すごく高い慰謝料
「その…久しぶり…」
バツが悪そうにアイザックは笑う。
つい顔をまじまじと見てしまう。
少しやつれたような気もする。忙しいんだろうか。それとも父との晩酌がなくなり、太る要因がなくなったのか。
「…ええと、元気でしたか?」
「ああ。フェリシアは?」
「はい、元気です」
久しぶりにアイザックにまっすぐに見つめられる。鼓動が早くなるのを感じた。
「…会いたかった…です…」
泣きそうになるのを必死で堪える。
そうだ、今日はこれからゼファー皇国の客人が来る。
「…アイザック様、とりあえず私の部屋へ。これから客人がいらっしゃるんです。ゼファー皇国の…」
「ああ、それ、俺のことだと思う」
「え?でも、確かゼファー皇国の書記官の方って…」
「俺だよ。商会、抜けたんだ」
「えっ…」
驚きで声が出ない。あんなに楽しそうに仕事していたのに…。
「あ、あの、理由を聞いても?」
「…どうせ平和を目指すなら、武器じゃなく、頭脳でのしあがろうと思ったのさ」
呆然としてしまう。そうだったのか…。
確かにアイザックならば、商人でなくてもやっていけるだろう。
「血で汚れた手じゃ、あんたに顔向けできない気がしてさ」
どんなアイザックでも大好きだ、と言いたかったが、そうやって自分のことを考えてくれたことが、フェリシアにはたまらなく嬉しかった。
「とりあえず、今日は、貰いにきたんだ」
「えっと。何をですか?」
「慰謝料だよ。あの時は要らないって言ったけど…約束してた婚約破棄の慰謝料、やっぱり貰おうと思ってさ」
フェリシアは少し肩を落とした。
理由もなしに、自分に会いに来たわけではなかった。
でも、払うべきだとは思っていたので、これで貸し借りはなしになる。少し肩の荷が降りるかもしれない。
そう思うとホッとするとともに、アイザックとの繋がりが今度こそなくなってしまう気がして、少し寂しくもあった。
「えっと…おいくらでしょうか?」
「結構高い」
「ど、どれくらい…?」
「大丈夫、一生分割で払って貰おうと思ってるから」
それは結構高いじゃなく、ものすごく高いの間違いではないだろうか。
「そ、そんなに…?わかりました!頑張って払います」
アイザックがニヤリと笑った。
「その言葉、忘れるなよ」
次の瞬間、アイザックがひざまづいた。
「フェリシア、俺と、もう一度婚約してくれ。今度は、仮じゃなく、本当に」
フェリシアは、目をぱちくりさせる。
アイザックとまた会えただけでもうれしいのに、その言葉に胸がいっぱいになった。
すごく嬉しかったが、なんだか素直に喜ぶのも悔しい気がする。なんせ、一度手ひどく振られているのだ。
だから、精一杯、意地悪に言ってみる。
「大丈夫ですか?…わたし、すごく、すごーく、高いですよ?」
アイザックは、いたずらっぽく笑った。
その瞳は、やっぱり優しい色だった。
これにて完結です。
ありがとうございました。




