混乱
1人になったフェリシアは、はしたないとはおもいつつ、部屋の中を見回す。
高級そうな絵画、彫刻、机もマホガニーの一級品のようだ。ソファもふかふかで、わざわざ白キツネの毛皮でできたラグがかかっている。
ただ、ものすごくちぐはぐだ。
ソファは紫に染めたレオパード柄だし、絵画は緑ベース。絨毯は黄色の小花柄。
高級なものを考えなしに集めたらこうなった、みたいな感じである。
どなたの趣味なのかしら…考えながら外を眺めてると、かちゃりとドアの開く音がした。
「フェリシア!会いたかったぞ!」
入ってきたのは、王太子だった。その背後には、アリアが微笑んでいる。
「ど、どういうことですの!まさか私を騙して…」
「…先ほど、アイザック様のことを諦めた、と言ったわね」
アリアの口調が変わる。
「あれは本当よ。なぜなら…」
アリアが王太子の肩に手を乗せる。
「王太子様が、私を妃にしてくださるから」
王太子が得意げに胸を張る。
「そうだ!美しいアリアこそ妃にふさわしい!」
「それならば、私は不要でしょう!」
「お前は側妃にする!子爵家のアリアが正妃だと、風当たりが強いからな!お前を側妃にしておけば、上位貴族も文句を言うまい。我ながら天才的だ!」
「そんなの…私のお父様が許しません!」
「それなら心配ないさ」
かさり。王太子が懐から紙を出す。
そこには、王太子とフェリシアの名前が並んでいる婚姻誓約書があった。
「そ、そんなものにサインいたしません!」
「君は、自分の意思でサインするんだよ」
「絶対にいたしません!」
「あらあら強情ですわね。…でも、忘れてなくって?王太子様のお力で、アイザック様の商会なんて、簡単に取り潰せるんですのよ」
「王様がそんなこと許すはずが…」
「父上は関係ないさ。王宮に出入りしている商会の選別は母上の権限だからな。グラハム商会は、女性向けのドレスや装飾品の取り扱いが多いだろう?王妃が出入り禁止にした商会を、どこの貴族が使うだろうね…くくく」
そうだ。王は息子のボンクラさに気づいているが、そのボンクラを助長したのは王妃だ。王妃ならば息子の言うことは聞くだろう。
「でも、それを免れる道がひとつだけある」
王太子がニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべ、婚姻誓約書でフェリシアの頬を叩いた。さすがにフェリシアにも察しがつく。
「…少し考えさせてください」
「そう言って逃げようったって無駄だよ。一緒に王宮まで来てもらう。そこでゆっくり考えたまえ」
「安心しなさい。私も王宮内に部屋を賜ってるの。一緒に行ってあげるわ」
フェリシアは、観念したように目を閉じた。
「アイザック様…アイザック様!!!! 申し訳ありません!! 私が無理にでも一緒にいっていれば…」
ミーアがアイザックの前に跪き、半狂乱で泣き叫ぶ。
いくら待っていてもフェリシアが帰宅しないので、アイザックの屋敷にいるのかと、馬車を飛ばしてきたのだ。
だが、フェリシアはいない。
アイザックの元にもいないとなると…ミーアの頭に最悪の考えがよぎる。
「王太子…王太子のしわざに違いないです…!」
アイザックはミーアの肩に手をかけた。
「安心しろ。…フェリシアは大丈夫だ。絶対に」
思わずミーアは頭をあげて、アイザックの顔を見る。なぜか、アイザックは余裕の表情をしていた。
「ミーアは屋敷で待っていてくれ。少し出かけてくる」
「場所に心あたりはあるんですか…?」
アイザックはそれには応えず、急足で去っていった。




