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裸体の馨  作者: jhgdykjhgdyrxkl
1/4

 あぁ、何故、何故私は、一度はカラダを重ね愛を誓いあった筈のお母様に、斯うして、斯うして皮膚を剥がされているのでしょう。


 道祖神こそは、私を見捨ててなどいないと。


 しかし、然うして、然うは言っても、上睫毛と下睫毛の間から真直ぐに伸びる視野の先が、雫で潤み、曖昧模糊と化した視野の全貌たる一体の疑問が、埃と化して宙を舞った。


 一体何故?


 どうして破廉恥ウツクシイ姿の、お母様の姿こそが、すぐそこにみえるのでしょうか。私のカラダへと伝うようにして、反り合わせて、おいで、あるのです。


 一糸纏わぬ裸体を波瀾して、仰ぎ見ようば、蕾の如し隆起が可憐さを引き立たせては、小気味良い発育の胸は、、わたしの皮膚を、努めて剥ぐ度、大海原に咲いたな咲いた小波の如く、うち立っていた。


 金色の、リコリス、

 咲く花弁ハナビラよ。


 冷淡で紅い瞳に、突き刺すような花冠よ。

 何故笑う。


 刺した簪は然も当然の如く。

 昏い夜明けを灯しては、とうとう見せてはくれません。


 まず原初に、右腕の皮膚が従順に剥がされた。つきましては、カラダの防壁第一層目が破られた事により、不規則な血飛沫の幻燈、タイドプールに海塩交わる出血が滲み、茜色に腫れあがった上肢は、菌の侵入をあろうことか、容易に許して止まず、歓迎のお茶会を開催していた。


 インスタジェニックと炎症を映えたたせてて、は、剰えにはこのままでは腕をダメにしかねない。と――読んで字の如く、壊死という結末は、もはや免れざるをえないこととして、息災にし悟って不断。


 如何にも、然し幸いながらにして、私は既知であった。既に招かれざる客というワケであって。こそ、第一章の終焉には、死人に口などついていなかった。


 しかし大丈夫である。と。

 既に唇は備え、つけそっている。


 候、結句乃至終了はと、次次に木霊子だ得て吹き添った。


 愛されていた筈のお母様に、愛していた筈のお母様に、愛されていた筈のお母様に、どうして、こんなにも、羞恥で破廉恥で卑猥な憐憫の了を唯々諾々と迎えい、なかればいけないのか。うる。


 どうして、こんなにも、格好を――――肉付きの良い母の母体。


 対して。


 どうして、こんなにも、格好を――――素朴で質素な私の子体。


 母様の結わえた髪の底から見え得る興が、どうして、こんなにも、死とエロスの拮抗に交えて相反しているのか――――石蝋のようだった。


 母様の体からは、茜細工に染まり得る、流血の如きアタタカな香りと、粘液が跳梁跋扈する漂流風靡。


 滲んでいた。


 ワタシの素朴なカラダを垣間見て、なおもお母様は私の汚れたカラダを、優しく、齷齪断続的に微笑み潤してくれた。


 妖艶だった母の体からは、溢れるほどの拮抗が目に、見えてたまらない。


 あぁ神様――――私だけの神様、何故です。一体何故なのです。不思議でたまりません。ここは、ここは何処なのでしょうか。些かな温かみを感じつつも、巻層雲のヒカリと玉響の安寧。母細胞に包み込まれるような快感。純な妄想。


 あぁ、それとも…………あれだった。


 ケガレと偽りの無い無垢だった白澄んだった一片氷心だった秀麗皎潔だったお母様を――――汚してしまった私自らの自ずと。心の奥底から生死を、しゃがれた肉声に乗せ誓った迎合、薬指を契って交わした愛の本性。


 為に――――――――カラダを重ねてしまったから…………愛されてしまったからコソの即罰とでも、仰るのですか。


 ァァァ、ァァァ、どうか。




 どうか。




 どうか、穢れ無きお母様を、興してしまった私めに、どうか、光の鉄槌を。


 下して、下して、神自らのお許しを、乞いて、仔の授かりと、わたしを――――アイシテクダサイマセ。


 胸骨体を貫いて、両手握る肺の間を辷り込む小さくて細い喪のは、さしたるバイアスがかかりやがった。


「あッ、お兄様ったらケガしてるじゃないですか!?いけませんよ、私に隠し事は。ちゃんとお兄様の、たった一人の妹である私に報告しなくちゃ。全くもゥ、世話の焼けるお兄様ですね。待っててくださいお兄様。今私が、世界でたった一人の気の利く妹の私が、お兄様を処置してあげます」


 皮膚を剥ぐ。


 小さく不器用な指先で、刃を握る。


 やたらと不健康で細い、色白とした者の皮膚を剥ぐ。


 規則性などありはしない。ぽつぽつと血が滲む腕を、深紅に舐めまわす。いくらガーゼで拭き取っても、ミルミルうちに、また、血は滲み出す。菌が入り、真赤に肥大化した腕は、ボロボロになってたとしても、いないな。凹凸に破していたと、とても肌触りが悪かったのである。


 私を一生懸命に介護してくださる母様は酷く美しく、ホロッ、と滴る髪をかけるは、奇麗な片耳が囁うて、赤い湿潤の唇からはやたらと粘度の強い澄んだ唾液を垂らす。


 ソレを私の腕に馴染ませて、細く小さな手の指先で、優しくのばし始める。お母さまのアタタカな体温を握るその手が、傷口に触れる度、熱を握って偏った。舌を出して、患部を吸いなさって採りてや、鮮やかに頬を紅潮させてみやる。や、嬉し気に、はたまた満足気に微睡ホホエんだ。


