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ライラック

作者: 熊猫ルフォン

初投稿です!もし時間があれば寄っていってください!

「お、きみいい筋肉だねー、ラグビー部の見学に来ないかい?」


「サッカー部は可愛いマネージャー募集してまーす」


 春、校門の前に咲く身長の3倍はありそうな桜の木の下で少年は立ち尽くしていた。


「初心者大歓迎! バドミントン部はこちらー」


「県大会目指して! バスケ部は経験者募集してまーす!!」


 桜の前にたたずむ少年、御堂康平みどうこうへいは静かに驚いていた。


 中学当時は家からの近さだけでなく、運動部の種類の多さ、各部活の活動成績などを見てこの高校への進学を選んだ御堂だった。だが、昇降口前をアリすらも通さないほど人が密集しており、流石に嫌気がさした。


 しかし校舎に入るためにはこの群れを抜けるしか道はなく、


「お、君部活は決まった? 決まってないならカヌー部なんてどうだい?」


 と、肌を痛々しいほど焼いた褐色の男に捕まってしまった。


「い、いえ。結構です」


 驚きつつも苦笑でかえす。


「でも入る部活探してるからここにいるんでしょ? なら見学だけでもー」


 御堂は『少ししつこいなぁ』と内心毒づき、


「すみません入る部活は決めてるんですー」


 と、軽く流す。


 この場で行われる運動部達の勧誘。その熱気は暑苦しいにも程がある。


 周りを見わたしても、止まらない勧誘という名の先輩達による弾圧に、辟易している新一年生がちらほら。


「へーじゃあ何部に入るの? もしうちらカヌー部のライバル、アイススケート部に入るっていうなら君をここで排除しなければならないんだけど……」


 さらりと恐ろしい言葉を耳にし、御堂は答えた。


「僕、文化部入るんで」


 カヌー部の勧誘をしていた褐色の男が目を丸くした。


 だがそれは当たり前の反応だ。


 なぜならこの桜高校には囲碁将棋部はおろか吹奏楽部でさえないのだから。


「そ、そうなんだ。桜高校まで来てあそこに入りたいだなんて変わってるね」


 彼氏彼女の関係なら明らかにメンヘラ認定されるようなしつこさを誇っていたカヌー部勧誘係の男。そんな彼が身を引き、別のターゲットを探しに昇降口とは反対へと歩いていった。


 すると今度は、


「君、バドミントン部入らないかい? 初心者大歓迎だよー」


 眼鏡をかけた青年が希望の熱を持って話しかけてきた。


 御堂はその熱を平然と無視し、人混みを抜け、やっと校舎内に入る。


 彼はこんな運動部の熱がきらいという訳では全くない。


 中学では部活最後の大会で涙を流す者、満面の笑みを浮かべる者を見て、そういう熱情のワンシーンに心を動かされたものだ。だからこそ彼の歩みは運動部がいない校舎に入り、3階のある部屋に向かう。


 3年8組。


 桜高校では各学年8つの教室が用意されているが、少子化に伴い生徒数は減っていき、今は3年生でさえも6クラスしかない。つまりここは空き教室だ。


 そんな3年8組の立てかけの下にここが何部かを示すものがある。



 花の写真だ。


 雨露に打たれた小さく白い花の写真。


 御堂は入学式の日、この教室の前で、今見ているものと全く同じ写真を見た。


 あの日、声が聞こえた気がした。


 それは目の前にある写真から聞こえた。


 その時彼は胸を打たれたのだ。


 この花の、雨露の、いや花も雨露も一度に閉じ込めてしまう写真という名の言葉に。


 ガラガラと引き戸を開けるとーー


 150センチ後半くらいだろうか、ショートカットの幼さを感じさせる女子生徒が御堂を見て驚いたように、


「だ、誰ですか!? な、な、何のようですか!?」


 と、文体だけ見れば大きな声だが、実際は御堂の耳にもギリギリ届くくらいの小さな声で驚きを伝えた。


「あ」

 

 御堂も戸惑いを隠せなかったがすぐに。


「ノックもせずにすみません。入部希望者なんですがー」

 

