三杯目のお茶が冷める頃
ジベルローズ家に着くと、急にあらわれた客人に皆驚いたが、手厚くもてなしてくれた。
執事に案内され、客間でアイザックとフェリシアは向かい合って座っている。ミーアはフェリシアの後ろに控えている。
かちゃり。
三杯目のお茶が冷める頃、ドアの開く音がし、3人が一斉にそちらを見た。
穏やかな笑みを浮かべ、人の良さそうな中年の男が入ってきた。フェリシアの父、ジベルローズ侯爵である。
「いやー、すまんすまん。貴族のご子息たちの姿絵をあつめてたらすっかり遅くなってしまってね……フェリシア、そちらの方は?」
ほほえみながら入ってきたはずの侯爵の笑顔が凍りつく。
フェリシアはおそるおそる紹介した。
「お父様にご紹介いたします。同学年のご学友、アイザック・グラハム様です」
アイザックが立ち上がり、白い歯を見せながら微笑んだ。
「お初にお目にかかります。アイザック・グラハムでございます」
笑顔うさんくさ…と、背後でミーアが小声で呟いた。ミーアは正直すぎるのが玉に瑕なのだ。
「グラハムというと……グラハム商会の息子さんかい? そういえば娘と同じ学園だったね」
父は心なしかほっとした顔だ。
まさか商会の息子と婚約なんて、思ってもいないのだろう。本当に、娘が友人を連れてきたとしか思っていないようだ。
「まぁ楽にしてくれたまえ。しかし珍しいな。商会の用事ならば君のお父上を通してくれれば……」
ソファに腰掛けながら侯爵は上着を脱いだ。
アイザックは侯爵が腰掛けたのを確認してから、自分も浅く腰掛ける。
そしてとびきりの営業スマイルを繰り出した。
「いえ、本日は商会の用事ではなく……僕個人のお願いで参りました。
フェリシア様と、婚約のお許しをいただきたいのです」
ガタッ。
侯爵はわかりやすく動揺して立ち上がった。
「な、な、な、なんだって〜〜〜!!!!!」
その叫び声は、屋敷中に響いたと言う。