変わってく日々と変わらないもの
「男って勝手ですよねぇ」
ミーアが紅茶を淹れながら呟いた。
「フェリシアをたのむ!とか言って、さっさとどっか行っちゃって…。気付いたら婚約破棄の書類だけ置いて引っ越してるし!手紙も出せないなんて、ほんとひどいというか、計画的というか…」
「でも、当初の計画通りよ。婚約してるフリをしてもらって、王太子とのことが片付いたら破棄する。彼は約束をちゃんと守ってくれたわ。私が欲張りだっただけ…」
「王太子に関しては、片付きすぎちゃった感じもしますよね〜」
ミーアが笑う。
アイザックとの最後の日から、もう3ヶ月経った。
父は、婚約破棄の話をすると「そうか」と一言だけ言い、後は何も言わなかった。
ただ、毎週金曜の晩酌の相手がいなくなり寂しかったようで、毎週フェリシアの兄たちが交代で晩酌をするようになった。
グラハム商会は、アイザックの父がわざわざ詫びにきて、謝罪の品と取引停止の旨を伝えてきたが、それはそれで侯爵家の物資が困るので、相変わらず取引は続いている。
担当の営業の方は、アイザックの下で働いてたという、人当たりが良い人だ。アイザックとは愛想が大違い!と言うのはミーアの談。
アースグラヴィアは、王家の遠縁である公爵家から王を選出し、後見人としてゼファー皇太子がつくことになった。
おそらくゼファー皇国の既定路線だろう。
これからどうなるのか、何も変わらないのか、少しづつ変わっていくのか、まだわからない。
フェリシアは学園を卒業し、大学に通うことになった。専攻は経営学。
将来は、商会を立ち上げてみたい…なんて思っている。そして、アイザックのように、大局を見れるような人間になりたいと思っている。
アイザックのことは、片時も忘れたことはない。体は壊していないか、常に心配をしている。
結局、婚約破棄の迷惑料は受け取ってもらえなかったのも気掛かりだ。
あれだけ面倒をかけておいて、結局お礼らしいお礼はできなかった。
会いたくないと言えば嘘になるが、思っても仕方がないことだと、理解はしている。
もし、将来、商会を立ち上げて、たくさん稼げるようになって、もし、アイザックに会えたら、利子付きで慰謝料を渡そうと、密かに企んでいる。
そう、アイザックにもしも会えたら、だ。
ただ、婚約破棄から3ヶ月経ったこともあって、身辺が急にうるさくなってきた。
チラホラと、フェリシア宛の縁談が舞い込んできたのだ。
驚くべきことに、ゼファー皇国の貴族からも引き合いがあった。結婚式で一目見て…と熱烈な恋文が釣書に添付されていた。
父は、フェリシアを気遣ってか、無理に決めなくて良い、一年くらいは自由にせよ、と言ってくれている。
もとよりそのつもりだ。しばらくは、何も考えられないし、結婚なんて考えたくもない。
ミーアは学園卒業後、そのまま侍女の仕事を続けている。
フェリシアの商会ができたら、社員1号になるそうだ。
そうして慌ただしく日々は過ぎていった。
変わらないのは、思い出の中のアイザックだけだった。
そんなある日、ミーアがフェリシアの部屋に駆け込んできた。