 引き戸を小突いて扉の裏にある写真を示す。


 少女はそれを聞き、少し考える仕草をして、


「え、あの。一応確認ですがーうちが何部かわかってます?」


 さっきまでの運動部の先輩では考えられないような控えめな様子で言葉を放つ。


 何のために自分は写真を示したのか、と御堂は思いながらも、


「え、写真部ですよね??」


 と、かえす。


 少女は驚きと安堵をわかりやすく小さな顔に浮かべると、


「よ、よかったぁ。殺されるかと思いましたよ」


 なんて物騒なことを言い、急にテンションを上げ、


「と言うことは1年生だよね? と言うことは後輩だよね?」


 同じ意味の質問を繰り返す。


 御堂が少し戸惑いつつも、


「あ、はいそうです。あの……なんかまずかったすか?」


 と、聞き返す。


「いやいや大歓迎だよ! 大・歓・迎! よかった、ほんと良かった! これで部活続けられますよ先輩!!」


 少女は天に向かって拳を突き上げた。


 最初のおどおどした感じは何処へやら。


 御堂を後輩と確認した途端、少女の顔に浮かんでいた緊張が消え、喜びが現れる。


「あ! いきなり盛り上がっちゃってごめんね」


「いえ、大丈夫です。むしろ楽しそうな人でよかったです。」


 と、取り繕った。


「ところで1ついいですか?」


「うんうん。なんでも聞いてくれたまえ」


 キャラ変について行くのを諦めて御堂が聞く。


「部活続けられますって叫んでましたけど、どういうことですか?」


 その問いを受け彼女は、ギクゥ!! と顔から音を出す。


「そ、それはね……うちの写真部は去年までは6人いたんだけど、4人が3年生の先輩達でさ、先輩達が引退した後は部員が私と幽霊部員の子の2人になっちゃったんだよね」


 桜高校では部員が最低3人はいないと部活として認められない。そう入学式に配られたパンフレットに書いてあった。


 どうやら部員が足りなかったらしい。


「桜高校ってみんな運動部目的で入ってくるじゃん? だから他の文化部もどんどん潰れちゃったらしくて。先輩達が奇跡的に部員を4人集めて創始したんだけど、もう2人になっちゃって絶望してたの」


