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やってきた人

「ちょっと〜お嬢様! この屋敷にゼファー皇国の視察の人が来るらしいです!しかも、最年少で書記官になった超エリートらしいですよ〜」


「なんでわざわざ…?ほかの貴族の家でもいいんじゃない…?」

「もしかして、アレじゃないですか?前にもありましたよね。皇太子の結婚式で一目見て〜ってやつ!それで職権濫用してうちに来るとか!」


職権濫用で、真っ先に浮かんだのが、王太子…いや旧王太子の顔だった。職権濫用する人に、ロクな人はいない。


「…お断り…できないわよね。きっと」

「そうですねー。海外来賓となると、うち主催の晩餐会プラス王宮主催の舞踏会のフルコースじゃないですか?忙しくなりそうですね…」


気が重い。

ないとは思うが、万が一結婚を申し込まれたらすごく嫌だ。顔見せも正直、したくない。

かなり重たい気持ちで、その日はベッドに入った。



来賓が来るのは、1ヶ月後だった。

メイド達がせっせと屋敷を磨いている。海外の来賓をおもてなしすることは初めてではないが、以前は15歳の時だったから、舞踏会には出なくて済んだ。

しかし、もう18になるので、舞踏会で一曲くらい踊らないといけないんだろう。


ファーストダンスは、取っておきたかったのに…。フェリシアは残念に思いながら、温室に向かう。

気疲れしたときは、花を愛でるのが1番だ。

散歩していると、ふと、紫色の花が目につく。

アイザックの見舞いで渡した、サフランの花だ。

懐かしく思って、一本手折ってみる。

彼の笑顔が浮かぶようだった。

彼なら何て言うだろう。

腑抜けるな、と言うだろうか。

前を向け、と言うだろうか。

それとも、優しくポンポンと頭を撫でてくれるだろうか。

サフランの花びらに、温かい水滴がポタポタと落ちた。


ダンスの復習、テーブルマナーの復習、屋敷のファブリックの入れ替えなどをしているうちに、とうとう来賓が来るのは明日になった。

ミーアと分担して、屋敷の清掃状態を最終チェックする。

カーテンは新しいものにしたし、窓も綺麗に磨いてある。お庭も庭師が剪定してくれた。

ふと、客間の花瓶をみると、サフランの花が飾ってあった。

「…この花は…誰が?」

そばにいたメイドに聞いてみる。

「はい、侯爵様のご指示です」

「お父様が?」

「なんでも、客人のお好きな花が、サフランなんだとか…。少し地味過ぎますか?もう何色か足しますか?」

「…いえ、このままでいいわ」


サフラン好きな方なら、悪い人ではないかもしれない。我ながら、そう思えるのだから単純だ。

少し、気が楽になり、フェリシアは屋敷の総点検を再開した。



そして、あっという間に来賓を迎える日になった。

「これでいいかしら…」

フェリシアはメイドに青空色のワンピースを着せられ、髪の毛を巻かれ、鏡の前に座っていた。


なるべく地味にしたかったのだが、ミーアが「もしかすると一目惚れのパターンあるかもしれませんから!良縁掴みに行きましょう!」とよくわからない気の回し方をしてくれた。

おそらく、彼女は、フェリシアがまだアイザックを引きずっていることを察していて、新しい恋をさせたいのだろう。


(…相手がどんな方かもわからないのに、わたしだけはりきっても、仕方ないわよね)


ため息をつきながら、ドレッサーから立ち上がる。ちょうど、ミーアが呼びにきた。


「いらしたそうです」

「今いきます」


ドレスの裾を引きずって、階段を降りる。



玄関ホールに、人影があった。

何故か、父も執事もメイドもいない。

人払いをしているのかもしれない。

…もしかして、仕組まれたか…。


最初からお見合い相手として、家に来る予定だったのかもしれない。

普通に申し込むと、断られるので、強硬手段を取られたのか。

今すぐにも部屋に戻りたかったが、引き返す無礼をするわけにもいかず、フェリシアは足取り重く進んでいった。


近づくにつれて、人影がはっきりしてきた。

たった一人で、その人は立っていた。腕を組んで、外を眺めている。


薄ちゃいろの髪は、少し伸びたような気もするし、服はもう制服ではない。

でも、いつも、「彼」が玄関ホールで待ってくれている場所に立っていた。


後ろでミーアが息を呑む音がしたが、そんなことには構っていられなかった。


気付いた時には、走り出していた。

そんなフェリシアを見て、その人はあわてて駆け寄ってくる。


「おい、ドレスで走ったら危ないだろ!」

懐かしい声。

やっぱり。


「アイザック様…」





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