第零章 〜元の世界〜 第一話
なろうの異世界物に色々思う所がありまして、書いてみた小説です。
人は、誰しも生まれを選べない。生まれた時代、生まれた場所、生まれた家で人生の何割かは決まってしまうものだ。
時には生まれた時代で、平凡だろうが非凡だろうが枷を嵌められ足掻いて捥がかなければならないこともある。
俺もそんな時代に生まれた一人だって思い知らされるのにそう時間は掛からなかった…。
〜桜歴2701年某月〜西暦2041年
朝の朝食は決まって納豆と味噌汁、玄米入りの炊いたご飯と少々の惣菜が並ぶ。
少なくとも俺が離乳食を離れ、飯を食っている自覚がある頃から全く変わらない献立だ。
リビングでは親父はいつも通り電子ペーパーから新聞記事を読んでいて、母さんはホログラフィックモニターに映るニュースを見ながら朝の支度をしている。
ここ数年殆ど変わらない日常だ。多少変わったとすれば、二人とも歳を取った様に見えることか。
(確かに俺が生まれてから十七年も経てば多少は老けるか・・・)
「仁、ぼけっとしてないで早く朝食済ませなさい!これから朝練あるんでしょ?お爺ちゃんに怒られるわよ!」
俺がまだ寝惚けた頭で、そんな事を耽ていると案の定母さんに怒られた。これもいつもの日常だ。
「あなたも早く会社へ行く支度してください!それから新聞を読む前に食べた食器は台所に運ぶようにっていつも言ってますよねっ?」
矢継ぎ早に親父にも飛び火した。これもまた日常だ。
いつも通り親父が怒られている中、いそいそと飯をかっくらい朝食を済ませる。
これ以上の追求を受けないよう、朝練のため道場に向かう支度をする。俺が修練している武術の師匠である祖父曰く、
『我が楠木流剣術は、古戦の時世より八百年の歴史を持ち今尚時代に併せ進化し続ける最強の武術である!!』
と、古さもさる事ながら剣術なのに無手や投擲術も併せ持つ。
それだけ聞くとかなり怪しげな武術に思えてくる。しかも毎朝これを開口一番に聞かされるので耳にたこができそうだった。
十年以上も習い修練しているが、俺の記憶している限り一日として聞き漏らしたことがないことに、今更ながら酔狂な爺だと思う。
ただし、俺の知る限り実力は紛れもなく本物。稽古で放たれる殺気は常人であれば失禁するほどだ。
本人は決して言わないが稽古で当てられる殺気は実際に人を斬った事があると俺に思わせた…。
そんな少し畏怖いことを考えながら支度が終わり、道場に向かう途中、突然親父に呼び止められた。
「仁、ちょっと待ちなさい!今すぐこっちに来なさい!」
普段穏やかな性格の親父から考えられない緊迫した様子で呼ばれ、何事かとリビングに戻ってみれば、二人ともホロモニターのニュースに釘付けになっていた。
映っていた国営放送のニュースキャスターは、穏やかな微笑が好印象の女性なのだが、この瞬間は今までに見たことがないほど緊迫した表情をしていた。
「…繰り返します。兼ねてより懸案であった、米帝の常温核融合炉の実用化によるエネルギー貿易摩擦問題によって、二年前に起きた両連合による局地的武力衝突[リンド紛争事件]の調停交渉が本日未明決裂したと政府より発表がありました……。
これにより東西亜欧連合体は我が皇国が所属する米亜共同連合に対して、本日未明、全領域宣戦布告を宣言。
米亜共同連合はこれに抗議すると共に連合間非常事態宣言を要請。
これにより我が国は第一種国家非常事態宣言を本日正午丁度に政府より正式に発令する予定とのことです。
発令後、我が皇国は戒厳令が発動、国家治安警非常事態へと移行いたします……。続いて――」
俺は余りに日常とかけ離れたその内容に、呆然とニュースを眺めていたが、あの事件を朧げながら当時の認識を思い返した。
二年前のあの事件が起こった時、一部の者達は全面戦争になると騒いでいた。
俺自身は対岸の火事のような感覚だっと憶えている。
世論や電報空間の中では、全面戦争にならずに収束していくと思っている人達が俺の知る限りでは殆どだった。
だが、現実は全く違う方向へと流れていくようだ……。
「……戦争が始まるのか……」
親父はそう独白して深刻な顔で黙り込んだ。
母さんを見ると、現実を受け止められてないような顔を貼り付けている。
多分俺も似たような顔をしながら、全く実感が湧かない現実に朝練も忘れそのニュースをただ茫然と見ているしかなかった…。
しばらく導入が続きますご容赦ください。暫くは元の世界の主人公の異世界に行くまでの軌跡を辿る形です。
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