 なるほど、だから大・歓・迎! なのかと1人でに納得。


「なら部活続けられて良かったすね。僕は、御堂康平って言います。これから仲良くお願いします」


 そう言い御堂は腰を折る。


「こちらこそほんっとありがとー! 私は秋風カエデ! 1年間よろしくね!」


 少女は笑顔でそう言った。


 写真部というマイナー部。その部員とは思えないほどの明るい笑顔を向けられ、御堂もつられて微笑んだ。


 こうして御堂康平の写真部生活が幕を開けた。



 ーー2ヶ月後。


 校門の彩りは艶やかな緑に変わっていた。



「こーへー、私のカメラとってー」


 ダルそうに少女が言う。


「先輩の方が近いじゃないすか」


 と、御堂は軽く突っ込む。


 御堂にはこの2ヶ月でわかったことが2つある。


 1つはカエデ先輩が思ったより、というかどうしようもなくダメな人間だということ。


 初対面では清楚系の人間かと思いきや、突如明るくなったりと二重人格を疑った御堂。だがその考えは1週間とたたずに訂正されることになった。


 否、ただのダメ人間なのだ。


 完全初対面で見せたおどおど清楚な感じが偽物という訳ではない。


 彼女は目上の人、いや、対等の立場の人に対しても下からなのだ。


「いーじゃーん。私写真整理で忙しいのー!」


 だが目下。後輩と2人きりになるとこれだ。


 すぐに人をこき使い、自分は全く動こうとしない。


 まぁそれに文句がある訳じゃないのだが。


「先輩。写真整理するって言っても、何に使うんすか? それ」


 少女は一見何百枚もある植物の写真を何をするでもなく眺めている。


 もう1つ気づいた点は写真部の存在が認知されていないということだ。


 御堂は中学も写真部に所属していたが、そこでは生徒会の広報部と協力し、行事やボランティア活動中の生徒の写真を生徒会新聞に載せる。

そんな仕事をしたものだ。


 最も、御堂が本当に撮りたいのは他のものだったのだが。


 だが、この桜高校写真部では何もしていない。


 別にしてこなかった訳ではないらしい。それは去年までの活動記録を見てわかった。


 体育祭や文化祭、球技大会や現在3年生の修学旅行などの写真が貼り付けられた先輩たち自作の新聞みたいな物がいくつもあったからだ。


 おそらく今の代になってから何の活動もしなくなったんだろうなぁ、と御堂は先週のクラスでの出来事を振り返る。 


「高木くんって何部なのー?」


 クラスで新しい仲間と体育祭の話し合いをしているとそんな話題になった。


「バスケ部だよ。毎日先生のしごきがきつくてさぁ」


「えーかっこいい! 今度見学行きたいなぁ」


  羨ましい奴だと思いながら御堂が話を聞いていると、


「そういや御堂って何部なん?」


 と、仲間の1人に聞かれた。


 御堂は当然、『写真部』と答えた。


 その瞬間ドッと笑いが起きた。


「この学校に文化部なんてないでしょー! やめてよ御堂くんー!」


 なんて盛大に突っ込まれた。


 御堂はそれを聞き、『ジョークジョーク、ジョークだってば』と、仕方なく自分を帰宅部の部員にした。


 苦い記憶を払拭するように、強く言う。


「先輩、たまには写真部らしい事しましょう。僕が入部してからまだ何もしてませんよね!」


「だってー、私たちの写真なんて誰も見てくれないじゃーん」


「先輩が見せようとしないからですよ! 桜高校なんですから部活してる生徒の写真撮って新聞でも作ればみんな喜びますって!」


「私、人の写真撮るより植物の写真撮る方が好きなんだもん。それにこーへいも見てるから分かると思うけど人見知りなの!」


「それはわかってますけどー」


「こーへいも私みたいに好きなの撮ればいいんだよ。せっかく部活として認められてるんだしさぁ、こーへいって、何の写真撮るのが好きなの?」


「それは……」


「それは??」


「秘密です」


「へ??」


「秘密です」


「えーなんで? 教えてくれてもいいじゃーん!」


「先輩が写真部の活動するなら教えますけど?」


「ケチ」


  見た目どおりでこの人は幼いなと思いながら、御堂は時計を見る。少女と駄弁っていただけだというのに、6時を回っていた。


「今日はもう帰ります。鍵くらいは自分で閉めといてくださいよ?」


「わかってるってー。じゃーねー」


 その言葉を聞き、御堂は引き戸を閉めた。


 電車から降りて家への夜道を歩きながら、先輩の写真の腕ならみんなをあっと言わせられるのになぁ……と思いつつ、 入部したときは撮れると思っていた物が、なかなか撮れないことに御堂は疑問を感じていた。



