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サメ要素低下


 もう名前を覚えちゃいねえが、表は良く覚えている。

 イキがった性格さながらに、口角を上げ、まるで自分は最強と言わんばかりのにやけヅラだ。

 さっきまでスライムを倒していた人間になぜそこまでの自信があるのかと問いたいが、それはさておき、


「あぁ、どうも。またお会いしましたね」

「んなこたぁ、どうでも良いんだよ。なんで経験値横取り野郎がここにいんだって聞いてんだ」


 先程まであれほどオドオドしていたのに、このこれほどのイキがりの理由はすぐさま気づく。

 この金髪の後ろには2mはあろうか、ガタイがよく大きな斧を担いだ兄さんが金剛力士像のように仁王立ちしていた。その大きな体もさることながら、えぐいメンチビームを私に照射するものだから思わず萎縮。しかもやたら笑顔。こんな化け物が後ろ盾ならそりゃ勝った気でおれるわな。


「ここで雇ってもらおうかなと」

「はあ!? お前が!? うひゃひゃひゃウギャッ」


 ゴッ、と大きくいやに鈍い音が金髪の後頭部から放たれた。

 金髪は金剛力士像の一人に思い切り後頭部を叩かれ、なす術なく地面と接吻を交わし動かなくなった。

 見た感じでは平手で後頭部を叩いたように見えたが、音はゴッ、と聞こえるものだから、それは相当強く叩かれたのだろう。金髪の後ろ盾がこれならあのイキがりも頷ける。


「うちのアルドーがお世話になったみたいだけど、……君、一体何者なんだい?」


 笑顔に覇気が出せることを初めて知った。ションベンちびっちまいそうだ。いや俺ロボだしオイルか。


「と言われましても、……就活中のものです」

「あら、そう、……ここで働きたいんだって?」


 いやこのガタイでオカマ口調ってもう絶対強いやん。物語の終盤で隠していた力を発揮して最前線で暴れまわるタイプの人やん。


「へぇ」

「それは構わないんだけどねぇ。君、うちの者をシメちゃったでしょ?」

「シメてはいないと思うんですけど、……」

「一応うちの傭兵団のものがシメられたら、こっちもシメ返すのが掟なの。ゴメンね♡」

「んギィ!?」


 ♡が鼓膜に入る頃には、ものすごいゲンコツを食らっていた。例によって痛みはなかったのだがものすごい衝撃だった。


「えっ、……うそ、……」


 何故か、オカマッチョは口をあんぐり開けて閉じられないようだった。

 いやそりゃそうだ。良く見るとこいつ俺の頭にどでけぇ斧振り落としとったわ。治安がエグすぎる。ファンタジー世界なのに命の軽さが北◯の拳くらい軽いじゃねえか。生身だったら死に戻りの能力あってもやってられんで。


