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悪徳商人アイザック

「おじょーさまーーーーーー!!!!!」

用事が終わって登校してきたミーアが、一目散にフェリシアのところに駆けてくる。相変わらず忠犬のようだ。

「ミーア、もうランチの時間ね。食堂に行く?」

ミーアの目がなぜか泳ぐ。

「いえ、今日は行かない方がいいかと思います……。売店で適当なものを買ってまいりましたので、屋上庭園に参りましょう」

行かない方がいいとはどういうことだろう、フェリシアは首をかしげながら屋上に連れていかれた。なぜか周りの学生たちが遠巻きにフェリシアたちを見ている気はしたが、気のせいだろうと思って放っておくことにする。


ハンカチを広げて、庭園のベンチに座る。

膝の上にはミーアが買ってきてくれたランチボックスを乗せた。

「いただきます」

ランチボックスの中身は、フェリシアの好きな卵サンドだ。ミーアは本当に私の好きなものを押さえていてくれる…ふふふと笑いながらサンドを口に運ぶ。


ミーアは神妙そうな顔でフェリシアを見つめている。ランチボックスに手をつける気にならないようだ。

「…お嬢様。学園内で、めちゃくちゃ噂されてます、お嬢様が悪徳商人にお金で買われたって…」

ぽろっ。手に持っていたサンドイッチが地面に落ちてしまった。せっかくの卵サンドが……。

いや、それどころじゃない。


「い、いまなんて…?」

「フェリシアお嬢様が、悪徳商人のアイザック様に、金で無理やり買われたと…!」

卵サンドを口に含んでいなくてよかった。吹き出すところだった。

「な、なんでそんな話に…?」

「なんでも、今朝、アイザック様が嫌がって馬車に籠城していたフェリシアお嬢様を、30分かけて無理やり馬車から引きずりだしたとか…お嬢様の表情は終始硬く、泣きそうだったと…馬車の中で何かあったんですか?」

起こった物事だけを見れば、真実である。

恥ずかしすぎて馬車から出たくなくて、30分馬車の中にいたのは事実だし、あまりに緊張しすぎて顔が固くなっていた(と思う)し、恥ずかしかったのでちょっと泣きそうだった。

しかし心象風景は全然ちがーう!!!!!とフェリシアは叫びそうになった。

「ど、どうしましょう…このままだとアイザック様が悪者になってしまわれます!!!!」

フェリシアは頭を抱えた。アイザックは善意の協力者だ。婚約破棄だけでも悪いイメージを引き受けてもらうというのに、金に物を言わせて侯爵令嬢を買ったなどと、根も葉もない噂を立てるわけにはいかない。


ひとまず、ミーアの誤解を解くために、馬車の中での会話を洗いざらい話すことにした。勿論朝帰りのくだりも含めて。

事情を把握したらしいミーアが腕を組んで考えている。

「そうですねぇ…誤解を解くためには、お嬢様がアイザック様大好きアピールをするしかないんじゃないですか? お嬢様の方が望んだ婚約なんだってことが伝わらないと…」

「だ、だいすきアピールとは…?た、例えば…?」

「そうですねぇ…。庶民の間だと、一昔前に壁ドンっていうのが流行ってたらしいですよ。好きな人を壁に向かってドン!ってするらしいです」

「壁にドン…わかりましたわ」

壁にドンするくらいなら、自分にもできそうだ。

「ちょっとアイザック様のところに行ってまいります」

早速アイザックを壁にドンしてこなければ。ランチボックスを置いたまま、フェリシアは駆けだした。

「お、おじょうさま!?おまちくださいーーーーーああもうまた決めたらすぐに突進するクセがーーーーーーー」

後ろでミーアの叫び声が遠くなった。


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