 ーーそれから数ヶ月が経ち、夏休みが明けた。



  いつも通り3年8組の戸を開けようとすると、中に先輩と他にも数人、人がいるのを感じた。


「カエデちゃんさぁー、部活なんてさっさとやめちゃいなよー。空き教室とはいえうちらみたいに溜まり場に使いたい人だって他にもいるんだよ??」


「2人しかいないのになんで教室使ってんの?? まじあり得ないんだけどー」


「それは違うって。3人になったらしいよこの部活、1年生の子1人入れてさぁー」


「え、そうなの? うわーその子かわいそー。カエデちゃんみたいにこーやって責められちゃうかもねー」


「あっははは!」


 3人ほどの笑い声が響き渡る。


「あ、あの! 御堂くんには、な、なにも、しないでください!」


「えー声張り上げちゃってきもーい」

「そんなに後輩が好きなんだー」

「ほらこの新聞? だって一年前のでしょ? なんでこんなん残してんの?」


「ちょ、やめてください!」


 教室の中で何かが破れる音がした。


 それが先輩たちの残してくれた新聞だと気づくのに1秒とかからなかった。


「だいたい桜高校に文化部なんてあり得ないんですけど」


「本当それー早くこの教室あけてくんないー?」


「てかなにそれ。もーらいっと」


「あ、待って!」


「うわ何これ。全部植物の写真じゃん。人間の写真1個もないよ」


「写真撮らせてなんて言えないんでしょ、これがコミュ症の末路って感じー」


「はいカエデちゃーん、教室開けてくれなきゃこの花の写真も破いちゃうよー」


 また、何かが破れた音がした。


 ふと手に痛みを感じ、御堂は自分が怒りで拳を握りしめているのだと気付いた。


 ガンッと引き戸が勢いよく音を立てて開いた。


 すると、中にいた3人と今にも泣きそうな少女が一斉にこちらを見た。


「え、なにあんた?」


「康平……!」


「え、この子が新入部員の子? うわ先輩のピンチに駆けつけるとかかっこいいねー」


「先輩、行きましょう」


 御堂は少女の手を取り教室を出た。


 女たちが何か言っていたが、少女を連れて足早に校門を抜け、近くの公園に入った。


「……先輩」


「ごめん……ごめんね……」


 小さく嗚咽が混じった声で少女が呟く。


 それからしばらく少女の顔には雨露が伝っていた。


 ーー10分ほどそうしていただろうか。


「ふぅ。ありがとね康平」


 少女が頬の滴を拭きながらそう言った。


「いや、僕はいいですけど。先輩大丈夫すか?」


「まぁたまにあったからね。あいつらは去年の終わり頃から教室渡せってうるさかったし……ううん。本当は私が気に入らないんだと思う。1人でも意地張って部活続けてたし。だからごめんね、巻き込んじゃって」


 少年は黙って聞いている。


「もう大丈夫だから。私、最初康平にあった時もう1人部員がいるって言ったよね。けどその子も巻き込んじゃって……だからもう部活にも顔出さなくてもいいからね」


 少女はさらに続けた。


「恥ずかしいとこ見せちゃったなぁ。先輩達にも悪いことし……」


 少女の言葉を少年が遮る。


「先輩」


「ん?」


「悔しく、ないんすか」


  一瞬の沈黙。


  あんだけ散々言われて、それも今回だけじゃないなんて。


「悔しく、ないんすか」


 否。悔しいのは、御堂だった。


 自分の先輩がいじめられているとも気づかず呑気に接してきて。


 自分への甘えが日々誰にも甘えることのできない先輩の弱さだとも、いつもの笑顔が取り繕っている笑顔だとも気づかずに。


 いや、薄々気付いてたのかもしれない。


 だから御堂は写真を撮れなかったというのに。


「……悔しいよ」


「3年生の先輩たちが残してくれた大切な思い出も破り捨てられて、康平を責めるって言ってた時も何もできなくて、すごい、すごい悔しい」


 この人がとても優しい人間なんだと、御堂は今始めて気づいた。


「違います」


「え?」


「先輩は悔しくないんですか?」


「だから悔しいって……」


 再び少女の言葉を少年が遮る。


 いや、かき消した。


「先輩は! 悔しくないんですか!? 3年生の先輩たちじゃない! 俺のことでもない! ただ、ただ! 先輩は…… 自分の写真が破られた時、何も感じなかったんすか!?」


「ッーーーー!」


「今なら分かります。先輩がこの部活を残すためにどれだけの苦労をしてきたか」


 胸にこみ上げる物がある。


「大変だったはずです。3年生の先輩たちのために。僕みたいな新しく入ってくるかもしれない1年のために。でもそれだけじゃないはずです。先輩が部活を残したのは、写真を撮りたかったからじゃないんですか?」


 頬を熱い何かが伝う。


「あの時整理してた写真だって、量だけ見たら一日に何枚も撮ってる量でした」


「先輩は、写真が好きなんですよね?」


 少年はその問いの答えを知っている。


「3年8組の前にある写真、入学式の時にあの写真を見て写真部に入ろうって決めました。あの写真からは言葉が……声が、聞こえたから。ただ写真を撮るのが楽しいっていう、声が」