「あっ、……アハハ! よ、ようこそ! パールラグ傭兵団へ!」

「いやアハハじゃないが。頭へこむわ」

「いや私の方がヘコむわよ。怪力一途でやってきたのに、人一人両断できないなんて」

「いや、この白昼に人の頭両断しようとしたの? 倫理観イカれすぎてない?」

「まぁまぁ、お茶目だと思って許して♡ じゃあいまから手続きしよっか」


 お茶目で人間が二つになるんですよ。この世界じゃクローン技術は必要なさそうだ。


「あっ、そういえば自己紹介がまだだったわね! 私はゴルドラよ! よろしくねっ♡」


 いかついわ。名前もガタイもいかついのにキャラまでいかついんだからもうお腹いっぱいだわ。

 おまけにウィンクもいかついわ。ウィンクから放たれるハートがでかすぎて上半身が隠れとんだわ、ハートだけアスペクト比がいかれとんじゃ。


「メサと申します」

「メサくん。可愛い名前ね! あとこの雑巾はアルドーって子よ。この子も最近入ったばかりだから仲良くして上げてね」

「それはちゃんと墓参りに行けってことですか?」

「まだ死んでないわよ! 多分♡」

「ほんと? アルドーくん息してないけど。さっきまで泡吹いて痙攣してたのに、いまではすっかり動かなくなってるけど、ほんと?」

「ちょっとだれかー? アルドー処理しといてー!」

「処理? いま処理って言った」

「さっ! とりあえず手続き手続き!」


 まぁ、ええか。葬儀の段取りを俺が組むわけじゃないし、アルドーに関して俺が面倒を被ることもない。多分死んどらんやろ。多分。

 それから半ば無理やりゴルドラに建物の中へ案内された。建物の中は思ったよりも整っていた。室内訓練場から医務室、魔法(?)研究所など。なるほどさすがは戦闘集団といったところだ。力を入れるところはしっかりと力を入れている。

 そして、次に案内されたのは男ならば誰もが胸躍らす武器庫だった 


「おぉ、……おぉ、すごい」

 

 刀から西洋剣、ククリナイフやレイピアまで綺麗に並べられている。斧に関しては投げられる手斧から両手もちの大きな斧まである。当然ながら槍の数も多い。遠距離武器は弓、ボウガンに加えフリントロックピストルに同式のライフル。

 あぁ、なんという光景。なんというロマン。この光景をインスタに上げたらフォロワー無茶増えそう。インスタやってなかったけど。


「ふふん。他の傭兵団と比べても遜色ないと思うわ。でもあなたのタフネスだと徒手になるのかしら?」

「いやぁ、特には考えてないですね。武器をあまり扱ったことがないので」

「あらそうなの? じゃあ一度特性を見ましょうか」

「特性ですか」

「自分の特性を見ることが出来る便利な石があるのよ。確かここにあったわね。はい」


 そういってゴルドラから渡されたのは、握ってしまえばすっぽり手に収まってしまうような青く綺麗な石だった。


「これが、……その石ですか」

「サーチロックっていうのよ。まんまよね」

「何がまんまかは知りませんけど、これどう使うんです」

「手に持って石を自分に向けると見れるんだけど、今回は私も見たいから壁に向けてみて」


 言われるがままに石を壁に向けると、映写機のように何やらステータスのようなものが表示された。


「なるほどなるほど。あなた28歳なのね、意外と歳いってるわね。種族が、……なにこれ」

「メガトリプルヘッドメカトルネードゴーストオクトパスロボデビルカミシャークですね」

「獣人? いやメカ、……デビル、……何?」

「さぁ」

「まぁ、……獣人なら将来ビーストモードもできるだろうし、いいわね」

「ビーストモードですか」

「獣人ならではの限定能力よ。今は人型だけど、魔力を駆使して元の獣になることができるわ」

「二度と使わねえわその能力」

「いやむっちゃ見たいけどねメガトリプルヘッドメカトルネードゴーストオクトパスロボデビルカミシャーク」

「他人事やなぁ、気持ちはわかるけど」

「レベルは、……えっあなたまだLEVEL2なの」

「最近経験値くすねて上がりました」

「LEVEL2であの固さなの、……メカって怖いわね」

「ね」

「特殊能力はまだ少ないみたいね」

「えっあるんですか」


 確かに、空白だった特殊能力の部分には技名が追加されていた。


[特殊能力]

・リード・トルネード

・フレイム


 おぉ、しっかりそれらしい特殊能力が追加されてるじゃないか。ちゃんと名前もファンタジーっぽいぞ。


「フレイムは炎系呪文として、リード・トルネード、……どんな能力かしら」

「いやぁ、おれもさっぱり」

「じゃあ使ってみてよ!」


 というわけで、訓練場。


「ね! はやくはやく!」


 ゴルドラは女の子のようにぴょんぴょん跳ねるが、ガタイがいいから擬音がドスンドスンだった。地面がかわいそう。


「といっても、どう使うんです?」

「うーん。普通は発動呪文とかあるけど、……特に呪文とか記載されてなかったしねぇ」


 何となく、右手を見つめ力を入れてみる。すると腕がなんかウィンウィン鳴ってばらばら切り開かれ始めた。


「あっ、あわわわ」

「あわわわ」


 ただどうしようもなく見つめていると、二秒もしないうちに右手がガトリングになった。

 まぁリード・トルネードだもんね。そりゃガトリングだよね。というかこの世界はフリントロック式の銃が主流なのに、ガトリングええんか?


