第零章 〜元の世界〜 第三話
〜桜歴2706年〜 某戦線 二年後
バラバラバラッ!!ドォンッ、ズドォンッ!!
―― ヒュンッ、シュボッ!!バリバリバリッッ!!!
深く生い茂た山林の中、俺の頭上数十センチを銃弾が飛び交い、身を隠している木や岩に跳弾して鈍い死の音を奏でている。
正面には僅か百メートル足らずの距離でお互い銃を構え撃ち合っていた。
「加藤大尉っ!、敵は側面からも進軍、我々を包囲しつつあります!
このままでは十字砲火を受け身動きが取れなくります!!」
俺は今某戦線にて、戦闘行動を強いられていた。
本来であれば、敵陣深くまで侵入し、重要拠点の破壊工作を行う手筈だったが何故か作戦は見破られ、敵の待ち伏せによる交戦状態へと突入してしまった。
状況は絶体絶命とも言える状態になりつつあった。
作戦遂行時の隊員数は俺を含め二十四名。小隊規模であるが極めて高度に訓練された精鋭達だ。
各隊員は過酷な訓練や同じ釜の飯を共にした信頼の置ける戦友達だ。
作戦開始時、部隊を三つに分け各方面から侵入して対象の破壊効率を上げる作戦だったが、それが仇となっていた。
敵は俺達を発見後、通信妨害を起こす粒子を周囲に散布し、真面に連携が取れない状態にしたのだ。
しかも最初の奇襲により一名の犠牲者が出ていた。
俺は飛び交う銃弾の中、部隊長の加藤大尉に偵察した情報を報告して今後の指示を求めた。
「楠木!、既に本作戦は遂行不可能と判断する!他分班とは後退しつつ合流し、撤退行動を図る。
しかし妨害粒子の勢で交信距離は百メートルを維持できるかどうかという状況だ!
先程B分班とC分班には、俺の指示を伝えるために檜木、草薙を向かわせた!」
「司令部に救援要請は送れたんでしょうか!?」
「何とか虎の子の新型通信装置で司令部に救援要請は送れたがデータの劣化が激しい!この妨害粒子は従来の物とは違うようだ。
おそらく司令部では俺達の正確な位置が把握できてないはずだ。
確実に救援してもらうため、他の班と合流次第妨害粒子領域を抜け再度正確な位置情報を送るぞ!」
俺はその指示を受けとんでもない賭だと思った。
そもそもこの状況で檜木中尉と草薙中尉が他の班に合流できるかもわからないし、妨害粒子の影響もどこまで続いているか現場では不明だ。
加えてこちらが最精鋭の兵士達と最新装備を携えた部隊とはいえ、敵の練度もおそらく特殊部隊級、その上こちらの三倍は物量があると思われた。
更には二人が抜け一人が戦死しているため現状戦力は俺を含め5名しかいない。とは言え、ここで手をこ招いていれば待っているのは確実な死だけだ。
「なに、勘が良い中佐のことだ。直ぐに俺達を見つけて助けに来るさ。とにかく生き残るぞ!」
「「「「了解!」」」」
「射撃しつつ撤退行動!仲間を見捨てるなよっ、行くぞ!!」
(クソッ、こんなところで死んでたまるか!絶対生き残ってやる!!)
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺が部隊に配属されて二年以上が経過していた。
配属された部隊は国内でも最精鋭の部隊で、そこでの訓練と与えられた装備は世界最高水準のものだった……。
両連合の睨み合いからお互いが物理的に殴り合う戦争状態へ突入したのは、部隊に配属されてから半年後のことだった。
今まで膨らみ切った泡が破裂するかの如く、初戦から戦況は苛烈を極め、僅か一ヶ月間に双方合わせ三十万人以上の死傷者を出した。
前大戦ならいざ知らず、現代戦でこれほどまで死傷者が出たのだ。
その苛烈さは軍首脳部も頭を抱えるほどの想定外だったらしい。
そんな中、俺達部隊にもついに実戦が到来した……。
武力衝突を起こしてから二ヶ月後。最初に受けた作戦は敵兵站への妨害工作だったことを憶えている。初めての作戦も滞りなく成功させ、その後は淡々と任務をこなして行った。
戦争状態から半年が経つ頃になると、戦況はほぼ完全なる全面戦争状態へと突入していた。
双方の総戦力は武力衝突時に約二千万人だったらしいが、その僅か半年で一割を超える戦死者が出ていた……。
当初、世論はあまりの戦況の激しさに厭戦ムードになるかと思われていた。
しかし、両連合の好戦的な思想を持つ指導者達と戦争屋どもが世論を煽り操り世界中に憎悪と敵対心を植え付け徐々に世界は混迷していった。
そして、様々な思惑が入り混じった結果。戦況はコントロールする術を失い泥沼の戦争状態へと転げ落ちていった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達は撤退行動後、なんとか最初の目標地点にて他の班との合流を果たせた。
しかし、ここまでの戦闘行動で、半数近い戦死者を出し、生き残っている隊員も全員どこかしら負傷している。
既に負傷により生命活動の危険域になっている者もいて、状況はかなり厳しいものとなっていた。
辺りを警戒する……。一時的にでも敵を振り切れたのか、今のところは攻撃されていないことを確認できた。
俺自身は幸いなことに真面に撃たれずに済んでいるがそれでも数箇所の裂傷を負っている。
動く度に鋭い痛みが走り、眉間に皺が寄るのが分かる。
医療用ナノマシンが含まれている応急スプレーを傷口に吹き掛けながら加藤大尉から次の指示を聞いた。
「残念なことに我々の部隊は戦力を半分近く失い、生き残った者も三割が真面に歩けないほどの重傷を負っている。
しかも状況は未だ悪い。既に当初の再通信予定地点にいるが敵は予想よりも広範囲に妨害粒子を撒いた影響なのか、まだ通信可能状態が充分とは言えない」
それを聞いて、俺は少なくない動揺を受けた。
つまり、当初予定していた救援地点に向かっても意味が無い可能性が極めて高いということだからだ。
加藤大尉が「計画の変更をする」とホログラムマップを出力しながら指示を出した。
「ーー計画はこうだ。ここから約二百メートル先にある岩場を拠点とし、徹底防御を図る。
防御中に動ける者が妨害粒子の影響領域を脱出後、通信を再開させ、我々の援護と正確な救援地点を知らせる。
内容は単純だが速さが俺達の生き残る鍵だ。そこで動ける者は――」
加藤大尉が俺達を見回し、続けて俺、檜木、江田と指示をだした。
「お前達はこの中で負傷も少ない。装備は最低限とし、とにかく速度を優先させろ。幸い新型通信装置は俺を含めて三機ある。
救援の通信を送ってから一時間以上が経過している。予定通りなら近くを飛んているはずだ。
誰か一人でも成功すれば、俺達が生き残る可能性が高まる。頼むぞ」
俺はこの任務が仲間を見捨てるようで苦しい気持ちとなった。
実際のところ仮にこの作戦が成功しても半ば仲間を捨て石にするということだからだ。しかし、この任務で満足に走れるのはこの三人しかいない事も確かだった。
加藤大尉はまだ問題なく動ける感じではあるがこの人は指揮官だ。
防御拠点で最後まで戦い残ろうとするだろう。他の二人も似たような苦い表情をしていたが残りたい気持ちを噛み殺しているようだった。
俺達は指示にしたがい任務に移った。
「「「了解」」」
「よしっ、作戦を開始する。直ちに行動しろ!」
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