核心をついた質問
侯爵はぐったりとソファに倒れ込んでいる。先程、一瞬気を失ってしまって、今やっと気がついたところだ。
時間はもう、夜の7時を過ぎている。
「……それで、私が王太子様との縁談が決まりそうで、悩んでるとお伝えしたら……」
フェリシアはことの経緯を説明していた。事前に打ち合わせた内容だ。
「僕は、以前よりずっとフェリシア様をお慕い申し上げており、婚約者が必要ならば是非、僕をと思い切ってお伝えしたのです」
大ウソだ。大ウソを笑顔でベラベラ話している。この人こわい。フェリシアは少しそう思った。
「それで、フェリシアは……その……アイザック君のことは……」
「お、お、お、お慕いし……ておりましたわ、もちろん、以前から」
アイザックと違って嘘が苦手なフェリシアであった。
娘の恋バナを聞かされてゲンナリしたのか、それとも娘の結婚相手が平民だったことにがっかりしたのか
侯爵の眉間に深いシワができていた。
「……僕は平民ですし、侯爵様のご懸念も理解しているつもりです。それでも、フェリシア様とでしたら、手を取り合って生きていけると、そう思っております」
真っ直ぐに侯爵を見て、アイザックは言い切った。
何故か、その横顔にフェリシアはドキッとしてしまう。フリだけなのに、こうも歯の浮くセリフを言われると、なんだか気持ちがソワソワするようだ。
侯爵は黙ったまま、目が遠くなっている。現実逃避かも知れない。
「えっと……お父様……?」
「……アイザック君、けして君が気に入らないわけじゃない。だが……」
やはりダメか。平民との結婚はおとうさんゆるしませんよ、のパターンか。
「……フェリシアの母と約束したんだ。どんなことがあっても、フェリシアを幸せにすると」
「奥様は……?」
神妙な顔でアイザックは訊く。
「亡くなって10年になる。フェリシアが7歳の時だ。男3人続いたあとに出来た待望の女の子でね。とても可愛くて……私も妻も、猫っ可愛がりしていた」
侯爵は天を仰いだ。
「妻が亡くなる時、フェリシアを幸せにしてくれと、そう言い残していった。フェリシアが愛する人と、ずっと幸せに暮らせるようにと……もし身分が釣り合わなかったとしても、許してやって欲しい。間違っても、政略結婚の駒になんかしてくれるなと」
「お母様……」
フェリシアの背後では、なぜかミーアがぐじゅぐじゅ言っている。ミーアは5年前にこの屋敷にきたので、フェリシア母とは面識ないはずだが。ミーアのぐじゅぐじゅ音で感動が台無しだ。
「……フェリシア」
「はい。お父様」
「お前は、アイザック君と結婚して、それで幸せになれるのかい……?」
弱弱しく、侯爵が尋ねる。
めちゃくちゃ核心を突いた質問だ。
父を騙しているようで、いや、実際騙してるわけだが、フェリシアは内心かなり動揺していた。
「えっと……その……王太子と結婚するよりは幸せになれると思います!」
かなり苦し紛れの答えだが、嘘はついていない。
フェリシアに任せるとボロが出ると判断したのだろう、アイザックが二人に割って入った。




