まさかの共同戦線
それから数日が経った。
相変わらず、学校の行きかえりはアイザックとミーアに囲まれ、自宅に王太子が突撃することもなく、大変平和に過ごしていた。
そんなある日、フェリシアの机の中に、思いがけない人物からの手紙が入っていた。
うすい桃色の、花の香りの封筒。
一目で女性からとわかる手紙だった。
「フェリシア様へ アイザック様のことを想うのでしたら、一人の時に開けてください」
表に綺麗な文字でそう書いてあった。
少し胸騒ぎを感じながら、その手紙をこっそりとカバンにしまい込んだ。
自宅に帰り、ミーアも部屋から出て行ったのを確認して、そっと封筒を開けてみる。
『フェリシア様
アイザック様の身が危険です。王太子に逆らったことによって、国内でのお立場があやうくなっていると父上が話しておりました。
微力ながら、アイザック様のお立場挽回に、私も協力したく存じますので、一度お話合いの場をいただけないでしょうか。
なお、内密にことを進めたいので、誰にもお話されませぬよう…。
もし、ご承諾いただけるのでしたら、明日、クラスの皆様が下校された後に、わたくしの屋敷へおひとりでいらしてくださいませ。
校門裏に、迎えの馬車を用意いたします。
「宝石商クロウリーの屋敷に、男性向けのタイピンを選びにいくので、内密にしたい」と周囲にはお伝えください。
アリア・ページェント』
まさかのアリアからの手紙だ。
それよりも、やはりアイザックは王太子に逆らったことによって、立場を悪くしていたのか。
自分だけが気づかなかった…いつもそうだ。いつもフェリシアは空回りして、アイザックの悪評を立ててしまう。
それでも、それでも今回だけは。
今回だけは、自分の力でアイザックを助けたい…。
フェリシアは悲壮な決意を固めたのだった。
翌日、アイザックには図書館で探し物があるからと伝え、渋るミーアを「アイザック様へのプレゼントを一人で選びたい」と撒いて、校門裏にやってきた。
本当に、馬車はあった。
封筒と同じ、薄いピンクの上品な馬車だ。家紋はどこにもない。
この馬車に違いない…。
ドアをこんこんとノックしてみると、開いたドアの隙間から、女性の細い指が見えた。
「お待ちしておりました、フェリシア様」
にっこりとアリアが微笑んだ。
馬車がゆっくりと走り始めてから、アリアはやっぱり可憐な顔で涙を浮かべた。
「先日は、あんなことをしてしまってすみません。私、アイザック様のことをお慕いするばかりに、フェリシア様につらく当たってしまって…」
「いえ、私の方こそ…」
「でも、信じてくださってうれしいですわ。もう、アイザック様のことは諦めたのですが、長くお付き合いしておりましたので、お立場があやういと聞いて、いてもたってもいられなくて…」
長くお付き合い、とのところがひどく気に障ったが、きっとこういう言い回ししかできない方なのだろう。気にしないことにする。
「私のお屋敷でお茶をいただきながら、話しましょう。正直、アイザック様がいなくなくなったら、私も父も困るんですの…」
金づる的な意味で…?と言いたくなるが必死に呑み込んだ。
アイザックがいなくなったら困るのは、フェリシアだって一緒だ。理由は違うが、目的は一緒。
そう考えると、少しアリアと距離が近付いた気がした。
「はい、是非協力させてください」
「それでは、私のお屋敷でゆっくり、お話ししましょうね…」
アリアが花のように笑う。ふっと、化粧の匂いが漂う。
アイザックが言っていた、「化粧臭い女」という言葉が、なぜか頭に浮かんでいた。
「こちらにどうぞ」
アリアが客間に案内してくれる。
「父を呼んで参りますので、少々お待ちくださいね」
パタンと扉が閉まった。




