表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裸体の馨  作者: jhgdykjhgdyrxkl
3/4

 ♢西暦二千四九年――……。

 四月十九日――(月)……。


 一〇時五九分。


「あーややっ、どうしたの? 早く中に入ろうよ」


「ぇ……?あ、うん……」


 三限目が始まる五分前。

 もうすぐ休み時間は終わろうとしていた。


 渡り廊下を過ぎ、本校舎の向かい側にソビえ立つ第二校舎の二階。

 今でこそ、第二校舎などと言われているが、嘗ては女子短期大学の校舎であった。女子短大が廃校し、しばらくして新校舎の増築工事が完了――――その後新校舎が本校舎となり、特別教室を旧校舎(第二校舎)に設けることとなった。


 旧校舎と言っても、まだ比較的キレイな方だった。旧校舎と言えば、薄暗くて、埃っぽく蜘蛛の巣がそこら中に張り巡らされ、打ち付けられた板や、床の抜けた廊下、如何にも出そうな雰囲気なものを想像するが、実際はそうでもなかった。


 けど例外に、やっぱり新校舎に比べると、多少の薄暗さはあった。

 使い物になる電球も限りがあり、所々に点滅していたり、あるいはそもそも点かない。帰するところ、太陽が大きな雲に覆われた日には、とても薄暗くて、まともに授業を受ける生徒の方が少なかった。大体影に隠れて寝ていた。


 また、どこか黴臭さがあるような気がした。


 化学室前の廊下で、浅野彩愛あさのあやめは教科書を胸に抱き、窓の外を眺めるように、呆けていた。


 その日は生憎の天気に包まれて、おり、空はドンヨリ鼠色に染まっている。さもなくば、こんなにも気分の上がらない日は無い。


 また思った。


 薄墨色にくすんだ空に霏霏として降る灰色の霜の花フロストフラワー

 炬燵に火を灯し、蜜柑を他所に骨牌を捧げる。


 戦時中の空の色を思い出した。そういえば、二限目は世界史だったっけ。確か先生が戦時中の貴重映像を見せてくれた気がする。クレショフ効果というやつだろうか。


 薄っすらと、涅色の機体の戦闘機が空を横切った気がした。


 ザァザァと、強く窓を打ち突ける大粒の雨。

 窓越しに伝わるけたたましい程に、天気は酷く悪かった。


 菜種梅雨だろうか。


 窓硝子にスルリと辷る滴り落ちる雨粒はまだ、窓硝子に付着した砂ぼこりを取り切れていなかった。


「………………あ! わかったっ!! あやや、好きな先輩の事でもみてたんでしょォ???」


 福地由唯ふくちゆい――――彩愛と同じクラスの仔。由唯とは高校の入学式の日に初めて知り合った。



 入学式初日、盛大に遅刻してきた由唯は、式の途中で静かに体育館に来、汗だくになりながら彩愛の隣の空席に、静かに腰を下ろした。


 窮めた様子の由唯に驚きつつも、彩愛はまた、呆けていると――「な、何の話をしていたんですか?」と、由唯の方から話しかけてきたのが始まりだった。



 比較的クラスの中でも小さい方の彩愛と比べても、由唯は小柄で、背はいつも前から一、二番目の仔だった。女の子と言えば、女の子とでもなく、彩愛と由唯とでは肉の付き方が大きく相違していた。程よく恵まれた彩愛に対して、由唯は潅漑カンガイに飢えていた。燻るバカリで、一向に窈窕には恵まれず、おべっかを言うのにも少し無理がある程だった。


 彩愛の癖っ気のある長い黒髪ロングに対して、ゆるふわにカールのかかったボブの由唯――――――そんな彩愛と由唯、二人の組み合わせは、校内でも中々の人気を誇るものだった。言わば二大女神とでも、強いて、乃至は世界一推したい姉妹とまでも謳われていた。あしらわれる暁には、とうとうついにはレズとまでも言われる次第に。


 尤も、彩愛も由唯も同性愛者でなければ、どちらも恋愛対象は、異性に値した。

 もちろん、姉妹なワケでもない。が、傍から見たらそうそう、なものでもあったのだろう。こじ付けだった。


「ふぇぁッ!? なななななななな、なにを言っているんだ由唯ちゃんッ?!」


 由唯の荒唐無稽に包み隠さず、あからさまな動揺に続き、彩愛の周章狼狽ぶりには、朗らかに微笑みかける由唯も。さして仄かに赤らんだ頬を化学の教科書で隠そうものなら、真赤に染まった耳がバレバレだった。頬を隠して耳隠さず、とは些か安直にも程があるな、と思いつつも、イタズラに微睡ホホエんだ由唯は誰も止められない程に、完全にスイッチが入っていた。が、言うなれば、誰も敢えて止めに入らなかったのかもしれない。


「ビンゴ!!」


 健気に大きくガッツポーズを決めて、幼気な瞳で、破顔一笑すると、自分より少し背の高い彩愛を見下し始めて。果てには、欣喜雀躍と、さながら大船に乗った気になって小バカにし始めた。


「あっららぁー、あやちゃん。ヒョットシテ……動揺しちゃってるゥ?? 口調がおかしくなっていますよ、オホホホホ」


 福地由唯は赤らんだ頬の彩愛を、これ見よがしに彩愛の周りをクルクル回り、踊り出す――――はぁ~回レ回レ回レ回レ回レ回レ回レ回レ回レ!


 華麗に花弁散らすように、由唯は手に持つ化学の教科書で彩愛を煽ぎ始めた。


「んーーーっ!! 由唯ちゃんのバーカバーカ、アホ、ドジ、マヌケ、オタンコナス」


 切歯扼腕に、地団太を踏みたい彩愛も黙っておらず、不撓不屈に口汚く由唯を罵り始めた。


 「おたんこなすって今日日聞かないよ……彩夢ちゃん」、と心の内で嘲笑いつつも、彩愛のお腹に飛んで抱き着いて、頬を子猫のようにして摩った。


 またしても、姉妹の噂が吹聴に、斯くして彷徨った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