「変化の術、……なのかしら? でも変わった機械ねえ。銃口にも見えるけど、……」

「多分銃ですね」

「そうなの! じゃああの金属のマトに向かって撃ってみてよ!」

「へい」


 照準らしきものは見当たらないので、とりあえず銃口を的に向けてみる。どうやって撃つんだろう。

 また何となく手をぎゅっと握ると、射撃は開始された。とにかく弾がドバドバドバドバ出まくった。脳汁もドバドバドバドバドバドバ出まくった。ン気持ちい。

 ふと気づくと的がなくなってた。ついでに向こうの壁も無くなっていた。


「ン気持ちい。こら気持ちいっすわゴルドラさん」

「いやえぐいわ。えぐすぎるわ」

「むちゃつよないっすか」

「強いとかそういう問題じゃないわよ。世界線違うじゃん」

「俺もそう言ったんですけどね」

「ま、まぁいいわ。LEVEL2でこれなんだから、特訓はいらなそうね」

「ラッキー」

「で、その、フレイムっていうのは、……」


 右手を変えるという、なんかよくわからん意志を頭に思った瞬間、手が火炎放射器になった。

 火は銃口から放たれ、5mくらい勢いよく伸びた。


「いやえぐいわ」

「えぐいっすね」

「でもその、弾とかはどうなってるの?」

「またさっきの石で詳細見てみますか」


 サーチロックをまともな方の手に持ち能力の詳細を見る。弾は無限だった。


「無限みたいです」

「なんで? なんで無限?」

「さぁ」

「おかしくない? バランスは?」

「まぁいいじゃないですか」

「そうね、考えちゃダメよね」

「そうですよ」

「ごめんなさい。とりあえずあなたをパールラグ傭兵団の一員として正式に登録するわ。いやさせてもらいます」

「わーい」

「だからとりあえずここの訓練場で技を試すのはやめてね」

「はーい」


 それから施設案内を再開し、ようやっと団長室へとたどり着いた。


「ささっ。そこのソファに腰掛けて」

「ありがとうございます。団長はいらっしゃらないんですか?」

「今あなたと喋ってるのが団長よ」

「マジき」

「マジき」


 いって副団長くらいだと思ったのに。というか団員の尻拭いを団長がするのか。意外と団員思いのいい人かもしれない。人を真っ二つにしようとしなければ。


「この書類に、名前と指紋印をお願いね」

「それだけでいいんですね。勝手がいい」

「面倒はこっちも御免だからね」


 サッと、名前を書き指紋を押し付ける。この世界の朱肉は黒だった。


「はいおっけー。これであなたは今日からパールラグ傭兵団よ」

「よろしくお願いします」

「そこに掲示板があるでしょう? そこの依頼を受けるのもよし、賞金首を狩るのもよし、ダンジョンへ行って財宝を探るもよし。何でもあるわよ」

「いいじゃないですか」

「あと、指名されることもあるわ。もちろん受けるかは自由だけど」

「ええな」

「まぁ、最初の方は指名されることはないと思うから、気楽にやってちょうだい。他のメンバーはたくさんいるから、おいおいみんなと仲良くなっていって」

「へい」

「じゃあメサくん。あなたはもう訓練は必要なさそうだから、ダンジョン探索や依頼を受けることができるけど、……どうする?」

「じゃあ、まぁとりあえず。簡単なダンジョンでこの世界に慣れますか」

「そう、ダンジョン探索はパーティを組むといいわよ」

「人見知りなんですよね」

「うるせえわ。とりあえず最近外へ出せるようになった新米たちと一緒に腕を磨きなさい」

「磨いたら錆びちゃう」

「とりあえず今日はウチの寮でゆっくりしなさい。一泊1500Gね」

「無いです」

「1日5割り増しね」

「ひでえ」


 というわけで、晴れて私も有職者です。これからの異世界生活に不安を毛ほども感じません。


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