「はい!もうこれで大丈夫ですっ!!ナースアヤメちゃんの特別治療の完了ですっ」



「更に!!!お兄様の気の利く妹が、お兄様の御体を癒してさしあげますっっ。誰にもナイショの特別サービスですからねッ!!」


 はたまた微笑んだ。


 微睡に満ちた私は、眼球を震わすことなく、只々、只管に、私はラブラ・ドールの様だった。


 細かく微調整のきく可動式の四肢を持ち、ホンノリと香る残った生命。微粒子レベルで存在していた。取り残された私のかわいそうな偶臓は、最後の一掃、引っ越しの準備を始めていた。


 準ずるところ、しかし微睡に堕ちた私は、不随意痙攣をこそ疎かにして、深い深い森林の戸を叩いて、梟の導きに合いながら、体を母細胞に委ねるのだった。


 剥いでいた途中のお腹の皮膚を、中途半端に止めて「よいしょっ」と、私のカラダを担いでは、ソファの上に座らせた。


 中途半端に剥がされた皮膚は、ちょうど、お臍のあたりまで捲れている――――ダラン、とダラシナク垂れ下がった皮膚はやや透けていたけれども、クグモッテもいるようだった。


 私の膝の上に跨って座ったアヤメは、尻切れトンボで終わったお腹の皮膚の、出血箇所だけをペロリ、と短いベロで舐め吸って、いずれかは――――自らの皮膚を、私の肉体へと隙間なく密着させて、抱き付いた。抱き締めた。抱き始めた。大好き、と言わんばかりに印された肋骨の刻印――――私の肉体を堪能初め、ついには渾沌カオスが生じた。


「お兄様、あぁ、愛しのお兄様お兄様、アヤメを、オモウ存分に堪能して……はァ…………味わってくださいませ…………私はすべてお兄様の、お兄様だけのモノ――………………あぁぁァあぁあお兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様」


 宛ら人形として、雑貨店のショーケーㇲに飾られた商品は――――ついに、買取人が現れた。首のない人形を買ってくださったのは幼い幼い女の子。お金を出してくれたのはお祖母ちゃん。優しい店主の一言で、無料で譲ってもらった人形。


 ドールの如く、意志、意識その他全般を失った私の迷える手を、アヤメは自らに引き取って、は、忘却の彼方――――自分の好きなように、自分の好きな箇所に、自分の触れられたい箇所に、自分の一番魅力的な部分に、自分が堪能したい部位に、まごつく私の手を、彷徨える自分の手を、暗闇に流離えて、不安で一杯の気持ちで、裏切られないか、嫌われないか、冷めないか、好きじゃないって言われないか、不安いっぱいのきもちで、アヤメは恐る恐る涙を流して。


 咀嚼したような、音だけが、静寂の園に帰するリビングに、推し量りとなく矢鱈と響いていた。


 間もなく、テンションと興奮の最高潮がアヤメを導き、勢いを増してアヤメはついに歯止めがきかない程に、壊れてしまう寸前だった。


「あぁ、あぁ、お兄様、お兄様ッ、お兄様ッッ、お兄様ッッッ――――!!」



「ソコはダメって、あれほど、言ったじゃないですか………………ッ…………」



「まったくもゥ、ワガママな兄です。そんなんだから妹の私が、世界でたった一人のお兄様の妹の私が、シッカリとついてあげなくちゃいけません。お兄様が他の人に迷惑をかけないように、私がしっかり…………」



「だから、ネ。お兄様………………………………」


 火照った頬、赤らんだ頬、紅潮した頬、深紅に染められた唇、茜色に染まった耳、どんどんどんどん、益益益益息遣いが荒くなってゆく。汗を垂らし、涎を溢れ、涙液を震わせ、粘液をも自分勝手にカラダから流す――私の膝元をビチャビチャに濡らすイケナイ娘。


 甘えるように娘細胞は母細胞へと身を委ね始める。


 乖離。


 汗だくになって、息をあげて、しとどに熱くなるカラダ、熱くなる頬――――熱を帯びて、興奮を締めて、垣間見るものは、誰もいない。


 妖艶に微睡んで、可愛らしい声を上げて、口元が揺らいだ様に唾液を垂らして――――段々と、アヤメのカラダは力が抜けてゆく。


 息ばかりが漏れて、声にならないフニャフニャとした声が叫び続ける。


 死にかけの金魚のように喘ぎ、喘ぐ呼吸は火焔のよう――――舌足らずで語尾を引きずるように、垂らして、力が抜けてアヤメは反射的に私に抱き着く。


 下半身の力が抜けて、腰を反らして、でもやめない。


 力なく揺さぶられる私、力なくダラダラと体を蛇腹うねらせるアヤメ――――アイシテ、アイサレテ、アイシテ、アイサレテ、アイシテアイサレテアイシテアイサレテアイシテアイサレテ、可愛がって、可愛がって、汚して、嫌われて、好かれて、刺されて、刺して、嫌って、堕ちて、落とされて、寒くて暑くて疲弊して、痙攣して、嫌て、大嫌いなのに大好きだって――――――――


「あ゛ァあぁ、私の、私だけのたッた一人のお兄様ッ…………ずッとずッと私だけの傍にいてッ、ずッとずッと私だけを見てッ、ずッとずッと私だけを好きでいて感じて愛して可愛がってッ、彩愛をッ――――――――」






 西暦X年――……。

 一月一日――……。






 アサノアヤメは刺殺された。

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