フレンドリーファイア
はい朝です。心地よいか心地よくないかと聞かれれば、それは心地よいです。人の金で食うディナーで腹を満たし、前世では良くて6時間のところだがこの世界ではぐっすり10時間。そしてなにより今日の訪れに不安がねえ。
前世であったのなら起床して五分で身支度、電車を人と仕事への不安に押しつぶされながら我慢すること20分ほど。会社に着くとブルーライトで目を乾かしながら時々上司の説教を交えて10時間。そんな毎日だったのだ。
それがこっちの世界ではどうだ。ムカつく奴がいれば燃やすか蜂の巣にしてやるかの2択だ。これでどうして今日に不安を抱えられよう。
少しの寝ぼけを抱えたまま寮を後にし集会場に向かうと、すでに訓練場では汗をかいているものがいるのか、金属を何度も叩く音などが良く聞こえる。というか寮を出るまで聞こえなかった。防音設備すげえ。
集会場へ行くと人がちらほらいて、その中に団長もいた。
「おはようございます」
「あらメサちゃん早起きね。おはよう」
どうもこの世界ではAM10:00に起床することは早起きになるらしい。もちろん職業とかが変わればまた別の話になるのかもしれないが、私にとって傭兵というのは非常に天職に感じた。
「そりゃ11時に話すことがあるって言われてましたからね」
「意外と真面目ね」
「前職は奴隷でしたから」
「それは大変だったわね」
ふと気づくと、団長の対面にはサンディーさんが座っていた。ガタイのでかすぎて後ろから見ると肩の一つもはみ出すことはなかったので気がつかなかった。サンディーさんは私と目が合うとくぺこりと会釈、
カワE。私も口角が上がっているのを隠すように深く会釈。
「お昼までに時間があるから先に基本パーティを紹介しておくわね」
「基本パーティですか」
「そうよ、基本は3人パーティで依頼をこなすのがウチのやり方よ。増員が必要な依頼もあるけど」
「へぇ」
「一人は目の前にいる子よ。この子は魔法を主に回復や強化などのバックアップがメインよ」
「おっサンディーさん、まじですか。よろしくお願いします」
「あら、知り合いだったの」
「少し」
サンディーはニコニコしていた。この笑顔がたまらんのよなぁ。ほんま邪な気持ちが抑えられませんわ。
「よろしくお願いしますね。メサさん」
「よろしくお願いします。そういえば、昨日戻ってくると行っていたのに消えてしまってすいませんでした」
「いえ、他の人から団長に拉致されたというのは聞いていたので大丈夫ですよ」
拉致。そう、あれはまごうことなき拉致だ。頭を斧でど突かれて、気づけば施設案内だ。前世のチンピラでもあまり使わない手法だろう。
「なによ! 私が悪いっていうの?」
「いや団長、冗談の台パンでも威力が規格外なんでやめてください。結構厚そうな金属のテーブル凹んでるやないですか」
「あら、いけない♡」
この人に斧でど突かれて生還はしたものの、この人に二度はど突かれたくないなぁ。
「団長じゃなくて、ドラちゃんでもいいのよ♡」
「いやそれしず◯ちゃんがドラ◯もん呼ぶ時以外許されねーから。結構きわいところ攻めますねこの世界」
「何の話かしら?」
「いや普通に団長て呼びますよ。もうここにしっかり所属しとるんですから」
「もう! 照れ屋さんね!」
手がつけられないので視線でサンディーに助けを求めたところ、サンディーはサンディーで乾いた笑いをずっと口から漏らしていた。こんな可愛い子でもここまで露骨に顔を引きつらせるものか。
「で、一人はサンディーさんとして、もう一人というのは?」
「もう一人はまだ来てないわね、まぁ呼びつけた時間まではまだあるから、コーヒーでも飲んでましょう」
「あ、ここらでタバコって売ってます?」
「売店に売ってるわよ、というかあなた吸うのね」
「ちと買って来ます」
「お金あるの?」
「ねえわ」
「貸しよ」
「すいまへん」
というわけで1000G札を握りしめ売店に到着。売店自体はほどほど大きいいもので、タバコ以外にも軽食やファンタジー世界ならではの手入れ用油や弓矢、短剣なども売っていた。
さぁ何を吸ったものか。前世ではハイライト吸ってたんだけど、それに似たようなものあったらいいんだがなぁ。
「すいません。ここってハイライトとかって置いてたりします?」
「ありますよ」
「なんで?」
「なんでって言われても、あるものはあるんですよ」
まじかよ。この世界での唯一の不安が即座に解消された。これがなくてはやっていけるものもやっていけないというもの。なによりも信頼できる精神安定剤だ。やべぇ、吸えるとわかった途端煙吸引欲急上昇。
「じゃあ、ハイライト二つ」
「900Gです」
うん価格も変わってねえ。というか1Gの価値円と一緒やん。
