ある人の一生の後悔
顔に当たる風がびゅうびゅう音を立てて耳の横を通り過ぎる。
赤いライトが空とビルの間でちらちらひかっている。
今日はいろんなことがあった。
理不尽なことで沢山怒られたし、年下からは汚いものを見るような目で蔑まれる。
誰も助けを出そうとはしない。
これだけたくさんの人が住むこの街で私はどうやらひとりぼっちなようだ。
いや、彼らもひとりぼっちなのかもね。
社会のゴミだ、無価値な人だというようにみられてしまうとそこから這い上がるのはなかなか難しい。
何かにつけて「あの人は〇〇だから」とマイナスな方向ばかりに吸い寄せられて、褒められることはなくなった。
こんな生活に嫌気がさしてしまった。
だから今、ここにいる。
せっかくなんだから誰かに見て欲しい。
そして、綺麗な景色が見たかった。
この光は私のような人間の涙で輝いている。
目に焼き付けておきたかった。
これ以上ここにいても仕方がない。
靴を揃えていると、なんだかドラマのワンシーンのような気がした。
結局私の人生で私が主役になることはなかった。
常に誰かの後ろにいて目立たないエキストラのような人生。
次はうまくやれたらいいな。
馥郁とした花の香りがする。
甘い。
金木犀か?
いや、もっと甘い。それでいて嫌な気持ちがちっともしない。
吸い寄せられるように、体は重力を失い加速を始めた。
しまった。
ついに行動してしまった。
覚悟はしていたけど死にたくない。
まだだめなんだ。ともかくだめなんだ。
なんとかしなきーーーー
意識は遠く、目の前は真っ暗になった。