紫の花束
「これはフェリシア嬢。ようこそいらっしゃいました。僕のような者をわざわざ見舞っていただけるなんて、幸甚の極みです」
アイザックがベッドから半身を起こして、営業スマイルを浮かべる。その周りにもいた。女子生徒たちが。わらわらと。
意外なことに、アリア・ページェント子爵令嬢もいる。花のようなふんわりとした雰囲気をまとった美しい令嬢だ。見るからに柔らかそうな金髪が、綺麗にくしけずられ、腰まで波打っている。肌の色は白く、透き通るようだが、頬だけは薔薇のような薄紅。口には穏やかな笑みを浮かべ、これでもかと可憐な美少女感を醸し出している。
そんなアリアがなぜアイザックのところに…?
「ごきげんよう、フェリシア様」
アリアが見事なカーテシーをフェリシアにする。フェリシアも笑顔が凍り付くのを感じながらその手を受けた。
「ごきげんよう、アリア様」
舞踏会で何度か見かけたことがある程度なので、アリアのことは良く知らない。なぜここにいるかもわからない。ただ、沢山の女生徒の中で、一人だけ椅子に座ってアイザックの隣を陣取っていることだけが非常に気になった。
「アリア様とアイザック様は、とても仲がよろしいのね」
フェリシアはアイザックを見ず、アリアに話しかける。凍り付いた笑顔で。
「ええ…お父様がアイザック様はとても優秀で、素敵な方だからといつも話しておりまして、何度か昼食をご一緒したのです。アイザック様が怪我をされたと伺って、私…いてもいられず…」
なぜか目に涙を浮かべている。なぜだ。
「仕事上お付き合いがあるんです、アリア様のお父様…ページェント子爵とうちの父に」
アイザックはなぜか弁解モードだ。
フェリシアはギギギと首をアイザックに向ける。凍り付いた笑顔で。
「そぉ~なんですね~。私は婚約者として、仕方なく顔を見せにきただけなので、あとは皆様でごゆっくりされてくださいね~」
そう言い切って、花束をアイザックに半ば投げつけた。
くるりと踵を返して、つかつかと病室を出ていく。
「ちょ、ちょっと待って! フェリシア…様!」
「いけません、アイザック様。寝ていませんと。お体にさわります」
慌てるアイザックと、それを押しとどめるような女生徒の声が聞こえた。その声に混じって、アリアの呟く声も聞こえる。
「サフランにカスミ草の花束…『調子に乗らないで』『別れましょう』…。よほどアイザック様との婚約がお嫌なんですのね…」




