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ハローワーク イズ グッド

 この世界で仕事を探すとなるとまず酒場に行くらしい。その酒場の名前はハローワーク。

 奇しくも前世の公共職業安定所と名称が一緒なのだから笑えない。いやマジで笑えない。


 サンディー酒場に勇んで入ると、そこには前世では内気だった私には慣れぬ喧騒が私たちを迎えた。

 きっとお日様は昼模様であると言うのに、酒場の客入りは上々だった。この世界にも一定数のろくでなしがいるようで安心した。これなら私もこの世界で気兼ねなく「ろくでなし」が出来る。


「さてサンディーさん。求人掲示板というのはどちらに?」

「えと、こっちです」


 サンディーはこの喧騒が苦手なのか、ネコミミを倒し不安げな表情を浮かべていた。マジそそる。

 サンディーの後をついて行くと、大きな掲示板に何枚も紙が貼ってあり、職種はいろいろあった。


 料理人から、掃除屋。武器屋の清掃員、介護士。前世の求人に負けず劣らずいろいろあるみたいだ。しかし、こういったファンタジーの世界だというのに傭兵求人が意外と少ない。メカでゴーストでシャークな私には傭兵以外はないと思うのだが。


「サンディーさん。求人はこれだけですか?」

「いえ、一応特殊だったり少し危険な仕事とかはカウンターでも紹介してますよ。あと職業相談もカウンターでしてくれますよ」

「へぇ、じゃあちょっと話を聞こうかな」


 そう言って私はカウンターへと出向く。カウンターでは綺麗な姉ちゃんが酒を造っていた。


「ちょっと、お姉さん。仕事を探してるんですけどね」

「あぁ、ちょい待ち。プリシー! 今手が放せないから話聞いてやってー」


 するとカウンターの奥からナイスバデーがはっきりわかる際どい服を着たお姉さんが登場。ここで働きてえ。


「はーい、プリシーでーす。お客さんどうしたのー?」


 喋り方は気さくでギャルっぽい。アリ。 


「ここって今働き手探してます?」

「さがしてなーい」

「わーお、残念。じゃあちょっとここら辺で働きたいんだけど、何かいい仕事ないかな」

「求人掲示板は見たー?」

「見たさー。ピンとはくるものはなかったなー」

「そっかー。じゃーおにーさんに合いそうなの探すかー。おにーさんなんか出来る?」


 前世ではSEだったがこの世界でプログラミングの知識なんてクソの役にも立たないだろう。街には電子機器らしいものは一つも見当たらない。パソコンなんて探すだけ無駄だ。


「特になし」

「うーん。種族は?」

「メガトリプルヘッドメカトルネードゴーストオクトパスロボデビルカミシャーク」

「ん?」

「メガトリプルヘッドメカトルネードゴーストオクトパスロボデビルカミシャーク」

「おにーさん、記憶力すごいねー。面白かったよー」


 お姉さんは手をひらひらしながら書類を持って奥に逃げようとする。


「待って待って、いやマジ」

「いや聞いたことないから。なに? メガトリプル、シャーク、……何? わからんわ」

「私にもわからん」

「まぁいいや。じゃー風俗の男性スタッフでもやる?」

「まじ? 風俗あんの?」

「なかったらサキュバスはどこで働くの」

「まじ? サキュバスもいんの? 骨抜きにされたいわぁ」

「オメーが抜けんのは歯だろうがサメ野郎」


 この世界は「お客様は神様」精神なんてものはないようだ。非常に良いことだ。


「歯も骨だが」

「うるせえわ。で、やるの? やらんの?」

「いや風俗の男性スタッフはいいや。前やったけど長続きせんかった」


 お姉さん、ため息つきながら書類を漁る。綺麗な女性の気怠そうな仕草、アリです。


「パールラグ傭兵団。傭兵志望の方必見、未経験傭兵育成中! ……だって。これだね、ハイ決まり」

「傭兵ですか」

「そう、傭兵。サメならいけるって。頑張って」

「私の名前はメサです」

「ホンマにうるせえわ。そういえばサンディーちゃんも確かここ所属だったでしょ」

「マジ?」


 振り返ると何故かサンディーは照れ臭そうに笑っていた。こんな可愛らしい子まで傭兵なんて、傭兵生活万々歳じゃないか。全くファンタジー世界も捨てたもんじゃないな。可哀相は可愛い、だ。


「まだまだ駆け出しなんですけどね」

「へぇ、じゃあさっきの金髪も」

「アルドーくんもそうですね」

「へぇ」


 なるほど、傭兵から騎士団に出世するにはそれなりの手柄が必要だろう。だから奴はあそこまで鼻息荒くしてイキがっていたのか。知らんけど。


「じゃあメサくんだっけ? ここでいいね」

「とりあえず、オッケーです。契約書とかあります?」

「ねぇよ。話は現地で聞いてきな」

「へい、じゃあサンディーさん。申しわけありませんがまた案内を、……」

「ちょいちょい、酒場に来て話だけ聞いて帰る気?」

「じゃあカシスオレンジを一つ」

「ガキがよ」

「ええやんけ。ビール苦いんじゃ」

「ひっひっひ。はいよ、待ってな」


 当然のようにカシスオレンジが置いてあるのは驚いたが、プリシーさんだったかの小悪魔的笑みに幸福度が上昇した。わからせてやりてえわ。でもわからせられてえわ。この世界の女性はめんこい子がいっぱいで何よりだ。