「康平……」


「先輩。やりましょう僕たちで。あいつらを見返してやりましょう。写真部の存在を学校中に知ってもらいましょう。先輩が、僕が、撮りたいものを撮るために」


 力強く、そう言った。


 それに対し先輩も

 力強く、頷いたのだった。



 ーー文化祭も終わり、肌寒い風が吹き始める頃。



「お、なにこれ〜」


 生徒の1人が昇降口前の掲示板を見て言った。


「ん? なんかあんの?」

「どーしたん?」

「見てこれー文化祭の写真だよー!」

「え、本当だ! 私写ってるじゃん!」 

「どれどれ見せてー」


 ぞろぞろと人が掲示板の前に集いだし、その様子を少女と御堂は下駄箱の裏でひっそりと見ていた。


「大丈夫かなぁ、大丈夫かなぁ」


 隣から情けない声が聞こえてくる。


「大丈夫ですって。人も集まってきてますし、結構好感触じゃないすか。写真撮ってる時も割とみんなノッてくれてましたし」


 文化祭の時、空いている時間を使っていろいろなところで少女と写真を撮って回った。


 割とみんながそれを受け入れてノリ良く付き合い、少女もなんやかんや笑顔でいた。


 そんな回想に御堂が浸っていると、


「えーなにこれー?」

「写真部??」

「いやまじできもーい」


 と、聞いたことのある声が耳に障った。


 咄嗟に隣の少女を見る御堂だが、彼女からは強い意志が感じられ安心した。


「てかなんでみんなこんなん見てんのー?」

「写真なんか見て面白いー?」


 と小馬鹿にした態度で人の群れに割って入る。


「あ、人間の写真とれてんじゃーん」

「カエデちゃんもがんばったんだねー」


 女たちが掲示板を見ていると、


「どいてくれない?」


 と何処かから声がした。


「は?」


 女たちが振り返り、場が静寂に包まれる。


 すると、1人の青年が


「馬鹿にするくらいなら見なきゃいいじゃんか。俺たちは写真が見たいんだからどいてほしい」


 そう言い放った。


 その後ろから、


「そうだよ。その写真私も見たいんだから!」


 と、1人の女子生徒が言う。


 それに続き賛同の声が少しづつ上がり、静寂を切り裂いていく。


 そんな声の中で女たちはばつが悪くなったようにその場を離れていった。


 隣にいる少女を見ると


 「こ〜へい〜」


 と、今にも泣きそうだ。


 掲示板の方からは、


「なんか写真見てると元気出るわー!」

「こっちの花も綺麗〜」


 という言葉が聞こえてくる。


 御堂は、なんだこのサクラじみた発言は、と少し笑った。それを言わせるだけの力が少女の撮った写真にあることを再確認しながら。


 3年8組の前にある白い花の写真。


 あれを見た時に自分が感じたように、みんなにも声が聞こえているのだろうと思った。


「部室いこうよ」


 突然、少女が言う。


 『今すか?』と御堂が返すと、『いいから』と少女は彼の手を引き3階へ向かう。引き戸を開けて教室に入ると机の上に一冊の本が置いてある。


 ーーアルバムだ。


 写真は2枚しか入っていない。


 3年生の先輩と思われる人たちと隣の少女が写っている。


 その横に一体いつ撮ったのか、御堂が体操服姿で笑っている写真があった。


「これは……」


「どうこれ? よくない?」


 と少女が言う。


「まだまだ6月半ばだしね。私の引退までに時間があるのです!」


 御堂は静かに聞いている。


「康平が来てから部活がすごい楽しくなったんだ」


 少し微笑みながら。


「だからこのアルバム全部埋めてさ、私が引退する時プレゼントしてよ。ね?」


 そう言うと少女ははにかんだように笑った。


 ーーパシャリ。


 シャッターを切る音がした。


「これが3枚目すね」


 手に持ったスマホを見せて少年が言う。


「あ、ちょっとそれはずるいって!」




 ーーーーやっと。


 やっと自分が望んだ笑顔が撮れたと、少年は微笑むのだった。





















ここまで貴重な時間を割いて読んでくださった方々本当にありがとうございます!

執筆自体初めての体験なので至らない点がいくつもあり、読みにくさを感じた方もいると思います。そんな方もここが読みにくかった、分かりにくかったという意見を残して頂けると幸いです!これから皆さんに楽しんで読んでもらえる小説を造れるように精進します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーの流れとしては良かったですね。 運動部が主力を占める高校。そこでは既に文化部という考えはなくて、最早それはないようなものとされていた。そんな中でも入った部活には一人の先輩がいて…
[良い点]  久しぶりに、こんな作品に出会いました。  童貞作(処女作)とはいえ、物語の構成は非常に良かったです。というのは、物語の均等が取れていてバランスが良い。  順序立てた構成になっているから、…
2020/06/23 21:46 退会済み
管理
[良い点] 柔らかい文体でサクッと読めました。 嫌がらせの描写もあえて事実だけを描き、心情はその場所を離れてから、と言った配慮もよかったです。 [一言] Twitterフォロー、ありがとうございます。…
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