛び交い、剣槍がぶつかり合う音が木霊する。
挟撃された猿神軍は恐慌状態となり、逃げるも味方同士がぶつかり合って転び、そこを仲間に踏み潰されて命を落とす者もいた。
「狂ってやがる。手前らの総大将がお死んじまったてのに、気にもしてやがらねぇ。忠誠心のカケラもない奴らだな。ま、人間なんかに忠誠なんざ誓う訳もないか。こいつも可哀想に、悪魔共に利用されただけだな」
槍を振るって、私の遺体を地面に向かって放り投げた。
私は身体を捻って着地した。
「ふぅー。槍が抜けなくて困ってたのよね」
そう言いながら『魔法箱』から魔剣を取り出して構えた。
「な、何だと!?確かに死んでいたはずだ!」
「ようやくだけど、自分の戦い方が見えて来たわ」
剣帝の剣技で攻撃を畳み掛けると、ハヌマーンは防戦一方となった。
「どうしたの?そんなものなの?猿神達は斉天大聖・孫悟空のモデルなのよ?」
「誰だ、そいつは?」
西遊記の物語の主人公なので、当然実在しないし、神々の中にはいない。
『猛毒霧幻』
「ごふっ…ぐ、がぁ…」
ハヌマーンは、口から血を吹いてよろめいた。
「光、闇、即死、魅了、石化、麻痺、睡眠など殆どの状態異常が無効だったけど、唯一毒だけ耐性がDだったね」
ハヌマーンは苦しそうに喉を押さえて地面に倒れ込んだ。
「ふふふ、剣で斬りかかると思った?剣に注目させて、毒を撒き散らしたのよ。だから、誰も私を救出に来なかったのよ。私は全ての状態異常無効持ちだからね。毒だって平気で口に出来るのよ?美味しくないから、しないけどね」
話を最期まで聞く事なく、ハヌマーンは絶命していた。
「あははは…」
私は勝利し、高らかに笑った。
わざとらしい笑いなどではなく、心の底から笑った。
「これだ、これ。私の強味は不老不死、状態異常無効な事だ。死なないし、状態異常にならないのだ。そんな事は分かり切っていた。敵の攻撃を避ける必要がない事も。周りを巻き込んで皆殺しにすれば良い。どうせ後から生き返らせれば良いんだ。私に足りないものは覚悟だけだった。」
私は自分の半径10mに腐敗する毒ガスを撒き散らしながら、猿王スグリーヴァ目指して突っ込んだ。
私の毒ガスに巻き込まれて、多くの味方も死んだ。
「正気か、こいつ?狂ってやがる」
「私を追い詰めたのは、お前達だよ。悪魔っぽいだろ?敵味方お構いなしなんて?あははは」
スグリーヴァは剛力無双で、猿神の中で最強だ。
一撃一撃を受ける度に、肩から真っ二つにされたり、胴斬りで真っ二つにされたり、手足を落とされたりしたが、すぐに元に戻り、ゆっくり歩きながらスグリーヴァに詰め寄って行く。
「ふふふ、何をしても死なない相手だ。絶望を感じた?」
スグリーヴァは顔面蒼白になり、槍を投げ出した。
「降伏する。頼む、命だけは、命だけは助けてくれ〜」
「ねぇ、あれを見て?」
右後ろを確認させて、スグリーヴァがそっちの方向を見ると、剣を一閃して首を落とした。
「ダメよ。助けるはず無いじゃないの」
猿王スグリーヴァが死に、残った猿神達は震えて降伏した。
「吉祥天を連れて来い!」
猿神達は恐れて、吉祥天を引き摺って来た。
「貴女が貞淑な妻で、善人だと言う事は知ってる。でも貴女はここで死ぬの。安心して、すぐに生き返らせるから」
剣を一閃すると、吉祥天の首は落ちた。
この戦で亡くなった者を全員、生き返らせた。
いつも読んで頂いている皆様、ありがとうございます。
作者と読者を繋ぐものは、「星の評価」しかありません。
評価をされないと、面白いと思われているのか、いないのか判断がつきません。
作者の星5段階評価は、以下の様に受け止めています。
星5…面白い。今すぐ続きが読みたい。早く更新して欲しい!
星4…まぁまぁ面白い。暇つぶしにはなる。続きあるなら読む
星3…面白いとも面白くないとも、何とも言えない。
星2…イマイチだな。もう少し面白く出来るんじゃないの?
星1…面白くないな。続きを読む気がしない。
評価なし…評価するにも値しない。星1すらも価値なし。