 プリシーさんは奥へと消えると、サンディーが合間を埋めるように口を開いた。


「あの、メサさん、……と呼んで良いですか?」

「モロチンですよ」


サンディーは頬をヒクつかせ顔を引きつらせながらもなんとか笑みを浮かべていた。顔の幼さからみてもまだまだ若いようだし下の話は控えるべきであろうか。この世代の子と交流した経験がないからなかなかわからん。まぁ酒場には入れる年齢なんだし気を使うこともないか。


「あはは、メサさんはどこから来たんです?」

「うーん。ニホンという国からキマシタ」

「へぇ、ニホンですか。聞いたことない国ですね」

「そこでの仕事が嫌になり気づけばこの地に」

「そうですか、大変だったんですね」


 ホンマに大変だよ。何が悲しくて会社に何日も寝泊まりせなあかんねん。日本が法治国家じゃなかったら蚊よりも人殺してた気がするわ。


「それで、傭兵の仕事を探しに来たんです?」

「まぁ、特に決めてはいなかったけど、これも何かの縁かなってね」

「そうですね、これからよろしくお願いしますね」


 なんと純粋な笑顔か。モロチンと言っていた男に向けてはいけない表情だ。

 改めて見たら小さな体ながらにも中々の発育、そしてこの笑顔。邪な気持ちだって溢れて来ますわい。夜が不安だったが、これなら優に越せそうだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「はいよ、カシオレ」

「あっどうも。うわっまず」

「ロボットだからじゃね?」

「マジ? 人間の三大欲求の一つ欠損? 嫌じゃ嫌じゃ。うまい飯が食いたいんじゃ」

「知らんがな。一回ガソリン飲んでみれば?」

「殺す気か」

「機械にカシオレ入れたらそれこそ死ぬだろ」

「いやいや、我人間ぞ?」

「問1、メガトリプルヘッドメカトルネードゴーストオクトパスロボデビルカミシャークが人間であることを200文字以内で証明せよ」

「配点は?」

「100点」

「捨てるわ」

「はいガソリン」

「いやもう絶対面白がってるやん」

「はよ」


 恐る恐るガソリンを口に含んで見る。


「バカうまいわ」

「よかったやん」

「良くないが。これからガソリン飲んで生きていく俺の人生考えてみ?」

「生涯で一番無駄なシンキングタイムになるだろうから止しとく」

「悲しいのう」

「ガソリン代払え」

「ガソリンがメニューに載ってないので払いませーんw」


 眉間をフリントロックピストルで撃たれた。死ななかった。

 プリシーさんは顔から血の気が引いているように見えた。おてんば娘のドン引いた顔、アリです。


「マジかよ、……まじでロボットなのかよ」

「I'll be back」

「バックすんならはよどっかいけよ。弾とガソリン代つけとくからな」

「おめーにタマはついとらんやろがい」

「おいサンディーはやくこいつを連れてってくれ」


 まだ絡んでやりたかったがサンディーに腕を引っ張られたので、仕方なく退店した。最後までプリシーさんに睨まれていたので、少し名残惜しかった。


「メサさん、少し変わった人ですね」

「人からメガトリプルヘッドメカトルネードゴーストオクトパスロボデビルカミシャークになったらそりゃ何かしら変わってしまうよ」

「えっ、……元々人間だったんですか?」

「あーごめん、嘘」

「うーん。掴みどころが難しい」


 きっと良い子であろうサンディーにそこまで言わせてしまうのはさすがに申し訳ない。すこし大人しくしなくては。


「それで、傭兵団になるにはどこへいけば?」

「あっ、はい。案内しますね」


 酒場を離れて立派な城を通り越し、少し歩くと3階くらいはありそうな木造の建物へとたどり着いた。

 酒場ハローワークとは違い、小さな看板が開かれた門の隣にかけられており「パールラグ傭兵団」と掘られていた。

 門をくぐると、まず広がっていたのは訓練場のようだった。

 剣、槍、斧、近接武器でカカシを切りつけている人もいれば、ボウガンや弓、銃で的を狙っている人たちもいる。結構うるさかった。


「では、メサさん。わたしは荷物を置いて来ますので、広場で待っていてください」

「えっ心細い」

「すぐ戻って来ますから」


 サンディーはそう言ってそそくさと訓練場奥の建物へ行ってしまった。

 あぁ息苦しい。傭兵なんて前の世界で言う体育会系みたいなものだろう? なんでそんな暑苦しいところに来てしまったんだ。やはりどの世界も流されて生きるのは良くないようだ。

 視線のやり場にどうしようもなくなりキョロキョロしては、はた俯いていると、

 

「おい、なんでアンタがここにいんだよ」


 と、もう面倒なイベントの前ぶりみたいなセリフが私へと投げかけられた。

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