「1000Gで」
「はい確かに、お釣りの100Gです。ありがとうございました」
さぁタバコ。タバコ。タバコですよ。手からガトリング出せる上タバコまで吸えるんですよ。なんと自分にあった世界でしょうか。
赤い線をするする剥がし、銀紙をぺりぺり破り捨てる。ゴミは燃やす。
破かれてない方をトントン指で叩いて、タバコを出し一本口にくわえる。そして着火。火炎放射器で着火したら前髪を焼きかけた。嘘、少し焼けた。そして、1日禁煙成功のご褒美として、ついに一服。
もう最高。俺の体メカなのに、体全身が溶けるような感覚。体全体がほんの少し痺れ、喉にキックが来る感じ。肺に空気を送って溜め息のように煙を吐き出す。肺があるか知らんけど。
これよ。人生にはこれが必要なんだよ。二十年以上生きて来た我が人生でどんな時でも唯一見放さずずっとそばにいてくれ友が今私の手にあるんだよ。涙が出てしまいそうだ。これほど嬉しいことがあるだろうか。やはりタバコというのは世に必要なんだよ。JTさん企業案件よろしくお願いします。
一息ついたので、集会所へ戻る。先ほど私が座っていた場所にはアルドーが座っていた。
「アルドー生きとったんかワレェ!」
「ちょ、団長! 3人目のメンバーって、もしかして……」
頭に包帯を巻いたアルドーは鼻息を荒くして、団長に詰め寄った。団長はニヤニヤしていた。
「近いわよアルドー。チューする?」
「しません! マジで3人目がコイツなんですか!?」
「いいじゃない、メサくん強いわよ。彼がいればRANK3ダンジョンだっていけるわ」
「しかし、こんなわけわからんやつと組めませんよ! 第一こいつまだLEVEL2ですよ!」
「じゃあ戦ってみなさいな。あなたメサくんに負けたんでしょう?」
「いや! あれは多分間違いです! 斬ったら金属音がしたんで多分鉄板か何かいれてたんですよ!」
「じゃあ決まりね。メサくんに負けたらパーティ結成ね」
「聞いたな! じゃあオメーいまから訓練場いくぞ!」
でっけぇ斧でも頭両断されなかったのにお前の剣が通るわけないだろうと言おうとしたが辞めた。このタイプは話が通じなさそうだし、頭に血が上っている状態ならなおさらだ、わからせるしかねぇ。
「サンディーちゃんもメサくんの技見てないでしょ? 行っておいで。あと回復の準備もね」
「あっはい」
先ほどまでオロオロしていたサンディーは言われるがまま杖を持ってとてとてついて来た。
アルドーの単価の低そうな啖呵を聞き流しながら、外の訓練場へと到着。お昼前ということもあり、カカシを切りつけている人はちょこちょこいるものの、広場に人はいなかった。
「へっへっへ。サンディー、回復魔法の準備しとけよ。もっとも、間に合わねえかもしれねえがな」
剣をするりと鞘から抜きながら、にやけヅラでアルドーが言った。
そうか、回復呪文だもんな。穴だらけにして死んだら回復もクソもないわな。となるとリード・トルネード(ガトリング)は使えないな、どうしたものか。
「ボーっとしてんなら、こっちから行くぜ!」
アルドは勢いよく土を蹴り、私の鎖骨あたりに思い切り剣を振り下ろした。カン、と聴き心地の良い金属音が響いた。
アルドー の こうげき!
すばやい ざんげき を くりだした!
メサ に 0 ダメージ!▼
みたいなテロップ流れてそう。
「おっと、確か右肩には鉄板を仕込んでんだったな、……なら!」
アルドーは一歩引いて今度は腕を斬りつけた。当然、金属音のアンコール。
若干アルドーの顔が引きつっていたが、すぐさまハッとし、また一歩後退した。
「へ、服の下はどこも鉄板仕込みのチキン野郎が、……」
またよくわからない勘違いをしている。いやよくわからないのは私の体か。そりゃあファンタジー世界で体全部メカですって言われても信じる奴なんておらんわな。
「しょうがねぇ、……こうなったらその首落としたらあぁ!!」
力一杯剣を握り、アルドーによる渾身の一撃が私の首に炸裂。当然、金属音のアンコール。ここまでくるとさすがにアルドーが可哀想になってきた。もうアルドーくん顔から血の気が引いてらっしゃる。
ここでダメ押し。アルドーの顔の真横で腕をガトリングに変形。そのまま地面に向かって鉛玉を掃射した。地面には深さ20cmほどの穴が空いていた。
アルドーはそのまま腰を抜かしヘタリ込む。
「あ、あ、……その、……これから、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして、無事にパーティ結成。仲間ができるというのはいいことですね。
アルドーくんとは仲良くなれそうです。後ろでドン引きしていたサンディーさんと仲良くなるにはもう少し時間が必要のようです。